ピエール・アンリとミュージック・コンクレート入門—素材主義と編集で拓く電子音楽の歴史と代表作
Pierre Henry — プロフィールと概略
Pierre Henry(ピエール・アンリ、1927年12月9日 - 2017年7月5日)は、フランス出身の作曲家で、磁気テープや日常音を素材として音楽作品に組み込む「ミュージック・コンクレート(musique concrète)」の代表的な先駆者の一人です。ピエール・シェフェール(Pierre Schaeffer)との共同研究と制作を通じ、音の編集・モンタージュを作曲技法として確立し、戦後の実験音楽、電子音楽、舞台芸術に大きな影響を与えました。
音楽的手法と特徴
- 素材主義(音そのものを作曲素材にする)
ピエール・アンリは、楽器の音だけでなく、機械音、生活音、声、環境音などを録音して素材とし、それらを切り貼り、変速、逆再生、フィルタリングなどの加工を行って音楽的文脈に組み込みました。 - 編集(モンタージュ)による構築
磁気テープの切断・継接やフェード、テープ速度の操作など、編集行為自体を作曲手続きと見なして作品を組み立てました。時間の流れや因果関係を編集で再構成する語り的な感覚がしばしば見られます。 - ハイブリッド性:アコースティックと電子の融合
単なる「ノイズの寄せ集め」ではなく、伝統的な旋律やリズム、声や楽器音を巧みに組み合わせることで、聴き手に親しみや身体的な反応を与える作品を作りました。舞踏や劇場作品のための音楽であることが多く、「聴く」だけでなく「身体と空間」に働きかけます。 - 舞台的・視覚的な思考
ダンスや舞台作品のために音楽を制作することが多く、音楽は視覚・身体表現と結びついて機能しました。このためドラマ性や構成の明確さが作品の特徴になっています。
代表作・名盤(解説付き)
- Symphonie pour un homme seul(共作:Pierre Schaeffer, 1950)
ミュージック・コンクレートの歴史的なマイルストーン。様々な生活音や声を組み合わせ、人間の活動や心理の断片を音響で綴る大作です。シェフェールとの共同制作は、このジャンルの理論と実践を定着させました。 - Variations pour une porte et un soupir(1963頃)
ドアのきしむ音やため息を素材にし、シンプルな音素材を多彩な音響的変化へと展開させる例。日常音の中に潜む音楽的可能性を鋭く示します。 - Messe pour le temps présent(1967、振付:Maurice Béjart)
舞踏家モーリス・ベジャールのために書かれた作品で、よりエンターテインメント性・リズム感を加えた構成が特徴。中でも「Psyché Rock」はその後ポピュラー文化や映像で長く引用・参照されることになります。 - その他の注目作
映像作品や舞台音楽、後年のコラボレーション作品なども多く、再発盤やコンピレーションで初期の実験作から舞台音楽まで幅広く聴取できます。
コラボレーションと舞台芸術への貢献
ピエール・アンリは、音楽家だけでなくダンサー、振付家、演出家と密接に共同作業を行いました。特にモーリス・ベジャールとの仕事は有名で、視覚と身体を前提とした「上演可能な音楽」を生み出しました。また、ピエール・シェフェールとの共同研究はミュージック・コンクレートを確立する学術的・実践的土台となり、放送局や研究所を通じて多くの後進に影響を与えました。
作品の聴きどころ・鑑賞ガイド
- 「音=意味」を探す
まずは音そのものに注意して、それが何に由来するかを想像してみてください。楽器音だと思っていたら機械の音だった、という発見がしばしばあります。 - 編集・接続の瞬間に注目する
テープ編集やフェード、音のぶつかり合いが作るドラマ性に耳を傾けると、作曲家の時間操作の巧みさが見えてきます。 - リズム感と身体性を感じる
ミュージック・コンクレートはしばしば抽象的と思われますが、律動的要素や身体的反応を誘う音作りが多く、スピーカーの前で身体の動きを感じ取ると楽しめます。 - 歴史的文脈を意識する
戦後の録音技術・放送文化の発展と密接に結びついているため、当時の技術的制約や工夫を念頭に置くと作品の革新性がより明確になります。
Pierre Henry の魅力 — なぜ聴き続けられるのか
彼の音楽は単なる実験や理論の証明にとどまらず、強いドラマ性と身体性を持っています。日常の音を詩的に再編集して「聴き手の想像力」を刺激する表現は、現代のサンプリング文化やサウンドアートにも通じる普遍性を持ちます。さらに、舞台芸術との結びつきは音楽を視覚・身体表現と統合し、単独で聴くときとは異なる多層的な体験を提供します。
影響と評価
ミュージック・コンクレートという概念を実践的に示したことにより、アンリは電子音楽、実験音楽、サウンドデザイン、映画・舞台音楽など広範な分野に影響を与えました。テープ編集やフィールド録音を作曲手段として定着させた点、音そのものを作曲素材として再評価させた点は特に評価されています。近年は再評価とリイシューも進み、新しい世代の音楽家やリスナーによって再発見されています。
聴き始めのおすすめ順(初心者向け)
- まずは「Messe pour le temps présent」の抜粋や名曲を聴いて、舞台音楽的な親しみやすさを感じる。
- 次に「Symphonie pour un homme seul」を通してミュージック・コンクレートの骨格を体験する。
- そこから個別の短い作品やコンピレーションで、実験的な技法や細部の音響表現を味わう。
まとめ
Pierre Henryは、音の素材性を徹底的に探究し、編集という行為を作曲の中心に据えたことで音楽表現の地図を書き換えた作曲家です。日常音をポエティックに再編し、舞台や映像と結びつけることで「聴くこと」の領域を広げました。その作品は、歴史的意義だけでなく、現代の音楽的実践にとってもなお発見に充ちています。
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