Cat6完全ガイド:規格・性能・設置・認証・選び方とCat6A・10GBASE-Tの比較
Cat6とは — 概要と位置づけ
Cat6(カテゴリー6)は、ツイストペア銅線ケーブルの規格の一つで、主にLAN(ローカルエリアネットワーク)配線に使われます。TIA(米国電気通信産業協会)やISO/IEC(国際標準化機構/国際電気標準会議)で定められた性能要件を満たすケーブル群のうち、最大周波数250MHzまでの伝送性能を持ち、ギガビットEthernet(1000BASE-T)を標準的にサポートします。Cat5eよりもクロストークやノイズ耐性が高く、Cat6Aと比べると10GBASE-Tのサポート範囲が短い点が特徴です。
規格・歴史・関連標準
Cat6は2002年頃に規格化され、その後TIA-568系やISO/IEC 11801などで仕様が整理・更新されてきました。最新の米国系標準はANSI/TIA-568.2-D(など)に含まれます。
IEEE 802.3のEthernet規格群(例:1000BASE-Tや10GBASE-T)と組み合わせて使われます。特に10GBASE-T(IEEE 802.3an-2006)は、Cat6Aで100mをサポートする一方、Cat6では環境や施工状態によって最大で約55m程度までとされることが多いです(後述)。
物理構造とバリエーション
Cat6ケーブルは4対8芯のツイストペアから構成され、ケーブル内の各ペアの撚り回数を従来より増やすことで近端クロストーク(NEXT)などを低減しています。主な構成要素・バリエーションは次のとおりです。
- 導体径(AWG): 市販の横線ケーブル(ホリゾンタル)では一般的に23AWGのソリッド導体が多いです。パッチコード(フレキシブル)は24〜26AWGのより細い撚り線が使われることがあります。
- シールドの有無: U/UTP(アンシールド)、F/UTP(外装フォイル)、S/FTP(外装シールド+各ペアフォイル)などのバリエーションがあります。環境の電磁干渉(EMI)が強い現場ではシールドタイプが選ばれます。
- セパレータ(スプライン): ペア間の干渉を減らすためにケーブル中心にプラスチックの仕切り(スプライン)を持つ製品もありますが、全てのCat6製品がこれを採用しているわけではありません。
- ジャケット材料: 一般的にPVC(低コスト)、CMP(プルーフォーム:プレンム用難燃)、CMR(ライズ用)などの耐火・難燃性仕様があります。設置場所に応じた選択が必要です。
性能(伝送特性)
主な性能指標とCat6の特長は以下のとおりです。
- 周波数帯域: 最大250MHzの周波数特性を規定。
- 対応プロトコル: 10BASE-T、100BASE-TX、1000BASE-Tに標準対応。10GBASE-Tは環境により最大約55m(設置条件やアルienクロストークの影響で変動)程度までサポートされる場合があります。
- クロストーク対策: ペアごとの撚り・スプライン・シールドなどでNEXT、PSNEXT(パワーサムNEXT)、FEXT、ELFEXT等の規格値を満たす設計になっています。
- チャネル長: Ethernetの標準設計では1チャネル=100m(最大)。このうち90mが永久配線(ホリゾンタル)、残り10mがパッチコード等に割り当てられるのが通常の配線モデルです。
Cat6と他カテゴリの比較
- Cat5e: Cat5eは100MHzまでを規定。1000BASE-Tをサポートするが、Cat6はより高い周波数帯域(250MHz)と優れたクロストーク特性を持つため、将来性と信頼性で優位です。
- Cat6A: Cat6Aは最大500MHz、10GBASE-Tをフルチャネル(100m)でサポートすることを目的とした上位規格。高密度の10GbE導入を見据えるならCat6Aが選択されることが多いです。
- Cat7/Cat8: Cat7はS/FTPなど高いシールドを前提とした国際的・ベンダー系の規格群、Cat8はデータセンター向けに短距離で25G/40Gをサポートする高周波(2000MHz級)ケーブルです。用途に応じて選びます。
