ピエール・アンリ:音響の革命家とミュジック・コンクレートの創始者—入門必聴盤ガイド
ピエール・アンリ(Pierre Henry)とは — 音響の革命家
ピエール・アンリ(1927–2017)は、フランスで〈ミュジック・コンクレート(musique concrète)〉の発展を牽引した作曲家の一人です。日常音やノイズ、声、楽器の断片をテープ編集や電子加工で組み替え、「音そのもの」を作曲素材として扱う手法を確立しました。論理的な実験精神と舞踊や映像と結びついた劇的な表現を両立させた点で、20世紀音楽史に大きな足跡を残しています。
入門〜必携レコード(おすすめ盤)
以下は「まず聴くべき」「コレクションに加えたい」ピエール・アンリ作品の選定です。収録内容・聴きどころ、なぜ重要か、入手時の指針を書いています。
Symphonie pour un homme seul(共作:ピエール・シェフェールと)
ポイント:ミュジック・コンクレートの原点的傑作。複数の短い場面(パート)で構成され、声、打楽器、日常音などを編集して「一人の人間」を描く壮大な実験的ドラマです。音響編集の技術と表現の可能性が最も純粋に示された作品として必聴。
聴きどころ:声や息の断片、金属音、足音などがモンタージュされて心理劇のように展開します。初めて聴くと「物語」を感じる人が多いでしょう。
入手指針:オリジナルの初出はラジオや公演向けの作品群で、LP/CD化は複数盤あり。信頼できる再発(ライナーノーツが充実したもの)で傾向を掴むのが良いです。
Messe pour le temps présent(1967/ミシェル・コロンビエ共作)
ポイント:アンリの中でも一般的な聴衆にもっとも訴える作品の一つ。振付家モーリス・ベジャールのために作られたこの仕事は、エレメンタルなリズムやメロディ的フレーズ、電子処理された音声のコントラストが効いており、実験音楽とポップ的感性の橋渡しをします。
聴きどころ:「Psyché Rock」(近年におけるポップカルチャーでの再発見で有名)など、リズム感がありダイナミック。映画・舞踊との親和性が高いのも特徴です。
入手指針:LPのヴィジュアルも魅力的でコレクター人気があります。CD/デジタル再発も出ているので、先に音源を確認してから盤を探すのがおすすめ。
Variations pour une porte et un soupir(訳:扉とため息のための変奏)
ポイント:アンリのサウンドオブジェクトを凝縮した小曲群。タイトル通り「扉」「ため息」「機械音」など身の回りの音を素材にし、ミニマルかつ緻密に変奏を重ねていきます。
聴きどころ:短い断片の連鎖による構築美。アンリ独特のユーモアと冷徹さが同居しており、実験音楽の小品として完成度が高いです。
入手指針:単発のEPやコンピレーションで収録されていることが多いので、アンソロジー盤もチェックしましょう。
作品集・アンソロジー(入門用コンピレーション)
ポイント:初めてアンリに触れるなら、多曲を時系列で聴けるアンソロジーが効率的です。作品の変遷(初期の実験性→映画・舞踊との協働→後年の電子音楽)を俯瞰できます。
聴きどころ:代表作の要所要所を凝縮しているため、気に入った曲を突き詰めてオリジナル盤を探す導線になります。
入手指針:ライナーノーツの有無、曲の出典表記がしっかりしている盤を選ぶと背景知識が得やすいです。
コラボレーション作品・実験的舞台音楽類
ポイント:アンリは舞踊家や映像作家、他の作曲家と多数共作しました。これらの盤は舞台的要素が強く、音だけでも映像や振付の片鱗が感じられるのが魅力。
聴きどころ:音響処理とリズム、劇性のミックス。ライブ録音や映像音楽の盤も探してみてください。
聴き方のガイド(何を注目するか)
- 音の素材感:自然音・金属音・声の扱い方に注目。録音由来の「質感」が作曲の主題になっています。
- 編集の聡明さ:テープ編集でのモンタージュ技法が楽曲構成の要。断片のつなぎ目や対比を意識して聴くと面白いです。
- 舞台性と物語性:作品によっては舞踊やドラマを想定して作られているため、音だけでも「場面転換」を感じ取れます。
- 時代差:初期はよりアヴァンギャルド、後期になるとポップな要素やエレクトロニクスが取り入れられています。年代ごとの特徴を追うと理解が深まります。
レコードを探す・買うときの実務的アドバイス(入手面)
- まずは配信/CDでチェックしてからアナログを探す:アンリの音響はマスタリング差が出やすいので、気に入った録音の出典(オリジナル盤orリマスター)を確認するのが確実です。
- 再発盤のライナーノーツやボーナストラックの有無を確認:音源の出典が丁寧に記載されている再発は価値が高いです。
- ジャケットやクレジットを確認:舞台作品や共作者が多いため、クレジットを見ることで作品の成立背景がわかります。
- 信頼できる店舗やマーケットで:Discogsや専門店、オークションで出典表記をよく読み、出品者の評価をチェックしましょう。
現代のリスナーへ — なぜ今聴くか
サンプリング文化やエレクトロニック・ミュージックの発展を考えると、ピエール・アンリの仕事は“起点”としての価値が高いです。音そのものを素材にするアプローチは現代のビートメイカーやサウンドアーティストにも直結しています。また、舞踊や映像と密接な作品群は、メディア横断的な表現を志す人にも発見が多いでしょう。
まとめ
ピエール・アンリは「音で物語る」ことを徹底した作曲家です。まずは「Symphonie pour un homme seul」と「Messe pour le temps présent」を聴き、その後で短い変奏曲群やアンソロジーに進むと、彼の世界の広がりを効率よく体感できます。再発盤やアンソロジーを活用して、気に入った作品のオリジナル盤を探すのがコレクションの楽しみです。
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参考文献
- ピエール・アンリ — Wikipedia(日本語)
- Pierre Henry — Wikipedia(English)
- Pierre Henry — Discogs(ディスコグラフィ)
- Pierre Henry — AllMusic(バイオグラフィ&ディスコグラフィ)
- Pierre Henry obituary — The Guardian
- INA / GRM — Groupe de Recherches Musicales(関連コレクション)


