The Incredible String Band(ISB)の名盤完全ガイド:入門から深掘りまで聴き方と聴く順番を徹底解説
イントロダクション — The Incredible String Bandとは
The Incredible String Band(以下ISB)は、1960年代後半に英国フォーク/サイケデリック・シーンで一線を画したグループです。中心人物のロビン・ウィリアムソン(Robin Williamson)とマイク・ヒーロン(Mike Heron)を軸に、伝統的フォーク、ルネサンス音楽、アフリカや中東を含む“ワールド・ミュージック”的な楽器・旋律、そして詩的・神秘的な歌詞を融合させた独自の音世界を作り上げました。
彼らの魅力は単なる“フォーク”の枠を超えた自由な編曲と実験精神、そして楽器の多様さ(リュート、シタール、コーネ、テルミン類似の電子楽器なども時に使用)にあります。本コラムでは、これからISBに触れる人/コレクションを深めたい人向けに「まず押さえておきたい名盤」を中心に、各アルバムの聴きどころや楽しみ方を詳しく解説します。
おすすめの聴き方(全体のガイドライン)
- アルバムを“一つの世界”として聴く:ISBの多くの作品は、曲と曲の間に流れがあり、アルバム全体で一つのムードや物語を作ります。個別曲ではなくアルバム通しで聴くことを勧めます。
- 歌詞と編成に注目する:迷信的・神秘詩的なイメージ、伝統歌謡のリフレイン、そして二人のソングライター(Heron/Williamson)それぞれの作風の違いに注目すると味わいが深くなります。
- ヘッドフォンでの細部確認:多彩な楽器と多重録音のテクスチャーがあるため、ヘッドフォンで細かな響きや残響を拾うと発見が多いです。
- 時代背景を想像する:1960年代後半のカウンターカルチャーやサイケデリアの文脈をふまえると、歌詞やサウンドの“実験性”がより明確になります。
必聴盤(厳選紹介)
The 5000 Spirits or the Layers of the Onion(1967)
概説:ISBの初期傑作の一枚で、民謡的な要素と精神世界を探る歌詞世界が出揃った作品です。アコースティックを基調にしながらも、非西洋楽器や不協和音的な編成が効果的に用いられ、聴き手を“層(layers)”のある世界へ誘います。
聴きどころ:
- アルバム全体の構成が緻密で、各曲が異なるテクスチャーを提供するため、最初に聴く入門盤として最適。
- HeronとWilliamsonそれぞれの作風の違い(よりフォーキーでメロディアスな曲と、より詩的で実験的な曲)が対比されている点に注目。
The Hangman's Beautiful Daughter(1968)
概説:ISBの代表作にしてサイケデリック/フォークの金字塔と評されるアルバム。叙情性と実験性が最高潮に達した作品で、当時の批評家からも高く評価されました。
聴きどころ:
- 長尺で展開のある曲(バンドのダイナミクスと物語性を体感できる)を含み、アルバム全体が“一つの大作”のように感じられます。
- ボーカルのレイヤー、非西洋楽器の小品的挿入、そして詩的な歌詞による“夢幻的”な雰囲気が秀逸。
- 代表曲のひとつ「A Very Cellular Song」はその構成の多層性と感情の幅で特に注目に値します。
Wee Tam and the Big Huge(1968)
概説:同年に発表された二枚組的発想の作品で、片方がより内省的(Wee Tam)、もう片方がより開放的(Big Huge)な感触を持ちます。ISBの“二面性”が如実に出たアルバムです。
聴きどころ:
- アルバムの両極にある音楽観(繊細で瞑想的な側面と、劇的で外へ向く側面)の違いを味わうことができます。
- スートリーテリングや長い演奏パート、民族楽器の導入など、ISBの多様性がほぼ一枚に凝縮されています。
初期セルフタイトル盤:The Incredible String Band(デビュー・アルバム、1966)
概説:彼らの出発点。よりフォーク寄りの冷静なアレンジながら、すでに後の実験性の芽が見える作品です。まずはこちらを聴いてバンドの基礎をつかむのも有効です。
聴きどころ:
- よりストレートなフォーク・ソング構造が多いので、Heron/Williamsonのソングライティングの違いを素早く掴めます。
- 後期作と比べて音像がシンプルなため、細部のアレンジや歌声に集中して聴けます。
その後の作品(概要)
1970年代に入ると、ISBはメンバーの入れ替わりや作風の変化により、フォーク/ロック寄りのスタイルに寄る作品も出始めます。初期〜全盛期の実験的な魅力を中心に楽しみたい場合は、1966〜1968年の一連の作品群(上記3枚)は外せません。
各アルバムで注目すべき“聴き方”のポイント
- 作曲者ごとの差異を比べる:Mike Heronの曲はメロディ主導でやや外向的、Robin Williamsonの曲は物語性や民俗学的要素、神話的モチーフが目立つ—という傾向があります。
- 短い“器楽曲”にも注目:ISBは短い器楽的挿入曲を多用し、これがアルバム全体の雰囲気をつくる役割を果たします。曲間の細部を切り取って聴くと新たな発見があります。
- 歌詞の反復・コーラスの使い方:反復的なフレーズやちょっとしたコーラスが催眠効果を生み、詩的イメージの定着に寄与します。
どの版(プレス/リマスター)を選ぶべきか(簡潔に)
コレクター的価値を求めるならオリジナルLP(UKはIslandなど、USはElektraなど)を探すのも一案ですが、音質や解説書の充実を求めるなら公式リマスターCD/配信で高評価のものを選ぶと良いでしょう。リイシューによってはボーナス・トラックや未発表音源が付くことがあり、歴史的コンテクストを補完してくれます。
入門〜深掘りのための聴取順(推奨)
- まずは「The 5000 Spirits」→「The Hangman's Beautiful Daughter」→「Wee Tam and the Big Huge」を通して聴き、ISBの“黄金期”を一気に把握する。
- 気に入ったアルバムの曲を個別に繰り返し聴き、作曲者や楽器編成を確認する。歌詞カードがあると詩の世界により入りやすい。
- さらに深めたい場合はデモ音源やコンピレーション(未発表曲集)に手を広げると、録音の変遷や別アレンジを楽しめます。
最後に — ISBが今に残すもの
ISBの音楽は「民族音楽の断片をサイケデリックな感性で編む」ような独自性があり、同時代のフォークやロックと一線を画します。アルバム単位での“世界観”の作り方、異文化楽器の取り入れ方、詩的で時に不可解な歌詞世界は、現代のリスナーにも新鮮な驚きを与えるはずです。まずは上で挙げた三作をじっくり聴いて、そこから彼らの周辺作品へと広げていくことをおすすめします。
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参考文献
- The Incredible String Band — Wikipedia
- The 5000 Spirits or the Layers of the Onion — Wikipedia
- The Hangman's Beautiful Daughter — Wikipedia
- Wee Tam and the Big Huge — Wikipedia
- The Incredible String Band — Discogs(ディスコグラフィ)


