Alcest入門ガイド:Neigeの軌跡とブラックゲイズの名盤解説
Alcest — プロフィール概略
Alcest(アルセスト)はフランス出身の音楽プロジェクトで、中心人物はStéphane "Neige" Paut(ネージュ)。1990年代末から2000年代初頭にかけてブラックメタル的要素を持つ作品で活動を始め、その後ショーゲイズ、ドリームポップ、ポストロックなどの要素を融合した独自の音世界を築き上げた。しばしば「blackgaze(ブラックゲイズ)」というジャンル名で語られ、極端な激しさと透き通るような美しさを同時にもつサウンドで国際的に注目を集めている。
来歴と進化の軸
初期(2000年代初頭) — ブラックメタルやローファイ寄りの音作りからスタート。2005年のEP「Le Secret」や2007年の1stフルアルバム「Souvenirs d'un autre monde」は、ブラックメタル的な要素とショーゲイズ的な旋律性が混在する作品群だった。
成長期(2010年前後) — 2010年の「Écailles de Lune」はメタル的な重量感と叙情性の両立に成功し、Alcestを代表する作品の一つとなる。以後、スタジオおよびライブでの体制が安定し、より洗練されたサウンドを展開するようになる。
実験と深化(2012〜2016) — 「Les Voyages de l'âme」や2014年の「Shelter」では、ドリーミーでポップ寄りの要素を強めるなど作風の幅を拡大。2016年の「Kodama」は日本文化やアニメーション作品(例:スタジオジブリ)からの着想や、よりダイナミックなアレンジが話題になった。
近年(2019〜) — 2019年の「Spiritual Instinct」では再びよりメタリックで骨太なアプローチが強まり、深みとエモーショナルな力を保ちながら音楽性を更新している。
サウンドの特徴と魅力
対照の融合:ブラックメタル由来のスクリームや疾走感、そしてショーゲイズ由来の厚いリヴァーブ、甘美なクリーンボーカルや浮遊するメロディを同居させることで、「荒々しさ」と「静謐さ」を同時に体感させる。
情景的・叙情的なメロディ:メロディはしばしば大きな空間感と叙情性を備え、聴き手の感情を揺さぶる。和音進行やメロディの組み立てにおいて、暗さだけでなく温かさや郷愁が表現される点が特徴的。
サウンドデザイン:リヴァーブやディレイを多用したテクスチャー作り、層状のギターアレンジ、時にシンセやピアノを取り入れることで、音像が立体的に広がる。ダイナミクスの対比(爆発的なパートと静寂のパート)が効果的に使われる。
詩的かつ個人的なテーマ:Neigeが語る“別世界の記憶”や逃避・郷愁といったモチーフが繰り返し現れる。歌詞は主にフランス語で書かれ、言葉の響き自体も音楽表現の一部となっている。
情動的な没入体験:技術的なギミックよりもムード作り、感情の高ぶりを重視するため、聴き手が作品に没入して個人的なイメージや記憶を重ねやすい。
代表作・名盤紹介(入門と深掘り)
Le Secret(EP, 2005) — 初期の象徴的EP。黒い要素と幻想的なギターが混じり合う原型が現れている。Alcest入門として歴史的価値が高い。
Souvenirs d'un autre monde(2007) — Shoegaze色を強めた1stフル。黒さは減り、メランコリックで美しい旋律が前面に出る作品で、幅広いリスナーに届きやすい。
Écailles de Lune(2010) — 多くのファンにとっての名盤。厚みのあるギター・テクスチャとメロディが高次元で融合しており、Alcestサウンドの到達点の一つとされる。
Les Voyages de l'âme(2012) — コンセプチュアルな要素とより完成度の高い楽曲構築が評価された作品。叙情性と構成力が光る。
Shelter(2014) — 英語詞も含む、よりドリーミーでポップ寄りの一枚。好みが分かれるが、ショーゲイズ/ドリームポップとしての魅力を強く示した作品。
Kodama(2016) — 日本の自然観やアニメーション(影響元としてしばしばジブリが語られる)からインスピレーションを受けた、ダイナミックで儚い一作。メタリックな側面と叙情性のバランスが優れる。
Spiritual Instinct(2019) — よりヘヴィで原初的な感覚をまとった作品。成熟したソングライティングと強い感情表現が特徴。
入門ガイド:はじめて聴くなら
まずは「Écailles de Lune」から。作品としての一貫性とAlcestらしさが分かりやすい。
次に「Souvenirs d'un autre monde」→「Les Voyages de l'âme」と流すと、ショーゲイズ寄りからより劇的な構成へと移行する過程が分かる。
「Shelter」で彼らのドリーミーな側面を体験し、「Spiritual Instinct」で現在進行形の厚みを確認すると良い。
ライブ体験とビジュアル
ライブではスタジオ作品の豊かな空間感を再現するため、エフェクト類やライティングに工夫が凝らされることが多い。演奏はストイックだが感情表現は強く、会場に独特の没入感が生まれる。アルバムアートやヴィジュアル面でも、自然・森・夜・異世界といったモチーフが頻出し、音楽と密接に結びついている。
なぜ多くの人を惹きつけるのか(魅力の本質)
矛盾する要素(荒々しさと美しさ)を違和感なく一つにまとめることで、単純な快楽や単純な凶暴さ以上の複雑な感情を引き出す。
音そのものが「場所」を描く力を持っているため、聴く者は自分だけの風景や記憶を投影しやすい。個人的な郷愁や救済を求める感情に応答する音楽だ。
ジャンル横断的であるため、メタル・ポストロック・シューゲイザー・ドリームポップといった異なる好みに訴求できる柔軟さがある。
聴きどころの技法的ポイント(音楽的に注目して聴く)
ギターの重ね(レイヤリング)とリヴァーブの違いがどのように空間感を作るか注目する。
クリーンボーカルとスクリームの使い分けで感情の起伏をどう作っているかを聴き分けると、曲構成の巧みさが分かる。
メロディラインの中にある「明るさ」と「暗さ」の混在 — 特に和音進行やモード選択に注目すると独特の色合いが見えてくる。
まとめ
Alcestはジャンルの境界を越えて、音楽が持つ感情的・叙情的な力を最大化することに成功しているプロジェクトだ。Neigeによる個人的な世界観は、多くのリスナーにとって「逃避」でもあり「救済」でもある。初めてでも深く入り込める作品群と、聴くたびに新しい景色を見せてくれる奥行きが彼らの大きな魅力である。
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参考文献
- Alcest — Wikipedia
- Alcest | AllMusic
- Alcest — Prophecy Productions(アーティストページ)
- Alcest — Encyclopaedia Metallum: The Metal Archives
- Alcest: Shelter — Pitchfork(アルバムレビュー)
- Alcest — Bandcamp(公式音源/リリース情報)


