CPUマイニング入門ガイド:RandomXとMoneroを軸に解説する仕組み・採算性・セキュリティ・最新動向
CPUマイニングとは何か
CPUマイニングとは、パソコンやサーバーの中心処理装置(CPU)を使って暗号通貨(仮想通貨)のブロック生成やトランザクション承認に参加し、報酬を得る行為を指します。多くの暗号通貨で採用されるProof of Work(PoW)という合意形成アルゴリズムにおいて、計算問題(ハッシュ計算など)を解くことでブロック報酬や手数料を受け取る仕組みです。
仕組み:なぜCPUで計算するのか
- PoWの基本:マイナーはハッシュ関数を何度も試行して、ある条件(ターゲット以下のハッシュ値)を満たす値を見つける必要があります。成功した者がブロックを生成して報酬を得ます。
- CPUの役割:CPUは一般用途の演算ユニットで、多様な命令セットを持ちます。特にメモリ依存型や分岐が多いアルゴリズムではCPUが有利になることがあります。
- ハッシュレートと単位:CPUマイニングの性能は「ハッシュ/秒(H/s)」で表され、アルゴリズムやCPUの世代・コア数・命令セット(SSE/AVXなど)で大きく変わります。
歴史的背景:CPUマイニングからASICの時代へ、そしてCPU回帰
暗号通貨開始当初(例:ビットコイン黎明期)は、CPUでのマイニングが主流でした。しかしGPU(グラフィックカード)が並列処理に優れるため短期間で主流となり、さらに特定アルゴリズム専用のASIC(Application Specific Integrated Circuit)が登場すると、ビットコインのような主要コインではCPU・GPUは事実上使い物にならなくなりました。
一方で、設計段階で「ASIC耐性」を目標にしたアルゴリズムや、メモリや分岐を多用するアルゴリズム(例:CryptoNight、後にRandomX)を採用するコイン(例:Monero)は、再びCPUが比較的有利になる局面を作り出しました。特にMoneroはASICの集中化を嫌い、何度かアルゴリズム変更を行い、2019年以降はRandomXというCPUに最適化された設計を採用しています。
代表的なアルゴリズムとCPU適性
- SHA-256(Bitcoin):ASICが圧倒的に有利。CPUは実用的な競争力を持ちません。
- Ethash(旧Ethereum):GPU有利、メモリハードだがCPUには不利。EthereumはPoSへ移行済み。
- CryptoNight:過去にMonero等で採用。CPU・GPUで戦える設計を目指したが、最終的にはASIC対策のために変更が繰り返されました。
- RandomX:CPUフレンドリーなアルゴリズムとして設計。大きなメモリワーキングセットと乱択的な命令実行を要求し、汎用CPUに有利に働くように作られています(Moneroで採用)。
なぜCPUマイニングが注目されるのか
- 参入障壁が低い:専用ハード(ASIC)や高価なGPUを買わなくても始められる。
- 分散化の観点:特定ハードウェアに依存しないことで、マイニングの集中化を抑えられる可能性がある。
- プライバシーコインとの親和性:Moneroのようなプライバシー重視の通貨はCPU向けアルゴリズムを採用することでコミュニティ主導の分散化を促している。
実際の導入と手順(概要)
一般的なCPUマイニングの流れは以下のとおりです。
- 対象コインとアルゴリズムの選定(例:Monero / RandomX)
- ウォレットの準備:受取用のアドレスを用意する(公式ウォレットやウォレットサービス)
- マイニングソフトの入手:信頼できる公式配布やソースコードを使う(例:XMRigはRandomX対応の代表的ソフト)
- プールの選択またはソロマイニング:個人でソロは報酬が安定しないため、多くはプールに参加
- ソフトの設定:ウォレットアドレス、プール情報、スレッド数、HugePagesの有効化などチューニング
- 稼働・監視:温度、消費電力、ハッシュレートを監視しながら運用
代表的なソフトウェア
