Roger Norringtonの歴史的演奏慣習(HIP)を徹底解説:代表盤と聴きどころ・評価・購入ガイド
はじめに — Roger Norringtonという指揮者
Roger Norrington(ロジャー・ノリントン、1934年生)は、クラシックの「歴史的演奏慣習(Historically Informed Performance:HIP)」を古典派・ロマン派の管弦楽曲へも積極的に持ち込んだことで知られるイギリスの指揮者です。ロンドン・クラシカル・プレイヤーズ(London Classical Players)を創設し、古典派のリズム感やアーティキュレーションを重視した解釈で多くの録音を残しました。ここでは、ノリントンの代表的な録音を深堀りして紹介します。どの盤を聴けば彼の音楽観がよく分かるか、演奏上の特徴や聴きどころもあわせて解説します。
ノリントンの音楽的特徴(割と短めの要約)
- 歴史的演奏慣習の応用:テンポの軽快さ、明快なアーティキュレーション、装飾やフレージングの言語的な扱いを重視。
- 「極力少ない」ヴィブラート:弦のヴィブラートを抑え、音色の透明さと声部の区別を際立たせる。
- リズムの明瞭性:拍節感を強調し、古典派特有の推進力と「会話的」なやりとりを引き出す。
- モダン/臨場楽器の使い分け:古楽器オーケストラ(London Classical Players)で古典派へのアプローチを見せつつ、モダン楽器のオーケストラでもHIP的な解釈を適用することがある。
おすすめレコード(深掘り解説付き)
1) ベートーヴェン:交響曲全集(Stuttgart Radio Symphony/EMI 系録音)
なぜ聴くべきか:ノリントンがHIP的アプローチを交響曲という大作レパートリーに適用した代表作。Stuttgart Radio Symphony(あるいは同等のモダン楽器編成)との全集は、古典派の語法を基にしつつロマン派作品への節度ある「切り替え」を示したものとして注目されます。
- 聴きどころ:テンポの選択(決して遅すぎず、推進力を失わない)、弦の透明さ、管楽器の輪郭の良さ。第1楽章の主題提示部や第2楽章のリズム処理に注目。
- 誰向け:伝統的な厚い「ワイド」なベートーヴェンに飽きた人、楽曲の構成美とリズムの躍動を再発見したい人。
- 批評上の指摘:一部のリスナーには「冷たい」と感じられることも。だが構成の論理を重視する聴取には強く訴える。
2) ロンドン・クラシカル・プレイヤーズによるハイドン/モーツァルト録音(EMI 等)
なぜ聴くべきか:ノリントンとLondon Classical Players(LCP)の組合せは、古典派交響曲や弦楽作品へのHIP的解釈を最も端的に示します。ハイドンやモーツァルトのシンフォニー、交響曲的作品は、スケール感を崩さずに音楽の機知と対話性を浮き彫りにします。
- 聴きどころ:軽やかなリズム、鮮やかなアクセント、各声部のクリアな境界。ハイドンでは「冗談(ジョーク)」的効果や楽句の切り返し、モーツァルトでは風通しの良い連続する説明的フレーズに注目。
- 誰向け:古典派の「原色」を知りたいリスナー。編成の小ささがもたらす透明感が好きな人。
- 備考:古楽器編成での録音は、当時の響きの復元を試みる意味でも興味深い。
3) シューベルト:交響曲(「未完成」&「グレート」等、LCP録音)
なぜ聴くべきか:シューベルトを、ノリントンが古典的語法で再読解するとどう響くかが分かる好例。叙情性と構成感のバランスを模索する解釈で、長大なアーキテクチャがクリアに聞こえます。
- 聴きどころ:「未完成」の第1楽章冒頭のフレーズの歌い方、弦の動きと管楽器の色彩の対比。第2の「グレート」では展開部の有機的な拡大をどう捉えているかを聴き分けてください。
- 誰向け:シューベルトの構造的側面に興味がある人、抒情と形式の両立を楽しみたい人。
4) バロック〜初期古典の合唱・オラトリオ(ヘンデル、バッハなど、合唱団との録音)
なぜ聴くべきか:ノリントンは合唱指揮の経験も長く、バロックや早期古典の宗教曲をHIP的な発声とリズム感で演奏します。合唱の明瞭な語尾処理やリズム感が特徴です。
- 聴きどころ:合唱のアタックとレガートの使い分け、オーケストラとのリズムのかみ合わせ。アリア/合唱の対比が明快。
- 誰向け:バロックのテクスチュア(合唱と管弦楽の絡み)をクリアに聴きたい人。
5) 代表的単発録音(おすすめのシングル盤/小品集)
なぜ聴くべきか:交響曲全集だけでなく、単独の交響曲・協奏曲・室内楽的編成の録音にも彼の音楽観が凝縮されています。強弱の使い方やテンポ選択を短時間で確認するには単発録音が便利です。
- 選び方のコツ:曲によって彼のアプローチの「度合い」が変わるので、自分が興味ある作曲家(例:モーツァルト、ハイドン、シューベルト)を中心に探すとよい。
ノリントン録音の「聴き方」ガイド(実践的なポイント)
- 第1楽章のテンポや発話感に注目:古典派曲は「語る」ようなテンポ感で提示部→展開→再現のドラマが浮き彫りになります。
- 弦のヴィブラート抑制を意識して聞く:声部ごとの輪郭がどのように保たれているか、和声の動きの聴き取りやすさを評価してください。
- 対位法や内声の処理:ノリントンは内部声部を明瞭に表出する傾向があり、普段聞き流している内声の動きが際立ちます。
- 管楽器の配置と応答:ノリントンの録音は管楽の輪郭をはっきりさせるため、コールアンドレスポンスが生き生きと聞こえます。
評価と批判(公平な視点)
長所:構成の明瞭さ、リズムの躍動、古典派の「語法」を現代に再提示した点で評価されることが多いです。特にモチーフの扱いが鮮明になり、楽曲の論理が見えやすくなります。
短所:一部の聴衆・評論家からは「冷たい」「表情が抑制されすぎる」と評されることがあります。特にロマン派の叙情性を重視する聴衆には物足りなく感じられる場合があります。
購入・入手のヒント
- まずは一曲(例えばシューベルト「未完成」やベートーヴェンの交響曲1曲)を試聴して、ノリントンの音楽観が自分の好みに合うか確認するのが手堅い方法です。
- 全集を買う前に、ストリーミングで複数盤を比較するのも有益です。演奏が録音された時期やオーケストラの違いで印象が変わることがあります。
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参考文献
- Roger Norrington — Wikipedia
- Roger Norrington — AllMusic
- Gramophone — Roger Norrington 検索結果
- Discogs — Roger Norrington 検索結果


