Henry Cow完全ガイド:入門から深掘りまでのおすすめアルバムとRIO運動の背景
はじめに — Henry Cowとは何者か
Henry Cowはイギリス出身の前衛ロック/アヴァン・ロック集団で、1968年頃に結成され、1978年頃まで活動しました。ロック、現代音楽、即興演奏、ジャズ的要素を折衷し、政治的・実験的志向の強い音楽性で知られます。メンバーの入れ替わりはありますが、フレッド・フリス(ギター等)やティム・ホジキンソン(鍵盤・サクソフォン等)、ジョン・グリーヴス(ベース)、クリス・カトラー(ドラム)などが主要メンバーとして知られます。1970年代中盤にはスラップ・ハッピー(Slapp Happy)との共同作や、Rock in Opposition(RIO)運動の発起にも関わるなど、ジャンルの枠を越えた影響力を持ちました。
おすすめレコードの選び方(入門〜深掘りの順)
Henry Cowは音楽の性質上「一発で分かる」タイプではなく、作品ごとにアプローチや編成がかなり異なります。入門者には構成が明快で歌モノの比重が高い作品、核心に迫りたいリスナーには実験性・即興性の強い作品を勧めます。以下は入門〜コレクター向けまで段階的に並べたおすすめ盤解説です。
1. Legend(初期作・導入)
ポイント:結成初期の音像がよく分かるデビュー作。実験的なアレンジとクラシック/ジャズ的接近が混ざり合っています。
- 代表曲・注目曲:冒頭のインスト作品や各種小曲群(アルバム全体を通じて断片的で劇的な構成を持ちます)
- なぜおすすめか:バンドの出発点が分かり、以降の複雑化や政治的な発言へ繋がる「基礎」を聴けます。楽器群の対話や即興の萌芽を感じられるため、Henry Cowの骨格を把握するのに最適です。
- 聴きどころ:部分的な室内楽風アレンジ、予測不能な展開に耳を澄ますこと。曲単位ではなく、アルバムの流れを追う聴き方が向きます。
2. Unrest(即興/実験の深化)
ポイント:より自由度の高い即興と音響実験が前面に出た2作目。構築音楽と自由即興が混在し、バンドのアヴァンギャルド性が強化されています。
- 代表曲・注目曲:「Unrest」自体の長編トラック群や、録音セッションでの実験的断片
- なぜおすすめか:即興のダイナミクスやテクスチャー志向の作品が好きな人には強く響きます。バンドのアンサンブル能力とサウンドデザインの妙を体験できます。
- 聴きどころ:音の層の重なり方、楽器の瞬間的な反応、曲の内部で生まれるドラマに注目してください。集中して聴く価値があります。
3. Desperate Straights(Slapp Happyとの合体作・親和性の高い入口)
ポイント:スラップ・ハッピー(短歌的でメロディアスなグループ)とのコラボレーション。Dagmar Krause(ヴォーカル)をフィーチャーした曲が光ります。
- 代表曲・注目曲:Dagmar Krauseの歌唱が際立つ楽曲群、メロディとアヴァンギャルドの融合が聴けます。
- なぜおすすめか:キャッチーさと実験性のバランスが取れており、Henry Cow単体の難解さが苦手なリスナーにも入りやすいです。
- 聴きどころ:歌詞の表現、声の扱い方、ポップと前衛の綱渡りを楽しんでください。
4. In Praise of Learning(政治性と実験の結合)
ポイント:Slapp Happyとのもう1枚の共同作ですが、こちらはよりHenry Cow側のアプローチが強く、政治的主張と複雑なアレンジが目立ちます。RIO運動の思想的背景とも関連する重要作です。
- 代表曲・注目曲:「Living in the Heart of the Beast」的な政治的メッセージを帯びた大作、Dagmar Krauseの鋭い歌唱が武器に。
- なぜおすすめか:バンドとしての主張が最も明確に出ている作品の一つで、歌とインストの対比、構造的な挑戦が魅力です。Henry Cowの「政治的側面」を理解するには必聴。
- 聴きどころ:歌詞の意味や曲の構造(歌パートとインストの対話)に注目すると、楽曲の意図が見えてきます。
5. Concerts(ライブ盤・即興と構成の実践)
ポイント:ライブ録音集で、スタジオ音源とは異なる即興の瞬間や演奏の切迫感が楽しめます。メンバー間の呼吸やリアルタイムでの構築が聴ける貴重なドキュメントです。
- 代表曲・注目曲:ステージでの延長や変奏、インプロヴィゼーションの断片が光ります。
- なぜおすすめか:スタジオ作品では出ない「生の力」を体感できます。バンドのライブ表現が好きな人、即興演奏を重視する人に特にお勧め。
- 聴きどころ:ライブならではのテンション、メンバーのやり取り、会場空気が音にどう影響しているかを感じてください。
6. Western Culture(解体と再構築の最終章)
ポイント:Henry Cowとしての最終的なスタジオ・リリースに近い位置づけ。より作曲的で形式に基づいた楽曲が目立ち、ジャズや現代音楽の作曲技法が前面に出ています。
- 代表曲・注目曲:器楽曲中心の構成で、フリッツやホジキンソンらの作曲性が分かる曲群。
- なぜおすすめか:即興というより作曲的側面に関心があるリスナーには最適。バンドがどのように「解体」と「再構築」を行ったかが聴けます。
- 聴きどころ:楽曲の構造、モチーフの展開、前衛的ながら整理された楽想に注目してください。
入門者向け「すぐ聴くべき3枚」
- In Praise of Learning — Henry Cowの政治性と音楽的野心が一枚で分かる代表作。
- Desperate Straights — メロディと前衛のバランスが良く、まずはここから入るのも手。
- Concerts — スタジオとは違うリアルな迫力が強烈。ライブでの即興を体感したい人に。
ディープリスニングのコツ
Henry Cowの音楽は「繰り返し聴いて発見する」タイプです。一回で全てを理解しようとせず、以下を試してみてください。
- 部分ごとにフォーカス:ドラム、低音、ヴォーカル、管弦のどれか一つに注意を向けると新しい発見が生まれます。
- 歌詞を追う:Dagmar Krauseらヴォーカルがいる曲は歌詞や発語のニュアンスが重要です。和訳や原文を併せて読むと理解が深まります。
- 時代背景を調べる:70年代の政治/文化状況、ロックと現代音楽の接点を知ると、音楽の主張が見えてきます。
- 違う録音を比較する:スタジオ盤とライブ盤での差異を聴き比べると、演奏・編曲の多様性が分かります。
コレクター向けの注目点(簡潔に)
オリジナル・プレスや初期リリースはコレクタブルですが、内容の理解にはリマスター盤やボックスセットも有用です。ボックスセットには未発表音源や長尺の即興が収録されていることが多く、研究・深掘り目的には最適です。
まとめ
Henry Cowは「一回聴いて終わる」バンドではなく、何度も向き合うことでその深さが出てくるアーティストです。入門には「Desperate Straights」や「In Praise of Learning」を、より深く実験性を味わいたければ「Unrest」や「Concerts」をおすすめします。各アルバムはそれぞれ異なる顔を持つため、聴き比べることでバンドの多面性が楽しめます。
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参考文献
- Henry Cow — Wikipedia
- Henry Cow — AllMusic(バイオ・ディスコグラフィ)
- Henry Cow — Discogs(ディスコグラフィ)
- Henry Cow — Calyx (Canterbury Scene & Related)(詳細解説)
- Rock in Opposition(RIO)公式サイト


