aiohttpとは何か:Python asyncioベースの非同期HTTPライブラリを実務で使いこなす完全ガイド
aiohttp とは — 概要と位置づけ
aiohttp は Python の非同期 I/O ライブラリで、asyncio をベースにした HTTP クライアント/サーバー機能を提供します。クライアント側の非同期 HTTP リクエスト送信、サーバー側の非同期 Web アプリケーション(aiohttp.web)や WebSocket の取り扱いが主な用途です。シングルスレッドのイベントループ上で多数の同時接続を効率よく扱えるため、I/O バウンドな処理(多数の外部 API 呼び出しやストリーミング処理など)に適しています。
開発背景とライセンス
aiohttp は、asyncio の登場以降に普及した非同期プログラミングのためのライブラリ群(aio-libs)の一つとして開発されました。HTTP/1.1 と WebSocket をサポートし、Python の async/await 文法を活用したモダンな API を提供します。ソースコードは GitHub で公開されており、ライセンスは Apache License 2.0(執筆時点の情報。最新版は公式リポジトリを参照してください)です。
主な特徴
- asyncio ベースの非同期 API:async/await と自然に統合され、ノンブロッキングな通信処理を実現。
- クライアントとサーバーの両方を提供:aiohttp.ClientSession による非同期クライアント、aiohttp.web による軽量ウェブアプリケーションフレームワーク。
- WebSocket 対応:サーバー/クライアント双方で WebSocket を扱える。
- ストリーミング処理:大容量のアップロード/ダウンロードやチャンク転送を効率的に処理可能。
- ミドルウェア、ルーティング、セッション、コネクタ設定などウェブアプリ構築に必要な機能群。
基本の使い方(クライアント)
非同期クライアントの基本パターンは、ClientSession を async with で使い、get/post 等のメソッドを await する形です。セッションはコネクションプールやタイムアウト設定、SSL オプション等を一括管理します。
import aiohttp
import asyncio
async def fetch(url):
async with aiohttp.ClientSession() as session:
async with session.get(url) as resp:
return await resp.text()
asyncio.run(fetch('https://example.com'))
重要なポイント:
- ClientSession は再利用してコネクションを有効活用する(頻繁に作成/破棄するとパフォーマンス悪化)。
- タイムアウトは ClientTimeout で制御。適切に設定してハングを防ぐ。
- 大きなレスポンスは .text() や .json() の代わりに .content.iter_chunked() などのストリーミング手法で処理する。
基本の使い方(サーバー)
aiohttp.web は軽量なウェブフレームワークとして、ルート定義、ミドルウェア、ハンドラの async/await を用いた実装を提供します。簡単な「Hello, world」は次の通りです。
from aiohttp import web
async def hello(request):
return web.Response(text='Hello, aiohttp!')
app = web.Application()
app.add_routes([web.get('/', hello)])
if __name__ == '__main__':
web.run_app(app, host='0.0.0.0', port=8080)
運用上のポイント:
- 開発サーバーとしては web.run_app で十分だが、本番ではリバースプロキシ(nginx 等)を併用するのが一般的。
- 高負荷環境ではプロセス数を増やす(複数プロセス × イベントループ)ことで CPU ボトルネックを回避する。
- uvloop を用いるとイベントループの実装を高速化できる(Unix 系での効果が顕著)。
高度な機能と実践的な使いどころ
以下に、実務でよく使われる機能や設計上の留意点を挙げます。
- WebSocket:リアルタイム通信(チャット、進捗通知等)で活用。接続維持や ping/pong、切断時の再接続ロジックに注意。
- ストリーミング:大きなファイルをダウンロード/アップロードする際はチャンク処理でメモリ消費を抑える。
- ミドルウェアとハンドラ層の分離:認証、ロギング、エラーハンドリングをミドルウェアで共通化。
- コネクタと接続制御:TCPConnector の limit, limit_per_host を使って同時接続数をコントロール。
- セッション管理:ブラウザ向けセッションやクッキー処理は aiohttp.web でサポート。サーバーサイドセッションを Redis 等と組み合わせる設計が一般的。
パフォーマンスとスケーリング
aiohttp の強みは「大量の待ちが発生する I/O バウンド処理」を少ないスレッドで効率よく扱える点です。ただし、CPU バウンド処理やブロッキング I/O をイベントループ内で行うと全体のレスポンスが停滞します。対策として:
- ブロッキング処理は run_in_executor を使って別スレッド/プロセスで実行する。
- uvloop を導入してイベントループの性能を向上させる(Unix 系で有効)。
- 複数プロセス(例:systemd や gunicorn のワーカー)でスケールアウトする。
- プロファイリングでイベントループの遅延(loop time)やコネクション待ちを監視する。
制限・注意点
- HTTP バージョン:aiohttp は主に HTTP/1.1 をサポートします。HTTP/2 や HTTP/3 のネイティブサポートは公式には含まれていないため、必要であれば別ライブラリやプロキシ(nginx, envoy 等)との組み合わせを検討してください。
- スレッド安全性:aiohttp の多くのオブジェクト(ClientSession 等)はスレッドセーフではありません。マルチスレッドから使う場合は注意するか、各スレッドでセッションを作る。
- リソースリーク:セッションやレスポンスを閉じ忘れるとコネクションが枯渇する。必ず async with や close() を用いる。
- 依存関係:内部で yarl, multidict 等のライブラリを利用している。バージョン互換性に注意。
実運用でのベストプラクティス
- ClientSession を使い回してコネクションプールを活用する。
- タイムアウトを明示的に設定して外部サービスの不具合でハングしないようにする。
- 例外処理を入念に行い、ネットワーク障害(DNS 解決失敗、接続タイムアウト等)に強くする。
- リバースプロキシ(nginx など)で SSL 終端やロードバランシングを行う設計が現実的。
- テストは非同期コード対応のテストフレームワーク(pytest-asyncio 等)を使う。
導入例・ユースケース
aiohttp が向いているケース:
- 多数の外部 API を同時に呼び出すバッチ処理やプロキシサーバー
- リアルタイム性が求められる WebSocket ベースのサービス(チャット、通知)
- ファイルのストリーミング配信やアップロード/ダウンロードの中継
逆に CPU 集約的な処理(大量の数値計算など)は別プロセスや専用サービスに切り出すのが望ましいです。
まとめ
aiohttp は asyncio をフル活用した Python の非同期 HTTP ライブラリで、クライアント/サーバー双方を備え、WebSocket やストリーミングなど実運用で必要な機能を持つ一方で、HTTP/2 のネイティブ対応がない点やイベントループ上でのブロッキングの回避といった設計上の注意点もあります。I/O バウンドなユースケースで高い効果を発揮するため、用途に応じて uvloop の導入やプロセス水平分散、外部プロキシの利用などを組み合わせると良いでしょう。
参考文献
- aiohttp 公式ドキュメント
- aio-libs / aiohttp — GitHub リポジトリ
- PEP 3156 — asyncio (Python)
- uvloop — 高速イベントループ実装(GitHub)
- Python asyncio — 公式ドキュメント


