Scott Walkerのキャリアを総覧するおすすめレコードガイド—1960年代の名盤からBish Boschまで
はじめに — Scott Walkerとは
Scott Walker(本名:Noel Scott Engel、1943–2019)は、1960年代のポップ・スターとしての顔と、以降の前衛的で難解なソロ作品で知られる英国の歌手・作曲家です。豊かなバリトン、劇的なフレージング、映画的なオーケストレーションから、ノイズや実験音楽に踏み込む大胆な転換まで、キャリアを通して常に既成概念を破ってきました。本コラムでは、キャリアの主要な局面を押さえつつ、聴きどころの多い「おすすめレコード」を厳選して紹介します。
おすすめレコード(概観)
Scott(1967)
ソロ・デビュー作。深みのあるバリトンと、クラシカルなアレンジを背景にしたジャズ/ポップの名盤です。カバー曲とオリジナル曲が混在しており、初期の美的方向性が明確に示されています。
- 代表曲:”The Lady Came From Baltimore”、”Jackie”(独特の歌い回しと情緒)
- 聴きどころ:声の表現力(語尾の引き伸ばし、ダイナミクス)、オーケストラの使い方、ドラマ性の強さ。
- こんな人に:クラシカルなポップや映画音楽的アレンジが好きな方の入門盤。
Scott 2(1968)
デビュー作を踏まえ、さらに洗練された表現と幅広い楽曲選択(ブリティッシュ・フォークや音楽劇的なものまで)。ソロとしての地位を確立した重要作です。
- 代表曲:”It’s Raining Today”、”The Amorous Humphrey Plugg”(独創的な曲選び)
- 聴きどころ:抒情性の深化、曲ごとの世界観の作り込み。
- こんな人に:深い情緒表現やメロディの美しさを求めるリスナー。
Scott 3(1969)
より個人的で内省的な楽曲が中心。バラードに優れた曲が多く、Scottの“歌”に向き合うのに最適なアルバムです。ドラマ性と静かな哀愁が同居します。
- 代表曲:”It's Raining Today”(別テイクでの評価も高い)、”Boy Child”
- 聴きどころ:語りかけるようなボーカル、アレンジのディテール。
- こんな人に:歌詞の世界観や歌唱表現をじっくり味わいたい人。
Scott 4(1969)
発表当時は商業的に失敗と見なされましたが、現在は彼の代表作かつ転機とされる作品。より文学的で政治的な主題を含み、曲構成や歌詞の挑戦性が増しています。
- 代表曲:”The Seventh Seal”、”The Old Man’s Back Again (Dedicated to the Neo-Stalinist Regime)”
- 聴きどころ:歌詞の意図をめぐる考察、音と語りの結びつき。
- こんな人に:文学的・思想的な深みを持つ音楽を求めるリスナー。
Tilt(1995)
長い沈黙(商業活動を離れていた時期)を経て発表された“復帰作”にあたるアルバム。伝統的なポップの枠を大きく逸脱し、難解で不穏な音像と断片的な言葉が前面に出ます。ここからScottは“前衛的ソングライター”としての道を歩みます。
- 代表曲:”Farmer in the City”、”The Cockfighter”
- 聴きどころ:不協和音的なアレンジ、断片的な物語構造、声の物質化(音の一部としてのボーカル)
- こんな人に:実験的で挑発的な音楽、ポストモダン的表現に興味がある人。
The Drift(2006)
より大規模に“作り込まれた”挑戦作。重層的でしばしば不穏なサウンド・スケープ、難解で暗転する物語的歌詞が特徴です。聴き手に強い集中を要求します。
- 代表曲:”Soused”(※未発の素描を含む断片的手法が多い)
- 聴きどころ:ノイズとオーケストラルな質感の混在、テーマの反復と変奏。
- こんな人に:実験音楽・サウンド・アート寄りの作品を好む人。
Bish Bosch(2012)
Scottの生涯最後のスタジオ・アルバム。最もアクセスしづらく、しかし最も野心的でもある作品群で、言葉の密度、音の粒度ともに極まった到達点です。評価は分かれますが、現代音楽の文脈でも非常に重要な一枚です。
- 代表曲:アルバム全体が一つの塊として聴かれるべきで、単曲で切り出すよりも通しての体験が有効。
- 聴きどころ:言語的な実験、断続的かつ重層的な音像、終盤の衝撃的な展開。
- こんな人に:現代音楽や前衛的な作風をじっくり聴きたい上級リスナー。
補足 — Walker Brothers 時代の重要曲
Scottのキャリアを語るには、1960年代初頭のポップ・グループ「The Walker Brothers」での成功も無視できません。特にシングル曲は彼のボーカルの魅力を広く伝えました。
- 代表曲:”The Sun Ain’t Gonna Shine (Anymore)”(グループの代表ヒット、Scottの歌唱が映える)
- 聴きどころ:ポップ史的文脈でのScottの魅力を手軽に体験できる入り口。
聴き方のコツ・視点
「声を楽器として聴く」こと:Scottはメロディそのものより声の色彩と間(ま)で語るタイプの歌手です。語尾、息遣い、フレージングの傾向に注目してください。
歌詞の文脈を調べる:特にScott 4以降は文学的・政治的比喩が多いので、歌詞の引用元や当時の社会情勢を手がかりにすると理解が深まります。
アルバム全体を通す体験:Tilt以降は断片的な構造や長尺の効果が意図されています。曲単位より通しでの鑑賞を勧めます。
フェーズごとの比較:60年代のオーケストラ・ポップと、90年代以降の実験作とのギャップを意識すると、彼のアーティストとしての“異化”の強さが見えてきます。
入手・版についてのヒント(簡潔に)
初期の「Scott」シリーズはオリジナル盤の音像が好まれることが多い一方、近年の公式リマスターやボックスセット(CD/ストリーミング)も音質・解説面で充実しています。Tilt以降の作品は元々が意図的に音像をコントロールしているため、信頼できるリマスターや公式リリースで聴くことをおすすめします。
おすすめの聴取順(入門〜深掘り)
- まずはWalker Brothersのヒット曲→Scott(1967)→Scott 2(1968)でボーカルとメロディの魅力を体験
- Scott 3〜Scott 4で歌詞・世界観の深みを知る
- Tilt → The Drift → Bish Bosch と進み、実験性の変遷を追う
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