Lee Scratch Perryが創ったブラック・アークとダブの革新—レゲエの伝説と制作哲学

プロフィール — Lee "Scratch" Perry とは

Lee "Scratch" Perry(本名:Rainford Hugh Perry、1936年3月20日生〜2021年8月29日没)は、ジャマイカ出身のプロデューサー/アーティストで、レゲエとダブの発展に決定的な影響を与えた音楽家です。ニックネームの「Scratch」は、ジャマイカの音楽シーンでのキャラとDJ的なプレイを反映したもので、「The Upsetter(破壊者)」とも呼ばれました。

来歴の概略

ケンドール(ジャマイカ)生まれ。キングストンでレコード店に勤めた後、50〜60年代にはプロデューサー/ソングライターとして頭角を現しました。自身のレーベル「Upsetter」を設立し、ハウス・バンド「The Upsetters」を用いて多数のシングルやアルバムを世に送り出します。1970年代中盤には、自ら作り上げたスタジオ「Black Ark」を拠点に、既成概念を覆すプロダクション手法で数々の名作を生み出しました。

ブラック・アーク(Black Ark)と制作の思想

Black Ark は単なる録音スタジオではなく、ペリーの創造性と精神性が結実した「サウンドの礼拝堂」とも言える場所でした。ここでの制作は次のような特徴があります。

  • アナログ機器とテープを用いた実験的なエフェクト(テープループ、テープディレイ、バウンスによる飽和など)
  • エフェクトやミキシングを「楽器」として扱う発想(ミキサーで音を切る・長く伸ばす・消すなど)
  • 身近な物音や環境音、即興のヴォーカル・シャウトや呪文めいたフレーズの積極的な導入
  • ベースとリヴァーブ/エコーを軸にした空間設計—密度ある低域と余韻を生かした「間(マイナス・スペース)」の演出
  • 機材を改造したり、DIYの道具で独自の音色を作るアプローチ

ペリーの制作は技術とスピリチュアリティが混ざり合ったもので、時に「魔術的」と評される独特の音響世界を築き上げました。

代表作・名盤(プロデュース/自身名義)

  • Super Ape(Lee "Scratch" Perry & The Upsetters, 1976) — ブラック・アーク期のダブ名盤。幻想的で実験的なサウンドスケープが特徴。
  • Heart of the Congos(The Congos, produced by Lee "Scratch" Perry, 1977) — ソウルフルで深いハーモニーをペリーが独自の空間に閉じ込めた名盤。
  • War Ina Babylon(Max Romeo, produced by Lee "Scratch" Perry, 1976) — 政治的かつメロディアスなレゲエ・アルバム。ペリーのプロダクションが曲の説得力を増幅。
  • Police and Thieves(Junior Murvin, produced by Lee "Scratch" Perry, 1976) — タイトル曲はパンク/レゲエ双方に影響を与えた名曲。
  • Return of Django(The Upsetters, シングル/コンピレーション) — 初期の代表曲で、アップセッターのサウンドを象徴する一曲。
  • Roast Fish Collie Weed & Corn Bread(Lee "Scratch" Perry & The Upsetters, 1978) — ブラック・アーク期の多様性を示す作品。

代表曲ピックアップ(聴きどころ)

  • 「Return of Django」 — シンプルだがクセになるメロディとリズム。
  • 「Police and Thieves」(Junior Murvin、プロデュース) — 重いベースと空間処理による緊張感。
  • 「Wisdom」や「War Ina Babylon」収録曲 — 社会的メッセージ性とアレンジの妙。
  • Super Ape 収録のダブトラック群 — ダブのミックス技術を堪能できる。

ペリーの魅力を深掘りするポイント

  • 独創的なサウンドデザイン:既存の機材やテープ操作をとことん利用・改造し、他に類を見ない音像を作り出した点。ミキサーやエフェクトを演奏的に扱い、ミックス自体が「演奏」になっている。
  • プロデューサーとしての器量:単に音を録るだけでなく、アーティストの持ち味を引き出し、時に曲の方向性そのものを築く「共作者」としての働き。
  • ストーリーテリングとスピリチュアリティ:レゲエやダブに内在する宗教性・霊性(ラスタファリ運動など)を、サウンドとヴォーカルの配置で表現した。
  • 境界を壊すコラボレーション精神:ジャンルや国境を越えた交流を行い、ダブはロックやパンク、エレクトロニカにも影響を与えた。
  • 語られる「狂気」と創作の近さ:奇行や怪しい言説も多かったが、それが彼の創造性と表裏一体である点。伝説性が音楽の魅力を際立たせている。

技術的な見どころ(制作テクニック)

  • テープ・エコー/ディレイをリズム装置として使う:遅延がリズムの一部となり、打楽器やギターと交互に絡む。
  • 「削る」ミックス手法(drop-outs):あるパートを意図的に消すことでその後の反動やインパクトを生む。
  • 重層的な低域の処理:ベースを中心に据え、空間の残響と低域の質感で曲全体の感触を決める。
  • フィールド音や即興のヴォーカルを取り入れることによる現場感の演出。

現代音楽への影響と遺産

ペリーの影響はレゲエ/ダブに留まらず、エレクトロニカ、ヒップホップ、ポップ、ロックまで及びます。ミックスを「楽器」として扱う発想は、サンプリング文化やリミックス手法の先駆けとなり、今日のプロデューサーたちにとっての教科書的存在です。

またBlack Ark の音像は「Lo‑Fiでありながら圧倒的に密度の高い」美学を示し、現代のビートメイカーやアンビエント作家にも参照され続けています。

聴き方のすすめ(初めての人向けガイド)

  • まずは「Super Ape」と「Heart of the Congos」を聴いて、ブラック・アーク期の空気感とサウンド設計を体感する。
  • プロデュース作(Max Romeo、Junior Murvin など)を順に追うと、ペリーがアーティストをどう作り上げたかが見えてくる。
  • ダブトラックでは音の「抜き差し」に注目すると面白い—何が消え、何が残るかで曲の表情が劇的に変わる。
  • リスニングはヘッドフォン推奨。低域や残響のニュアンスを細かく捉えやすくなる。

まとめ

Lee "Scratch" Perry は、技術と魔術が混ざり合った独自のプロダクション哲学で、世界の音楽地図を塗り替えた稀有な存在です。音響的冒険心、アーティストを変容させるプロデュース力、そして伝説性。どれを取っても彼の名が現代音楽に与えた影響は測り知れません。まずは名盤を聴き、その「ブラック・アークの匂い」を感じてください。

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参考文献