フェラ・クティとアフロビートの誕生と革新:政治批評を音楽に昇華したナイジェリアの伝説
プロフィール:フェラ・クティとは
フェラ・アニクラポ・クティ(Fela Anikulapo Kuti、1938年10月15日 - 1997年8月2日)は、ナイジェリア出身のミュージシャン、バンドリーダー、そして社会運動家です。ロンドンで音楽教育を受けた後にアフリカに戻り、ジャズ、ファンク、高ライフ(highlife)、西アフリカの伝統リズムを融合させた「アフロビート(Afrobeat)」という独自の音楽ジャンルを確立しました。彼は作曲家・歌手としてだけでなく、強烈な政治批評と社会批判を音楽の主題に据え、権力や軍事政権に対する公然たる批判で知られます。
生涯の概略
幼少〜若年期:ナイジェリアのアベオクタ生まれ。家庭は教育・政治活動に関わる環境で、母親ファニレイオ(Funmilayo Ransome-Kuti)はナイジェリアの女性運動の指導者の一人でした。
音楽修業:ロンドン滞在中にクラシックや伝統的音楽教育を受け、後にジャズやブラック・ミュージックに触発される。
帰国後とアフロビートの誕生:1960年代後半から70年代初頭にかけて、長尺のグルーヴと政治的メッセージを持つ楽曲群を発表。彼のバンド(後のEgypt 80など)とドラマーのトニー・アレンとの協働がサウンドを完成させた。
政治活動と弾圧:政府や軍隊を批判する歌詞により何度も政府の迫害を受け、カラクタ共和国(Kalakuta Republic)と呼ぶ共同体を運営していたところを軍に襲撃され、母親が負傷・死亡するなどの事件も起きた。
晩年:生涯にわたり活動を続け、1997年に死去。現在も子息フェミ・クティ、サウン・クティらによってその音楽とメッセージは受け継がれている。
音楽的特徴 — アフロビートとは何か
アフロビートは単なるジャンル名ではなく、音楽と政治を強く結びつけた表現形態です。主な特徴は次の通りです。
長尺で反復的なグルーヴ:曲はしばしば10分〜30分に及び、徐々に展開するリズムと即興性を重視します。
複層的なリズム:多数のパーカッション(コンガ、シェーカー、トーキングドラム等)を重ね、ポリリズムを構築します。
ホーン・アレンジ:サックスやトランペットを中心にしたブラス・セクションが強い旋律的フックを作ります。
ファンクとジャズの要素:ファンキーなベースライン、ジャズ由来のコード進行やソロが見られます。
言語とメッセージ:英語、ナイジェリアの現地語、特にピジン英語を使った分かりやすい歌詞で、社会問題や権力批判を直截に歌います。
代表曲・名盤(入門と深堀りのための推薦)
「Zombie」 — 軍隊や無批判に従う人々を痛烈に皮肉ったナンバー。強烈なリズムと素朴なメッセージ性で広く知られる。
「Expensive Shit」 — 政治的圧力や警察の不正をテーマにした曲。タイトルが示すユーモアと辛辣さが特徴。
「Gentleman」 — 西欧化した振る舞いや植民地主義的マインドへの批判を込めた楽曲。
「Sorrow Tears and Blood」 — 迫害や弾圧の被害をテーマに、感情のこもった歌詞とメロディを持つ。
名盤例:『Expensive Shit』『Zombie』『Gentleman』などは、彼の政治性とサウンドの両面が明確に表れており、入門用に適しています。ライブ録音や編集盤で長尺のグルーヴに浸るのもおすすめです。
ステージ・パフォーマンスと表現手法
フェラはステージ上でのカリスマ性が非常に高く、長時間にわたる演奏で観客を巻き込みます。ダンサーやコーラス、複数の管楽器と打楽器を配した大編成での一体感、曲の途中で展開される語り(ステートメント)や即興のソロなど、ライブは音楽と政治メッセージが同時に伝播する場でした。また、衣装・舞台演出も彼の主張の延長線上にあり、しばしば象徴的なイメージを用いました。
政治性・社会運動としての側面
フェラの歌は単なる抗議歌ではなく、日常生活や腐敗した政治体制、宗教や資本主義への批判を通して、広範な社会意識の覚醒を促すものでした。彼は自らを政治活動家と位置づけ、演奏や公共の場で権力に立ち向かう姿勢を貫きました。これにより音楽は娯楽に留まらず、抵抗の道具となりましたが、そのために逮捕・拷問・財産の損失などの代償も被りました。
後世への影響と継承
直接的影響:息子フェミ・クティ、サウン・クティらがアフロビートを継承・発展させている。
世界的影響:アフロビートのリズム感やブラス・アレンジは、ジャズ、ファンク、ヒップホップ、エレクトロニック・ミュージックなど多くのジャンルに影響を与え、サンプリングやコラボレーションを通じて現代音楽にも浸透している。
アート/舞台での再評価:ブロードウェイ・ミュージカル「Fela!」やドキュメンタリー映画『Finding Fela』などにより新たな世代にも知られるようになった。
聴き方の提案(音楽としての楽しみ方)
曲単位ではなく「時間」を味わう:アフロビート曲は繰り返しのグルーヴが醍醐味なので、長時間通して曲の変化と身体感覚を楽しんでください。
歌詞を読む:ピジンや比喩が多い歌詞は翻訳や注釈を併せて読むとメッセージがより明確になります。
ライブ音源を聴く:フェラのライブはスタジオ音源とは異なる即興性と熱量があるため、複数のライブ盤を比較するのも面白いです。
影響関係を辿る:トニー・アレンのドラミング、息子フェミや現代のアフロビート系アーティストを聴いて、系譜を感じ取ると理解が深まります。
まとめ
フェラ・クティは「音楽家」以上の存在でした。アフロビートという革新的な音楽言語を作り出し、それを通して社会的・政治的メッセージを力強く発信したことで、音楽史に独自かつ永続的な足跡を残しました。彼の楽曲はリズムの快楽だけでなく、考えるきっかけや感情の揺さぶりを与えてくれます。初めて聴く人は、まず代表的な曲やアルバムでグルーヴに身を任せ、その後で歌詞や背景を掘り下げると、より深い感動が得られるでしょう。
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参考文献
- フェラ・クティ - Wikipedia(日本語)
- Fela Kuti Biography — AllMusic
- Fela Kuti, The Afrobeat Visionary — NPR
- The Guardian – Fela Kuti関連記事
- Finding Fela (ドキュメンタリー) — IMDb
- Fela! — Broadway(ミュージカル情報)


