Pixinguinhaのショーロ録音を聴く完全ガイド:時代別おすすめ盤と聴きどころでブラジル音楽の近代化を読み解く
イントロダクション — Pixinguinhaとは何者か
Pixinguinha(本名:Alfredo da Rocha Viana Filho、1897–1973)は、ブラジル音楽、とくに「ショーロ(choro)」の近代化を担った最重要人物のひとりです。フルートやサクソフォン奏者、編曲家、作曲家としての活動を通じ、20世紀前半の都市音楽に新しい和声感やアンサンブル技法を持ち込みました。代表作「Carinhoso」をはじめとするメロディの豊かさ、緻密な編曲、即興と書譜のバランスは、現代のブラジル音楽にも大きな影響を与えています。
このコラムの狙い
ここでは「Pixinguinhaを聴くためのおすすめレコード(=録音)を深掘り」します。オリジナル78回転盤から良質なリイシュー、コンピレーションまで、どの録音が何を聴かせてくれるか、なぜ重要かを解説します。レコードそのものの再生・保管・メンテナンスについての解説は行いません。
おすすめ録音の選び方(鑑賞の視点)
- 歴史的価値:初出時の演奏様式や楽器編成が残るもの(1910–1930年代の78回転収録)
- 作曲・編曲の代表作:Pixinguinhaの作法が最もよく表れている曲(例:Carinhoso)
- アンサンブルの違い:室内的な小編成から、オーケストラ風の編成まで比較する
- 音質と注釈:良いリイシューは音質改善だけでなく詳細な解説(データ、年表、奏者情報)を添えている
おすすめの録音カテゴリ(深掘り)
1) Os Oito Batutas の初期録音(1919頃〜1920年代)
Pixinguinhaが率いた楽団「Os Oito Batutas」は、ショーロにジャズ的要素やアフロ=ブラジルのリズムを取り込んだ先駆的な存在です。オリジナルの78回転盤はコレクターズアイテムですが、音楽史的価値は圧倒的。曲によっては演奏のエネルギーや編成感がそのまま聴け、当時の都会的なサウンドの息遣いを知ることができます。
- 聴きどころ:アンサンブルの掛け合い、管楽器と弦楽器のバランス、初期ショーロに見られるリズム感。
- おすすめ入手形態:良質なリマスターを収めたコンピレーションCDやデジタル配信(注釈付きのもの)を優先。
2) 1930年代の録音(編曲家・編成の成熟期)
1930年代に入るとPixinguinhaは編曲技術をさらに高め、ブラスや弦楽器を使った語るようなアレンジを行います。この時期の録音には、後年の流行曲となるメロディーの原型や、近代的なハーモニー感が豊富に含まれており、彼の作曲家/編曲家としての成熟を聴き取ることができます。
- 聴きどころ:メロディの歌わせ方、和声の色づけ、歌手やソロ楽器の扱い方。
- 代表的な楽曲(必聴):Carinhoso(作曲:Pixinguinha、のちに歌詞が付くことでも有名)
3) ラジオ/スタジオ録音(中期〜後期)
ラジオ時代のスタジオ録音は、録音条件や編成の違いから多様な表現を残しています。中期以降の録音では音質面でも改善が見られ、演奏のニュアンスや細かな編曲の仕掛けが比較的クリアに聴けます。Pixinguinhaの表現レンジ(叙情性〜切れ味)を確認するには最適です。
- 聴きどころ:ソロのフレージング、楽器間の呼吸、スタジオならではの細部。
- おすすめポイント:放送アーカイブや注釈付きのCD再発で時代と演奏を照合するのが面白い。
4) 後年の録音・リバイバル期(1950s〜)
1960年代以降の録音には「ショーロ復興」や「近代的録音技術」を取り入れた演奏も多く、若手奏者による再解釈も含まれます。Pixinguinha自身の晩年録音や、彼の作品を後世の名手が演奏した盤は、原曲の持つ普遍性を確認できます。
- 聴きどころ:現代的な録音で聴くピクシンギーニャ楽曲の表情、若手による編曲の新しさ。
5) コンプリート/ボックスセット類(体系的に把握するために)