実務上の設置・施工上の注意点
性能を確保するため、以下の点に留意してください。
- 曲げ半径: メーカー推奨の曲げ半径を必ず守ること。一般的な目安として静的な取り扱いでケーブル直径の4倍以上を推奨する場合が多いですが、製品ごとの指定値に従うことが重要です。
- ペアのアンツイスト長: 端末(コネクタ)でペアをほどく長さは必要最小限に抑える。TIA規格では終端でのペアのアンツイスト長は一般的に13mm(約0.5インチ)程度を目安としていますが、コネクタの仕様に従ってください。
- 電気配線との距離: 電力ケーブルや強電磁ノイズ源から適切な距離(一般的に数センチ~数十センチ、状況に依存)を確保して配線し、交差する場合は直角に交差させる等の配慮を。
- シールドの接地: シールド付きケーブルを採用する場合、シールドの接地処理を適切に行わないと逆にノイズの受け皿になることがあります。システム全体の接地方針に沿って処理してください。
- PoE(給電)時の温度上昇: 高電力PoE(802.3at/af/bt)を多数のケーブルで長距離に渡って使用する場合、束状にしたケーブルの温度上昇により導体抵抗が増え、性能劣化や規格外の動作が起こる可能性があります。PoE運用時はメーカーの電力上限や設置環境を考慮してください。
テストと認証(フィールド試験)
施工後は必ずフィールド・テスターによる認証試験(カテゴリ認証)を行い、NEXT/PSNEXT、挿入損失(Attenuation)、レターンロス、近接外来クロストーク(Alien Crosstalk)などが規格値内であることを確認します。ネットワークの信頼性を確保するために、認証ツール(例:Fluke Networks等の認証機器)を用いた試験が推奨されます。
選び方のポイント・運用上の考え方
- 現状のニーズを把握: 現行ネットワークが1GbE中心で将来10GbEへの移行を検討している場合、配線工事の時点でCat6Aへ投資することも合理的です。将来的な工事コストやダウンタイムを考慮して判断してください。
- コネクタ・パネルも合わせて等級化: ケーブルだけでなく、ジャック、パッチパネル、プラグ等の被接続機器もCat6規格に準拠したものを選ぶ必要があります。適合しない部品を混在させると性能が低下します。
- 施工品質: ケーブル自体の品質のみならず、配線・終端の施工精度が実使用性能を左右します。信頼できる施工業者や適切な検査手順の導入をおすすめします。
よくある誤解
- 「Cat6なら必ず10GbEで100m使える」— 正しくはCat6Aが100mでの10G対応を目的とした規格です。Cat6でも条件が良ければ10Gをある程度の距離で動作させられる場合がありますが、保証はされません。
- 「シールドは常に良い」— シールドはノイズ耐性を高めますが、不適切な接地や混在する設備によっては逆効果になることがあります。環境と運用を見極めて選択してください。
まとめ
Cat6は、今日の多くの企業/家庭でのネットワーク用途に適した高性能な銅線LANケーブル規格です。ギガビットEthernetの標準的なベースとして安定した性能を持ち、将来的な要件に応じてCat6Aなど上位規格へ拡張する選択肢を残しつつ、コストと性能のバランスが取れた実用的な選択肢となります。導入にあたってはケーブルそのものだけでなく、コネクタ類や施工品質、試験・認証を含めたトータルの配慮が重要です。
参考文献
- TIA(Telecommunications Industry Association)公式サイト
- ISO/IEC 11801 — 国際的な汎用LAN配線規格(ISO公式)
- IEEE 802.3an-2006(10GBASE-T仕様) — IEEE Standards
- Wikipedia: Category 6 cable(概要・歴史・技術解説)
- Fluke Networks — ケーブル基礎知識(テスト・認証に関する解説)


