1080iとは何か?解像度・走査方式・デインタレースの基本と現場での実務ガイド

1080iとは — 基本の理解

「1080i」はテレビや映像の世界で使われる解像度と走査方式を示す表記の一つで、横1920ピクセル×縦1080本の解像度(いわゆるフルHD)を持ち、走査方式がインターレース(i = interlaced)であることを意味します。一般的な表記例としては「1080i50」「1080i60(正確には59.94)」などがあり、末尾の数字はフィールド(=走査の半フレーム)の毎秒更新回数を示します。

解像度と走査方式の仕組み

まず「1080」の数値は垂直方向の有効走査線数(ピクセル行数)を指し、「1920×1080」が画面のピクセル数となります。インターレース方式では1フレームをさらに2つのフィールド(奇数行=上位フィールド、偶数行=下位フィールド)に分割して交互に表示します。各フィールドは縦方向に540行分の情報を持ち、時間的には隣り合うフィールドが半フレーム分(1/2フレーム)だけ時間的にずれて撮影・表示されます。

フレーム・フィールド・リフレッシュレートの混同に注意

よくある混乱点として「60」と「30」の違いがあります。1080i60(正確には1080i59.94)と表記される場合、通常これは「1秒あたり60フィールド(約59.94)」を意味し、フィールドが2つで1フレームを構成するのでフレームレートは約30fpsになります。同様に1080i50は50フィールド/秒で、フレームでは25fpsです。したがって「1080i60 = 30フレーム/秒相当(ただし実際の表示はフィールド単位)」という区別が重要です。

放送規格・伝送と色空間

  • 放送での主な規格:多くのハイビジョン放送では、1080iは主要なフォーマットの一つとして採用されてきました。欧州や日本の多くの放送は1080i50(50フィールド/秒)、北米では1080i59.94が多く用いられます。
  • 色空間:ハイビジョン映像では一般にITU‑R BT.709(いわゆるRec.709)が採用され、色の基準が定められています。1080i自体は走査方式・空間解像度の規定であり、色深度や色サンプリング(4:2:0 / 4:2:2 / 4:4:4)とは別の次元です。
  • 伝送:未圧縮の1080i映像はHD‑SDI(SMPTE 292M)で単一リンクの約1.485 Gbit/s帯域で扱えます(NTSC系の59.94系では1.485/1.001 Gbit/sが使われることがあります)。

1080iの利点・採用理由

  • 空間解像度が高い:同世代の720pと比較すると静止画や細部解像度では有利(縦1080行)。
  • 帯域効率:インタレースは同じ空間解像度で走査情報(時間分割)を利用するため、当時の放送帯域や伝送規格の制約下でより高い見かけの解像度を低帯域で実現できた。
  • 歴史的経緯:既存のインフラやカメラ、編集機器の互換性確保の観点から放送局に広く採用された。

欠点と視認される問題点(特に動きのある映像で)

  • 動きに対するアーティファクト:被写体が高速に動くと、フィールド間で時間差があるため輪郭が二重になる、ジッターや縦方向のノイズが現れるなどの問題が出る。
  • 解像度の実効低下:動きがある部分では、1フレーム分の空間解像度(1080行)が維持されず、視覚的には垂直解像度が低下することがある。
  • 表示機器の互換性:現代の液晶や有機ELなどのディスプレイはプログレッシブ表示が基本なので、受信側でデインタレース処理を行う必要がある。デインタレースの品質によって見え方が大きく左右される。

デインタレース(インタレース解除)について

インタレース映像をプログレッシブパネルで表示するにはデインタレース処理が必要です。代表的手法は次の通りです。

  • ボブ(Bob):各フィールドを独立したフレームに拡大して表示する方法。動きには強いが垂直方向の解像度が半分になる。
  • ウィーブ(Weave):2つの連続するフィールドを重ね合わせて1フレームとする方法。静止画では有効だが、動きのある部分でゴーストが発生する。
  • モーションアダプティブ/モーションコンペンセーテッド:動き検出を行い、静止部分はウィーブ、動いている部分はボブや予測補間を行う高度な手法。最も自然に見えるが計算コストが高い。

放送機器やテレビは独自の高性能なデインタレースアルゴリズムを搭載しており、デインタレースの良否が視聴品質に直結します。

1080iと720p / 1080pの比較

  • 720p(プログレッシブ):解像度は1280×720だが、フレーム単位で高い時間分解能(例:60p)を維持できるため、スポーツなど高速動体の表現が滑らか。
  • 1080i:静止・微細表現で有利だが、インタレースゆえに動きのあるシーンでアーティファクトが出やすい。
  • 1080p:フルHDのプログレッシブ。画面解像度と時間解像度(例えば24p/30p/60p)を両立でき、表示機器との親和性も高い。近年はストリーミングやBlu‑ray、放送でも1080pや4Kに移行が進んでいる。

制作・編集・配信上の注意点

  • 素材の整合性:混在するフレームレート(24p、25p、30p)やフィールド順(トップフィールド先行/ボトムフィールド先行)に注意。フィールド順の誤りは編集や再生時にフリッカーや映像の跳びを生む。
  • 編集ソフトの扱い:現代の編集環境ではインタレース素材を扱う場合、最初に適切なデインタレース/コンバート処理を行い、内部をプログレッシブで統一してからエフェクトや合成を行うのが望ましい。
  • 配信と圧縮:ストリーミング配信では多くの場合エンコーダでプログレッシブに変換してから圧縮する。インタレースをそのまま圧縮すると、デインタレースの品質が悪化して視聴品質が落ちる可能性がある。

フィールド順(Field Order)の重要性

映像には「どちらのフィールドを先に表示するか」というフィールド順の情報があります(Top Field First / Bottom Field First)。編集やエンコード時にこの情報が間違うと、細かい動きでチラつきや映像の不自然さが生じます。特に素材の変換やコーデック間のやり取りではフィールド順を明確に扱うことが重要です。

現在の位置づけ・将来性

過去数十年にわたり1080iは地上波・衛星・ケーブルのハイビジョン放送で主流の一つでしたが、パネル技術や伝送帯域の向上、ストリーミングの普及により1080pや4K(2160p)への移行が進んでいます。現在では放送局やストリーミング事業者は、番組制作や配信でプログレッシブ制作(1080p、4Kpなど)を選ぶことが増え、受信側のテレビやディスプレイもプログレッシブ表示が標準です。ただし、既存インフラやライブ放送の互換性の観点から、当面は1080iが完全になくなるわけではありません。

実務的なまとめ(現場での判断基準)

  • スポーツや高速動体が多い番組:720pや高フレームレートのプログレッシブを優先する。
  • 静止画や情報量重視(細部重視)の番組:1080iでも静止や低速動体では高い品質が期待できる。
  • 配信・オンデマンド向け:最終的にはプログレッシブ化(1080pまたはそれ以上)しておくのが無難。
  • 編集ワークフロー:素材のフィールド順・フレームレートを揃え、必要に応じて高品質なモーション補償型デインタレースを利用する。

まとめ

1080iは「1920×1080のフルHD解像度をインタレースで扱う」方式であり、帯域効率や静止解像度の面で利点がありますが、インタレースによる時間差ゆえに動きのある映像でアーティファクトが生じやすいという特性を持ちます。現代のディスプレイや配信環境ではプログレッシブが主流になりつつありますが、放送インフラや既存資産の関係で1080iが用いられ続ける場面も多く、制作・配信の現場ではデインタレースやフィールド順の扱いなどに十分な注意が必要です。

参考文献