研究的に聴くなら、年代順に並べられたコンプリート集や注釈付きボックスセットがおすすめです。音源の出典情報(オリジナル盤の年月、奏者名、スタジオ情報)が詳述されているものは、学術的にも価値があります。
- 入手ポイント:ライナーノーツの充実度、出典の明記、リマスタリングの方針をチェック。
代表曲・名演の聴きどころ(曲ごとの深掘り)
ここではPixinguinhaを代表する楽曲を挙げ、どの録音で何を注目して聴くべきかを解説します。
Carinhoso
最も知られた作品の一つ。メロディの美しさと人の声との親和性で多くの編曲・録音が存在します。初期の器楽版と、後に歌詞が付いてヒットしたヴォーカル版とを比較すると、メロディの扱われ方、編曲の選択がよくわかります。Pixinguinha自身が関わった演奏(器楽/オーケストレーション)を原型として聴き、その後の歌唱版との違いを味わってください。
Rosa / Lamentos(注:楽曲名の表記は盤によって差異があります)
抒情的な小品はPixinguinhaの「歌わせる」技術がよくわかる素材です。メロディラインの輪郭、間(ま)の取り方、サクソフォン/フルートの音色処理などを注目して聴くと、彼の編曲観が見えてきます。
どの盤を買うべきか:実用的なガイドライン
- まずは注釈付きの良質コンピレーションで入門:音質改善と解説で時代背景を掴むのが効率的。
- 演奏史を深めたいなら年代順のボックスセット:オリジナル順に聴くとスタイル変遷がクリアに見える。
- コレクター志向ならオリジナル78回転盤のオリジナル音源を探す:音色や演奏の当時性を味わえる(ただし再生環境と盤の保存状態を考慮)。
- 現代的な音で楽しみたい場合は、信頼できるリマスター/リイシュー(ライナーノーツ充実)を選ぶ。
聴き比べの楽しみ方(具体的な聴取プラン)
- 同一曲の「初期録音」「中期スタジオ録音」「現代リメイク」を順に聴く:作曲→編曲→演奏解釈の変遷が分かる。
- アンサンブル編成ごとに比較:小編成(室内的)vs. 大編成(オーケストラ風)で楽曲の物語性がどう変わるか観察。
- ライナーノーツを読みながら聴く:奏者名や制作背景は聴き取りのヒントになる。
入手先の目安(見つけやすい場所)
- 大手配信サービス:Pixinguinhaの代表曲やリイシューはSpotify/Apple Music等で見つかることが多い
- 専門レコードショップ/ディストロ:ブラジル音楽を扱う店や中古盤ショップで良好なCDやアナログが見つかる
- オンラインマーケット(Discogs等):オリジナル盤や詳細な出典情報を確認できる
- 図書館・音楽アーカイブ:大学や公共機関の音楽アーカイブに貴重録音が所蔵されている場合がある
最後に:Pixinguinhaを聴く意味
Pixinguinhaは単なる過去の巨匠ではなく、現代のブラジル音楽の根幹にある感性や技術を形づくった人物です。録音を通して彼のメロディの語り口、和声の選択、アンサンブルの振る舞いを辿ることは、ショーロというジャンルだけでなく、ラテン系都市音楽の理解を深めることにもつながります。まずは注釈付きの良質なコンピレーションで入り、気に入った時代・編成を深掘りする流れが失敗の少ない楽しみ方です。
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参考文献
- Pixinguinha — Wikipédia (ポルトガル語)
- Pixinguinha — Wikipedia (英語)
- Discogs: Pixinguinha 検索結果
- Smithsonian Folkways — 検索(Pixinguinha 関連資料)
※もっと具体的な「LP/CDのタイトルとカタログ番号」や「年代別のおすすめディスク一覧」をご希望でしたら、目的(鑑賞/研究/コレクション)を教えてください。ニーズに合わせて盤目(catalogue)をリストアップします。


