ピクセルクロック(ドットクロック)徹底解説:定義・計算・実務への影響と伝送帯域の関係

ピクセルクロック(ドットクロック)とは何か

ピクセルクロック(pixel clock、別名ドットクロック/dot clock)は、ディスプレイや映像伝送において「1秒間に転送されるピクセル(画素)数」を示すクロック周波数です。単位はヘルツ(Hz)や一般的にはメガヘルツ(MHz)で表されます。ピクセルクロックは映像信号のタイミングを決定する基準であり、解像度・リフレッシュレート・ライン長(水平総ピクセル数)・フレーム長(垂直総ライン数)と密接に結びついています。

基礎的な定義と計算式

ピクセルクロックは、1フレームあたりの総ピクセル数(水平総ピクセル数 × 垂直総ライン数)にフレームレート(リフレッシュレート)を掛けた値で求められます。式で表すと:

  • ピクセルクロック = 水平総ピクセル数(HTOTAL) × 垂直総ライン数(VTOTAL) × フレームレート(Hz)

ここで「総ピクセル数」は、実際に表示される有効画素(アクティブピクセル)だけでなく、水平・垂直のブランキング(同期用の非表示領域)を含んだ合計です。HTOTAL = Hactive + Hblank、VTOTAL = Vactive + Vblank です。

実例:よく使われるモードのピクセルクロック

実際の数値例でイメージすると分かりやすいです。下は代表的なタイミング(VESAや古いVGA標準で使われる値)を用いた計算です。

  • 640×480 @60Hz(VGA標準タイミング、HTOTAL=800、VTOTAL=525):

    ピクセルクロック = 800 × 525 × 60 = 25,200,000 Hz ≒ 25.175 MHz(標準値に近い)
  • 1280×720 @60Hz(標準タイミングの一例、HTOTAL=1650、VTOTAL=750):

    ピクセルクロック = 1650 × 750 × 60 = 74,250,000 Hz = 74.25 MHz
  • 1920×1080 @60Hz(HTOTAL=2200、VTOTAL=1125):

    ピクセルクロック = 2200 × 1125 × 60 = 148,500,000 Hz = 148.5 MHz

これらの例は「標準的な(スタンダード)ブランキング」を使った値であり、ディスプレイ/GPUが採用するタイミング(特に水平・垂直ブランキング長)によって変化します。

ブランキング(blanking)と「実効」ピクセル数の重要性

映像信号には表示に用いないブランキング(水平ブランキング/垂直ブランキング)領域があります。これは古いアナログ走査の名残で、同期信号や走査復帰のための時間を確保するために使われます。総ピクセル数にはこれらが含まれるため、同じ「アクティブ解像度」でもブランキングが長いとピクセルクロックが高くなります。

近年のディスプレイやグラフィックスでは、CVT-RB(Coordinated Video Timings — Reduced Blanking)などの「Reduced Blanking」方式が導入され、ブランキングを短縮してピクセルクロックを下げることで伝送帯域を節約することが一般的です(省略される空白時間を短くして、その分ピクセルクロックを低く保つ)。

伝送帯域・ビットレートとの関係

ピクセルクロックは「ピクセル数/秒」を示すので、色深度やエンコードオーバーヘッドを考慮すると、実際に必要な伝送帯域はピクセルクロックにビット/ピクセルを掛けたものになります。たとえば24ビットカラー(8bit×RGB)なら生データ速度は:

  • データレート(bps) = ピクセルクロック(Hz) × 24

ただし、DVI/HDMIなどの物理層プロトコルではエンコードやチャンネル化(例:TMDSの10ビット等)によるオーバーヘッドがあるため、リンクに要求されるシリアルビットレートはこれより大きくなります。例:TMDSでは8ビットを10ビットにエンコードして送るため、目安としてはビットレートに約10/8のオーバーヘッドが生じます(プロトコルにより異なる)。

カメラやイメージセンサにおけるピクセルクロック

ディスプレイだけでなく、CMOSイメージセンサやビデオキャプチャ回路にもピクセルクロックは重要です。センサのADCはピクセルクロックに同期して各画素をサンプリング・転送します。ライン間クロックや露光制御、読み出し速度はピクセルクロックに依存するため、ピクセルクロックを上げればフレームレートや行読み出し速度を速くできますが、ノイズや消費電力、信号線の帯域・ジッタ問題が増します。

設計・運用上の注意点

  • ジッタと位相ノイズ:ピクセルクロックのジッタは映像のジッタリングやタイミングずれを招く。PLL/FLL等で安定化する必要がある。
  • ケーブルやコネクタの帯域:高いピクセルクロックは高い帯域を必要とし、ケーブル長や品質、インピーダンス整合が制約になる。
  • 互換性:ディスプレイやグラフィックスカードは対応可能なピクセルクロック範囲が決まっている。対応外のモードを指定すると表示されない、あるいは破損リスクは低いが動作しないことがある。
  • インターレース vs プログレッシブ:インターレース方式ではフィールドレートとフレームレートが異なるため、ピクセルクロック計算時は扱う「フレーム」か「フィールド」かに注意する。

測定・確認方法

ピクセルクロックは以下のように確認・測定できます。

  • GPU/OSの出力情報:グラフィックスドライバやxrandr等のユーティリティがモードのクロック(ドットクロック)情報を表示する。
  • データシートやタイミング表:ディスプレイやセンサ、GPUのデータシートにHTOTAL/VTOTALや標準タイミングが記載されている。
  • オシロスコープやロジックアナライザ:ビデオ信号ラインを物理的に観測してクロック周波数を直接測定する(HDMI等の高速度信号は専用プローブが必要)。

ピクセルクロックが変えるもの — 実務的なインパクト

ピクセルクロックは単なる数値ではなく、システム設計やユーザー体験に直接影響します。たとえば解像度を上げる/リフレッシュレートを上げるとピクセルクロックが上がり、結果的にGPUのメモリ帯域、伝送ケーブルの性能、ディスプレイの受信回路の能力が問われます。逆にReduced Blankingを用いると同じ表示をより低いピクセルクロックで実現でき、特に長距離伝送や帯域制限のあるシステムで有利です。

まとめ

ピクセルクロックは、ディスプレイや映像系のタイミング設計で中心的な役割を担う指標です。解像度・リフレッシュレート・ブランキング等の要素と結びつき、伝送帯域やハードウェア要件に直接影響します。システム設計やトラブルシューティングでは、ピクセルクロックを正しく計算・測定し、使用するインターフェースやケーブル、受像機器の上限を把握することが重要です。

参考文献