ATX規格とは何か?歴史・主要仕様・派生規格と電源選びの実務ガイド
ATXとは
ATX(Advanced Technology eXtended)は、デスクトップパソコンのマザーボードや筐体、電源ユニット(PSU)の形状・配置・電源コネクタ・コネクタ信号などを規定したフォームファクタ(規格)です。1995年にIntelが策定して以来、PCの標準フォーマットとして広く採用され、拡張スロット位置、背面I/Oの位置、電源の制御インターフェース(ソフト電源制御、スタンバイ電源など)といった点を統一することで、互換性の高いハードウェアの組み立てや交換を可能にしました。
歴史と背景
ATXは1995年にIntelによって発表され、従来のベアボーンやAT(Advanced Technology)規格の問題点(冷却や配線、電源配置など)を改善する目的で作られました。ATXはマザーボードと電源の位置関係、背面I/Oパネルの標準化、電源のソフト制御(OSからのシャットダウン/スリープ制御)を特徴としており、以後の多数の派生規格(microATX、Mini-ITX、E-ATXなど)の基礎となっています。
主要な物理仕様
- 標準ATXマザーボード寸法:通常305 × 244 mm(約12 × 9.6インチ)。これは「フルサイズATX」と呼ばれます。
- 拡張スロット:従来は7スロット分を標準化。筐体側の拡張スロットの位置も規定されています。
- I/Oシールド:背面の入出力ポート位置用の取り外し可能な金属プレート(I/Oバックプレート/I/Oシールド)が標準化されています。
- マウントホール:ケースとマザーボードを固定するネジ穴の位置・数が規定され、互換性を確保します。
電源とコネクタ(ATX電源仕様の基本)
ATXは電源の構造やインターフェースも規定しています。主なポイントは以下の通りです。
- 主電源コネクタ:初期のATXでは20ピンの24ピン互換コネクタが一般的でした。後に24ピンコネクタが標準化され、より高い電力供給に対応するようになりました。
- CPU補助電源:CPUへ直接+12Vを供給するための4ピン(通称ATX12V 4ピン)、さらに高性能CPU/マザーボード向けの8ピン(EPS12V)などが追加されました。
- 補助電源コネクタ:SATA電源コネクタや周辺機器用のMolex 4ピン、グラフィックカード向けのPCIe 6ピン/8ピンコネクタはATX電源から派生して普及したコネクタです(これらはATX仕様の拡張として扱われます)。
- 電源制御信号:PS_ON(電源を入れる信号、アクティブロー)、PWR_OK(電源が安定したことを示す信号)、+5VSB(スタンバイ電源)など、ソフトウェアやマザーボードと電源の間で電源管理を行うための信号が定義されています。
- 電圧レール:一般的に+3.3V、+5V、+12V、-12V、+5VSBが供給されます。長年の設計変化で+12V重視のアーキテクチャへ移行しています。
ATXがもたらした機能的革新
- ソフトウェア制御の電源:従来は電源の物理スイッチでオン/オフしていたのに対し、ATXではマザーボード側からの制御で電源を投入・停止できるようになり、OSによるシャットダウンやスリープ復帰(Wake on LAN等)が可能になりました。
- スタンバイ電源(+5VSB):電源がオフでも一部の回路に低電力を供給しておき、リモート起動やキーボード操作での起動をサポートします。
- 標準化による互換性の向上:ケース、電源、マザーボード間の互換性が向上し、ユーザーやメーカーが部品を組み替えやすくなりました。
バリエーションと派生規格
ATX自体には派生形が多数あります。用途やサイズに応じて選ばれます。
- microATX:244 × 244 mm程度。一般的なデスクトップで人気が高く、拡張スロット数が少ない分、コンパクトなケースに収まります。
- Mini-ITX:170 × 170 mm(VIAが提案)。省スペースPCや組込み用途に最適。拡張スロットが1つしか無いことが多い。
