ネヴィル・マリナーとASMFの室内弦楽名盤ガイド—四季からブランデンブルク、聴き方のコツと録音選びのポイント
はじめに — ネヴィル・マリナーという指揮者の魅力
Sir Neville Marriner(ネヴィル・マリナー、1924–2016)は、室内弦楽アンサンブルの名門「Academy of St Martin in the Fields(以下 ASMF)」を創設し、20世紀後半のクラシック演奏と録音において最も信頼される指揮者の一人となりました。古楽志向の潮流の前線に立つというよりは「クリアで均整のとれた室内弦のサウンド」を標準化した功績が大きく、録音の数と質の両面で長年にわたり多くのリスナーを魅了してきました。
選び方の視点
- レパートリーの代表性:マリナー/ASMFの個性が最もよく出る、室内的で親密な編成の作品を優先。
- ソリスト/編成:四季などはソリスト(例:Iona Brown)との相性が重要。録音ごとのソリストや年を確認すること。
- 録音年代とレーベル:1960〜80年代のPhilips/Argo録音は音色のバランスがよく評価が高い。リマスター盤やBOXセットも検討に値する。
おすすめレコード(詳細解説)
1. Vivaldi — The Four Seasons(ヴィヴァルディ:四季)
- 代表的録音例:Academy of St Martin in the Fields, Soloist: Iona Brown(多くのプレスで1970年代の録音として流通)
- おすすめポイント:マリナー版の「四季」は、ロマンティックすぎず過度に古楽演奏に偏らない“親しみやすい古典解釈”が魅力。アンサンブルの透明感とソリストの歌うような表現がバランス良く融合しています。
- 音の特徴:弦の輪郭が明瞭で、速めのパッセージでもクリア。現代的な録音技術で聴きやすくまとめられているため、初めてこの曲に触れる人にもおすすめ。
- 探し方:オリジナルのArgo/PhilipsのLPは音色の暖かさで人気。近年のリマスターCDや配信版はノイズ対策・ダイナミックレンジが改善されている。
- 聴きどころ:第1楽章のリズム感、第2楽章の歌い回し、第3楽章の推進力。ソロとリピートの微妙なニュアンスに注目。
2. Bach — Brandenburg Concertos(バッハ:ブランデンブルク協奏曲)
- 代表的録音例:Academy of St Martin in the Fields(1960〜70年代の録音群)
- おすすめポイント:マリナーはブランデンブルクでも過度に「古楽復元」を狙わず、現代弦楽器ならではの豊かな音色と機敏なアンサンブルで曲の構造美を際立たせます。楽章ごとの対比が明瞭で、室内音楽としての一体感が楽しめます。
- 音の特徴:管楽器ソロを含むセクションのバランスが良く、リズムの輪郭がはっきりしているため、カウンターポイントの聴き分けがしやすい。
- 聴きどころ:各協奏曲で異なる編成と色彩感を比較することで、ASMFの柔軟性とマリナーの編曲観がわかります。
3. Handel — Water Music / Music for the Royal Fireworks(ヘンデル:水上の音楽/王宮の花火の音楽)
- 代表的録音例:ASMF & Marriner のヘンデル集(Philipsなど)
- おすすめポイント:祝祭的な曲を室内アンサンブルならではの引き締まったテンポと明瞭なリズムで演奏。重量感に頼らず、音の輪郭と躍動を重視しています。
- 音の特徴:金管や木管のバランスが巧みで、室内楽的な丁寧さと壮麗さが同居。宮廷的な雰囲気を自然に演出します。
- 聴きどころ:舞曲的リズムのキレ、管楽器のソロ回し、ダイナミクスの対比。
4. Mozart — Serenades & Divertimenti(モーツァルト:セレナード/ディヴェルティメント類、Eine kleine Nachtmusik ほか)
- 代表的録音例:ASMF が演奏するセレナード集(Philips)
- おすすめポイント:モーツァルトにおける「雅やかさ」と「室内的親密さ」を同時に表現できるのがマリナーの美点。弦のアンサンブルが非常に洗練されており、小編成のウィットが光ります。
- 音の特徴:アーティキュレーションが明確で、テンポ感は自然体。メロディの歌わせ方に無駄がなく、フレーズの形が見えやすい。
- 聴きどころ:息の合ったピリオド風の装飾よりも「旋律の説得力」を重視した演奏方針に注目。
5. Haydn — The London Symphonies(ハイドン:ロンドン交響曲群)
- 代表的録音例:ASMF/Marriner によるハイドン交響曲集(複数録音あり)
- おすすめポイント:ハイドン特有のユーモアと躍動感を、過度に古楽に寄せずに弦の明るさと正確なリズムで表現します。交響曲の「構築感」と「室内的軽やかさ」が両立している演奏です。
- 音の特徴:弦群の統率力と管楽器のアクセントの自然さ。小編成ながらスケール感は十分に感じられます。
- 聴きどころ:動機の反復やハイドンらしい“ジョーク”の部分(突然の転調やリズム変化)に対するアンサンブルの反応。
6. コレクター向け:Academy of St Martin in the Fields — Complete/Anthology ボックス
- 内容:ASMF+マリナーの重要録音をまとめたボックスやアンソロジー(レーベルによる編集盤)
- おすすめポイント:代表曲を網羅でき、録音年代の比較がしやすい。リマスターで音質改善されたものは単品買いよりコストパフォーマンスが高い場合がある。
- 注意点:選盤は編集者の趣味が入るため、好きなレパートリーが入っているか事前に収録曲一覧をチェックすること。
聴き方と楽しみ方のコツ
- 録音年代を意識する:1960–80年代の録音は「暖かさ」と「空間の自然さ」が魅力。最新リマスターは高域の解像やノイズ低減が進んでいる。
- ソリスト/編成を比較する:同曲でもソリストが変わると色合いが大きく変わる。例:四季の別録音と聴き比べると、マリナー版の特徴がよりはっきり見える。
- 細部に注目する聴き方:アーティキュレーション、アンサンブルのレスポンス、リズムの推進力。楽曲の「構造」を追いながら聴くと発見が多い。
- レーベル表記と録音年月日の確認:オリジナルLPとCD再発で音質が異なるため、所有目的(音質、資料、装丁)を明確にする。
どの盤を買うか迷ったら
- 初めてなら:Vivaldi「四季」かMozartのセレナード集。親しみやすくマリナーの色がわかりやすい。
- 深掘りするなら:Brandenburg Concertos と Haydn のロンドン交響曲。アンサンブルの核を味わえる。
- 網羅したいなら:ASMFのアンソロジー/ボックスセット。時代ごとの演奏スタイルを比較できる。
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参考文献
- Neville Marriner — Wikipedia
- The Academy of St Martin in the Fields — 公式サイト
- Neville Marriner — AllMusic(ディスコグラフィー/レビュー)
- Sir Neville Marriner — Naxos Artist Page
- Sir Neville Marriner obituary — The Guardian


