ノーマリーブラック(K100)とリッチブラックの使い分け完全ガイド|印刷の黒を正しく表現する実務ポイント
ノーマリーブラックとは
「ノーマリーブラック」(普通黒、スミ100%とも表現される)は、オフセット印刷や商業印刷の分野で使われる用語で、黒を単に「K(Key=Black)100%」のみで表現した色のことを指します。印刷のCMYK(シアン・マゼンタ・イエロー・ブラック)モデルにおいて、黒インクだけを100%使って再現する黒がノーマリーブラックです。反対に複数のプレート(C/M/Y/K)を組み合わせてより濃く豊かな黒を作る方法は「リッチブラック」と呼ばれます。
技術的背景:なぜK(スミ)があるのか
CMYKモデルでは、C/M/Yの三色を組み合わせることで色を作り、K(Black)は主に文字や濃い影などの“キー”となる黒を担います。Kを別に設ける理由は以下の通りです。
- テキストや細線に対しては、Kのみで印刷したほうが輪郭が鋭く、濁りやにじみが起きにくい。
- インクの使用量を抑え、乾燥性やコストの面で有利。
- C/M/Yだけで黒を作ると色味が出やすく、純粋な黒になりにくいため、写真やグラデーションの深い部分もKを用いることで安定する。
ノーマリーブラックとリッチブラックの違い
ノーマリーブラック(K100)とリッチブラック(KにC/M/Yを混ぜる)は見た目や用途、リスクが異なります。
- 見た目:ノーマリーブラックはやや“薄く”見えることがあり、特に光沢のある紙(コート紙)ではリッチブラックに比べて黒の深みが不足することがあります。リッチブラックは濃度感・深みがあり重厚な印象を与えます。
- 用途:小さい文字や細線、バーコード、トンボや罫線などはノーマリーブラック(K100)推奨。大面積の塗りつぶしやポスターの背景などはリッチブラックが多用される。
- リスク:リッチブラックは複数の版を重ねるため位置ずれ(ズレ)による色のにじみや色縁が発生するリスクがあり、特に細い要素では問題になる。乾燥不良やインクの盛り上がりも起きやすい。
代表的な「リッチブラック」レシピ(目安)
リッチブラックにはさまざまなレシピがあります。最適値は紙質、印刷機、インク、プロファイルによって異なるためプリンターと相談するのが最善ですが、一般的な目安は次の通りです。
- 「濃いリッチブラック(Deep Black)」:C60 M40 Y40 K100(重厚で深い黒。大面積に向く)
- 「クールブラック」:C60 M30 Y0 K100(シアン寄りで青みがかった黒)
- 「ウォームブラック」:C30 M50 Y50 K100(赤み・暖かみのある黒)
- 注意:文字(特に小さいサイズ)にはK100のみを使うべき。リッチブラックを文字に使うと滲みや版ズレで読みづらくなることがある。
実務上の注意点(入稿・組版の観点)
印刷物を作る際に注意すべきポイントをまとめます。
- 小さい文字や細線:K100のみを指定する。一般に8pt以下の文字や0.25ポイント程度の細線はK100が安全。
- 面積塗り:大きな塗りつぶしや背景はリッチブラックを検討。ただしインクの総インキ量(TAC/Total Area Coverage)制限に注意。紙や印刷条件によってはTACを280〜320%程度に制限するメーカーもある。
- トンボ・裁ち落としマーク:これらの印刷補助線は「レジストレーション」カラー(通常C100 M100 Y100 K100)で印刷され、画像・文字に使用すべきではない。
- オーバープリント設定:黒文字をオーバープリントに設定すると下の色をくり抜かずに印刷され、カラーの下で黒が薄く見えるのを防げる。ただしデザイン上の意図を確認のうえ設定する。
- プリンターとの確認:使用するICCプロファイルや紙種、推奨するリッチブラックのレシピは印刷所によって違うため、事前に確認してソフトプルーフや出力見本をチェックする。
デジタル(Web・スクリーン)での「黒」表現
Webやモニター上では色はRGBやsRGBで表現されます。CSS等では#000000が純粋な黒に相当しますが、ディスプレイの表示特性や周囲の配色により「真っ黒」は不自然に見えることがあります。そのためデザイナーは#111111や#0b0b0bなど「やや緩めの黒」を使う場合があります。印刷のノーマリーブラックとは原理が異なるため、スクリーンの黒と印刷の黒は直接同じものとは考えないでください。
カラーマネジメントと変換時の注意
RGBからCMYKへの変換はICCプロファイル(例:Japan Color、ISO Coatedなど)によって結果が変わります。RGBで黒(0,0,0)を指定して入稿すると、ソフトやプリンターの変換ルールによりK100のみになる場合と、リッチブラックに変換される場合があります。入稿前に必ず印刷所の指定に合わせてCMYKへ変換し、スウォッチやPDF/Xでの出力を行ってください。
チェックリスト(入稿前)
- 小さい文字・細線はK100で統一されているか。
- 大面積の黒はリッチブラックを使う場合、TACが用紙に適しているか。
- トンボ等でレジストレーションカラーを誤用していないか。
- オーバープリントの設定は意図通りか(黒のオーバープリントは一般的だが確認必須)。
- プリンターのプロファイルでソフトプルーフし、必要なら印刷所に試し刷りを依頼したか。
まとめ
ノーマリーブラック(スミ100%)は、印刷における基本的で重要な黒の表現方法です。特に小さな文字や精細な要素にはK100を使うことで正確で鮮明な表現が得られます。一方で、大きな面積表現ではリッチブラックを使うことでより深く強い黒が得られますが、インク総量や版ズレ、乾燥といった物理的リスクを伴うため、用途に応じた使い分けと印刷所との事前確認が不可欠です。
参考文献
- CMYK color model — Wikipedia
- Overprinting — Wikipedia
- Understanding rich black — Adobe
- Rich black(印刷の色に関する解説) — Pantone
- Total Ink Coverage (TAC) — Prepress/Printing guide