- E-ATX(Extended ATX):より大きなマザーボードで、ワークステーションやハイエンドマシン向けに拡張スロット・メモリスロットを増やしたもの。
- FlexATX、SSI、BTX(歴史的派生)など:特定用途や小型化、サーバー用途などに対応する別規格や派生仕様があります。
電力と互換性の注意点
ATX規格は多くの互換性を提供しますが、実際にPCを組む時はいくつか注意が必要です。
- コネクタの形状・ピン数:古いマザーボードは20ピンコネクタ、最新は24ピンを要求する場合があるため、電源のメインコネクタが合致するかを確認してください(アダプターも存在しますが推奨されません)。
- CPU補助電源:高性能CPUやハイエンドマザーボードは4ピンではなく8ピン(あるいは8ピンx2)を要求することがあるため、PSUが対応しているか確認が必要です。
- 電力容量:グラフィックカードやストレージの増加に伴って必要な電力が増えるため、W数(総出力)だけでなく+12Vレールの容量や電源品質(電圧安定性、リップルなど)を確認してください。
- 筐体サイズ:E-ATXなど大きなマザーボードは一般的なATXケースに入らないことがあるので、ケースの対応サイズを確認します。
電源管理の技術的詳細(やや専門的)
ATX電源にはいくつかの制御信号や保護・監視機能が定義されています。主なものを簡潔に説明します。
- PS_ON#(パワーオン):マザーボードが任意のタイミングでPSUに電力を供給させるための信号。アクティブローで、低電位に引かれるとPSUがオンになります。
- PWR_OK(Power Good):PSUが出力電圧を規定内に安定させたことを示す信号。マザーボードはこの信号を受けて初期化を進めます。
- +5VSB(スタンバイ電圧):電源が“オフ”の状態でも供給されるスタンバイ電力。リモート起動やUSBウェイク機能などに使われます。
- 電圧レギュレーションと保護:過電流保護(OCP)、過電圧保護(OVP)、短絡保護(SCP)等が近年の電源には標準的に実装され、システムを保護します。
現代のトレンドと将来
近年は電力需要の増加(高性能GPU、CPU)や小型化の要望から、ATX規格は細かな進化を続けています。電源効率や静音性を示す80 PLUS認証やモジュラーケーブル設計、SFX規格のような小型電源の普及も見られます。一方で、接続形態(SATA電源、PCIe電源)やコネクタ形状はメーカーの実装や拡張によって多様化しているため、互換性確認は重要です。
実務的アドバイス(組み立て・買い替え時のチェックリスト)
- ケースがマザーボードのサイズ(ATX / microATX / E-ATX 等)に対応しているか確認する。
- 電源のメイン24ピン・CPU補助4/8ピン・PCIe 6/8ピン等のコネクタ数と形状が必要なデバイスに合っているか確認する。
- 電源容量(W)だけでなく+12Vレールの供給能力や保護回路の有無を確認する。
- 古いケース/電源からパーツを流用する場合、コネクタの世代差(20ピン→24ピン等)に注意する。
- ケース内の冷却(エアフロー)と電源の配置(特に小型ケース)は温度や騒音に影響するため、設計を考慮する。
まとめ
ATXはデスクトップPCの互換性と利便性を大きく高めた規格であり、筐体・マザーボード・電源の標準化を通じてPCの普及と発展に寄与してきました。規格自体は世代を経て多くの拡張や改良が加えられていますが、基本コンセプトである「互換性・標準化・電源制御」は今も変わりません。PCの自作やアップグレードを行う際は、ATXの各仕様(物理サイズ・コネクタ・電力仕様)を理解しておくことが安全で確実な構築につながります。
参考文献
- ATX - Wikipedia(日本語)
- ATX - Wikipedia(English)
- ATX12V - Wikipedia(English)
- Power supply unit (computer) - Wikipedia(English)
- The Form Factor Working Group - Specifications(ATXを含む規格の資料)


