Jordi Savallとは何者か:ヴィオール奏者が拓く古楽復興と跨文化音楽の世界
イントロダクション — Jordi Savallとは
Jordi Savall(ジョルディ・サヴァール)は、カタルーニャ出身のヴィオール(ヴィオラ・ダ・ガンバ)奏者、指揮者、音楽学者であり、20世紀後半から現代にかけて古楽復興運動を牽引してきた人物の一人です。伝統的な器楽・声楽レパートリーの復元と演奏だけでなく、地中海・イベリア半島・ユダヤ・アラブ・アフリカなどを横断する音楽文化のつながりを探る越境的なプロジェクトでも知られます。その実践は舞台芸術、映画音楽、ディスコグラフィー、教育・研究と多岐に渡り、古楽の聴衆を広げる原動力となりました。
略歴・活動の概観
出身・学び:スペイン(カタルーニャ)で音楽教育を受け、その後スコラ・カントルム・バシリエンシス(Schola Cantorum Basiliensis)などでヴィオールや歴史的奏法を専攻しました。
アンサンブル創設:Hespèrion(Hespèrion XX → Hespèrion XXI)、La Capella Reial de Catalunya、Le Concert des Nations といった古楽専門のアンサンブルを自ら立ち上げ、演奏活動とレコーディングを通じて独自の音楽世界を築きました。
レーベルと映像:自身の芸術的ビジョンを形にするために Alia Vox(アルヤ・ヴォックス)などの自主レーベルや映像制作を行い、研究成果と舞台経験をディスクと映像で発信しています。
越境プロジェクト:地中海・バルカン・中東・アフリカ・アメリカ大陸を含む「文化の交差」をテーマにした大規模プロジェクト(例:「Les Routes de l’Esclavage/The Routes of Slavery」など)で、歴史と音楽の関係を問い直す活動を続けています。
演奏スタイルと音楽的アプローチ
Savall の魅力は単なる“古楽の正確な再現”にとどまりません。以下の要素が彼の演奏を特徴づけています。
歴史的実証主義と表現の融合:史料や楽器史の研究に裏打ちされた演奏を基盤に、深い表現性や即興的な装飾を織り交ぜます。これにより「古い音楽が生きた現在の音楽」として聴き手に届きます。
声と器楽の対話:声楽作品や民謡的な素材を重視し、歌(とくにスカンディナヴィアやセファルディ、イスラム文化圏の影響を受けた歌)との呼応を大切にします。多数の歌手や伝統音楽家と共演することで、多声的・多文化的な響きを生み出します。
編成の柔軟さ:ヴィオールソロから小アンサンブル、大編成のオーケストラ的なLe Concert des Nations まで、曲想に応じて編成を変え、音色とテクスチャーの幅を演出します。
ドラマ性と物語性:プログラム作りが語り(ナラティヴ)に意識的で、アルバムやコンサートを通じて歴史的・文化的な物語を提示する点も特徴です。
代表曲・名盤(入門と深堀りのための推薦)
以下は入門者にも薦めやすく、かつ Savall の多面的な魅力を示す作品群です。
「Tous les Matins du Monde」(映画サウンドトラック) — 映画の成功とともに世界的な注目を集めたサウンドトラック。サント=コロンブや17世紀フランスのヴィオール音楽を通して、Savall の詩情豊かな演奏が広く知られるきっかけになりました。
Hespèrion XX / Hespèrion XXI によるイベリア半島/地中海のレパートリー集 — ルネサンスからバロックにかけてのイベリア系作品、セファルディ(ユダヤ・スペイン)歌曲、地中海周辺の民衆歌を織り込んだプログラムで、地域文化のつながりを感じられます。
「Les Routes de l’Esclavage/The Routes of Slavery」プロジェクト — 大航海時代以降の人と音楽の移動をテーマにした研究・演奏プロジェクト。音楽が担ってきた記憶と痛み、そして混淆の過程を音で辿る壮大な試みです。
Marin Marais や Sainte-Colombe の作品録音 — ヴィオール音楽の古典ともいえる作品群を、深い色合いと歌心で再現しています。ヴィオール・ソロの内的な表現・技術が堪能できます。
なぜ多くの聴衆を惹きつけるのか — 魅力の深堀り
音楽と歴史の“橋渡し”をする姿勢:Savall は単に古い曲を再現するだけでなく、曲が生まれた社会的・文化的背景を掘り下げ、聴衆にその背景を伝えます。音楽が持つ物語性を前面に出すことで、専門外のリスナーにも強い感情的共鳴を呼び起こします。
越境性と包摂性:ヨーロッパ中心の視点に留まらず、イスラム圏やアフリカ、ユダヤ文化などを正面から取り上げ、異文化間の対話を音楽の形で提示します。これは芸術としての普遍性と現代社会への示唆を同時に提供します。
解釈の“生々しさ”:楽譜に書かれている以上のこと(装飾、リズムの弾力、呼吸の取り方)を体現し、「生の演奏」を通じて古楽の躍動感を伝えます。その結果、音楽が現在に生きるものとして復活します。
教育的かつ礼儀正しい情熱:研究・教育活動に力を入れつつ、舞台では聴衆に敬意を払う姿勢が一貫しており、古楽ファンのみならず広い層の信頼を集めています。
ライブやディスクでの楽しみ方・聴くポイント
声(歌)と器楽の「会話」を意識して聴く:ソロのヴィオールだけでなく、歌手や弦・管楽器との対話がプログラムの鍵です。声のフレーズと器楽の応答に注目してください。
テンポとリズムの揺れ:時にテンポが自由に揺れる場面があり、そこに表情と即興性が宿ります。機械的な“均質なテンポ”ではないことを楽しみましょう。
プログラムの背景を少し調べてから聴くと深みが増す:Savall は歴史的コンテクストを重視するため、作曲者や時代背景、言語(歌詞)を少し知っておくと感動が深まります。
遺産・影響
Jordi Savall は古楽の演奏様式、レパートリーの拡張、そして音楽と歴史の結びつけ方に大きな影響を与えました。彼の活動によってヴィオールやセファルディ音楽などへの関心が高まり、若い世代の演奏家や研究者にも多くの刺激を与え続けています。また、自主的な音盤・映像制作を通じて、アーティストが主体的に作品を発表するモデルも示しました。
入門ガイド(何から聴くか)
まずは「Tous les Matins du Monde」のサウンドトラック — Savall の世界観とヴィオールの持つ豊かな声を実感できます。
次に Hespèrion 系のイベリア/地中海プログラム — 地域色豊かな音楽の多様性に触れられます。
さらに「Les Routes de l’Esclavage」などのテーマ・プロジェクトで、音楽と歴史・社会の結びつきを味わってみてください。
まとめ
Jordi Savall は、精緻な音楽研究と感情に訴える演奏を両立させる稀有なアーティストです。単に“過去を再現する”だけでなく、音楽の歴史的役割や異文化間の対話を現在に照らして提示する点が彼の最大の魅力です。古楽に興味がある人はもちろん、文化史や世界音楽に関心がある人にも豊かな発見を与えてくれます。
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