- XMRig:Monero(RandomX)向けの代表的かつ広く利用されるオープンソースのマイナー。Windows/Linux/macOSに対応。
- cpuminer(minerd)系:歴史のあるCPUマイナー。古いアルゴリズム向けに使われる場合がある。
チューニングと注意点
- スレッド数の最適化:コア数やハイパースレッディング(論理コア)を踏まえてスレッド数を調整。必ずしも最大値が最良ではない。
- HugePagesの利用:RandomXではHugePages(大きなページ)を有効化するとパフォーマンスが向上することが知られています。
- 電力消費と冷却:長時間高負荷になるため、電力コストとCPU温度管理が重要。消費電力が高いと採算が取れなくなる。
- セキュリティ:公式ソースから入手し、チェックサムや署名を確認すること。マイニング用マルウェア(クリプトジャッキング)による偽ソフトに注意。
採算性の評価
CPUマイニングの収益性は以下の要因で決まります。
- ハッシュレート(CPU性能)
- 電気代(kWh当たりの単価)
- コインの時価とブロック報酬・手数料
- ネットワーク難易度(採掘の競争度合い)
概算は「期待収入 = ハッシュレート × ブロック報酬 × 単価 ÷ 難易度」から計算できますが、難易度や価格は変動するため長期的な見通しは不確実です。多くの場合、家庭用の電力単価ではCPUマイニングは利益が出にくいことが多いため、趣味的・教育的な目的か、電気料金が極めて安価な環境でのみ実利的と言えます。
セキュリティと法的・倫理的注意点
- クリプトジャッキング:他人の端末やサーバーに無断でマイニングソフトを仕込む攻撃が存在します。企業や個人は不審なCPU負荷や通信を監視する必要があります。
- クラウド利用の可否:クラウドプロバイダの利用規約は事業者によって異なり、マイニングを禁止または追加料金対象にしている場合があります。事前に規約確認が必須です。
- 電力契約や自治体ルール:大量の電力を消費する場合、契約や地域の規制に抵触する可能性があるため注意が必要です。
環境面の観点
CPUマイニングも電力を消費する活動であり、電源が化石燃料由来であれば温室効果ガス排出に寄与します。PoW全体に対する批判の一因でもあるため、持続可能性を考えるなら電源のクリーン化やPoS(Proof of Stake)などの代替合意形成の動向を踏まえる必要があります。
将来展望
近年、主要な多くのプロジェクトがPoSや他のコンセンサスメカニズムに移行する動きがあり(例:EthereumのPoS移行)、その場合は「マイニング」自体の需要は縮小します。一方で、プライバシー重視の通貨や小規模な新規通貨の中にはCPUフレンドリーな設計を続けるものがあり、CPUマイニングは完全には消えない見込みです。
RandomXのように「ASIC耐性」を技術的に目指す取り組みは継続し、将来的にも新しいアルゴリズムや最適化が出てくるでしょう。ただし“完全な”ASIC耐性は理論上も現実的にも保証が難しく、ハードウェア設計者がいつか特化回路を作る可能性は残ります。
結論(要点まとめ)
- CPUマイニングはPoWベースの暗号通貨をCPUで採掘する行為であり、特定のアルゴリズム(例:RandomX)ではCPUが有利になる。
- ビットコインなどの主要通貨ではASICの登場によりCPUは実用的ではないが、MoneroのようにCPUフレンドリーなコインも存在する。
- 家庭環境での採算は電気代やCPU性能によって厳しくなることが多く、趣味・研究目的で行なう人が多い。
- セキュリティ(偽ソフトやクリプトジャッキング)やクラウド利用規約、環境負荷などの注意点がある。
参考文献
- Monero: RandomX アルゴリズム導入について(公式発表)
- RandomX 公式リポジトリ(GitHub)
- XMRig(マイニングソフトウェア、GitHub)
- Bitcoin — Mining(Wikipedia)
- OWASP — Cryptojacking(クリプトジャッキング)
- CoinDesk — What is Cryptojacking?


