チャールズ・マッケラスの名盤ガイド:ヤナーチェクからモーツァルトまでの録音選びと聴き方のポイント
はじめに — チャールズ・マッケラスとは
チャールズ・マッケラス(Charles Mackerras, 1925–2010)は、オーストラリア出身の指揮者で、20世紀後半から21世紀初頭にかけてオペラと古典派〜ロマン派、さらにはバロックやチェコ系音楽の分野で広く評価を受けました。特にヤナーチェク(Janáček)の復権的解釈、モーツァルト解釈における様式感、ヘンデルやジルバート&サリヴァンに対する“歴史的考察に基づく現代的な演奏”で知られます。本稿では、レコード愛好家・これから聴く人両方に向け、マッケラスのおすすめ録音を深掘りして解説します。
聴くポイント — マッケラスの“音楽観”
- 言語とリズムの重視:歌ものにおいては「母語のアクセントやフレーズ感」を尊重し、イタリア語やチェコ語の語感を音楽に反映させます。
- 歴史考証と現代性のブレンド:バロックや古典派作品では、古楽や史料に基づく奏法・テンポ感を採り入れつつ、現代のオーケストラ表現を融合させます。
- オペラの台詞性・劇性の追求:音楽をただ美しく鳴らすだけでなく、台本(テキスト)と演技的な流れを重視するため、劇的説得力が高い演奏が多いです。
おすすめレコード(ジャンル別・代表作と聴きどころ)
1) ヤナーチェク(Janáček)— オペラ三部作をまずは聴く
おすすめ作品:Jenůfa(イェヌーファ)、Káťa Kabanová(カーチャ・カバノヴァー)、The Cunning Little Vixen(かしこい小狐)
- なぜ聴くか:マッケラスはヤナーチェクの語法(言語に由来するリズム、和声の扱い、民謡的要素)を深く理解し、20世紀後半におけるヤナーチェク再評価の立役者の一人となりました。
- 聴きどころ:セリフ的フレージング、劇的鋭敏さ、管弦の色彩づけ。特に場面転換や独白でのテンポ変化に注目すると彼の劇的構築がよく分かります。
- おすすめの聴き方:まずはスタジオ録音の全曲盤で筋書きを追い、その後ライブ録音で演劇性の違いを比べると面白いです。
2) モーツァルト — 様式の理解に基づく透明感
おすすめ作品:オペラ(Le nozze di Figaro / Don Giovanni / Così fan tutte)や交響曲・協奏曲の名盤
- なぜ聴くか:マッケラスは「モーツァルト=軽やかさ」のみならず、モーツァルトの内面の緊張やリズムの骨格を浮かび上がらせることで知られます。古楽的要素を取り入れた解釈も多く、歌手との対話を重視します。
- 聴きどころ:テンポの柔軟性、ハーモニーの透明さ、歌手の言葉の扱い。特にアリアの語尾やレチタティーヴォでの表情付けが印象的です。
3) ヘンデル/バロック作品 — 史料志向だが豊かな歌心
おすすめ作品:Messiah(メサイア)やRodelinda などのオラトリオ/オペラ
- なぜ聴くか:マッケラスはバロック作品を単純な古楽演奏に留めず、歌手の表現やドラマ性を重視した“現代的かつ史料に基づく”アプローチをとります。
- 聴きどころ:通奏低音的な伴奏の透明感と、声部の明瞭な対話。合唱を含む部分では語りのような明瞭さが際立ちます。
4) ジルバート&サリヴァン(Gilbert & Sullivan)— 演劇的センスの極致
おすすめ作品:The Pirates of Penzance(海賊)、The Mikado(ミカド)などのオペレッタ録音
- なぜ聴くか:劇のテンポ、台詞の妙、ユーモアの運びを活かした演奏で、オペレッタの機知とリズムを作品世界として活写します。
- 聴きどころ:テンポの切り返し、合唱のアンサンブル、語りと歌の境界を生かした演出性。
5) チェコ/スラヴ系オーケストラ作品(スメタナ等)
おすすめ作品:Smetana(売られた花嫁)などの民族色の強いレパートリー
- なぜ聴くか:チェコ音楽に対する深い愛着と理解があり、リズムや民謡的色彩を自然にオーケストラに与えます。
- 聴きどころ:舞曲的リズムのキレ、民族的メロディの歌わせ方、管弦楽の色彩感。
録音を選ぶコツ(どの盤を聴けば良いか)
- 目的を定める:劇的表現や歌唱の魅力を楽しみたいならスタジオの全曲盤、演奏の生の熱気や演出を体感したいならライブ盤を選ぶと良いです。
- 批評とリスナー評を確認:Gramophone、BBC Music Magazine、Opera News のレビューは参考になります。特にオペラは歌手キャストによって印象が大きく変わるため、キャスト一覧をチェックしましょう。
- リマスター/復刻盤を活用:古めの録音でも近年のリマスターで劇的に音質が改善されることがあるため、リマスター盤の有無を確認すると良いです。
入門的な聴き方ガイド(マッケラス世界への導入)
- ステップ1:ヤナーチェクの短めの作品(カーチャや小狐の抜粋)で言語感とリズムをつかむ。
- ステップ2:モーツァルトのオペラで、古楽的な明晰さと歌唱の会話性を確認。
- ステップ3:ヘンデルやジルバート&サリヴァンで、マッケラスの“劇的さ”と“ユーモアの扱い”に触れる。
注意点・聴き比べのポイント
- 同じ作品でも指揮者や時代背景によってアプローチが大きく異なるため、マッケラス盤を他の指揮者(例えば、ヤナーチェクならカルロス・クラーベやジャナーチェクの現代的解釈をする指揮者)と並べて聴くと、彼の独自性がよく分かります。
- オペラ録音は歌手キャストの好みが分かれるため、歌手名を確認してから購入すると失敗が少ないです。
まとめ — どんなリスナーにおすすめか
マッケラスは「細部の詩的解釈」と「台本・言語に基づく劇性」を重視するため、オペラの“語り”や“芝居”を音楽で感じたいリスナーに特に向きます。バロックから近代まで幅広く手がけており、古典派の様式理解と民族的色彩の表出が同居する独特の世界観を持っています。まずはヤナーチェク三部作とモーツァルトの一作を聴き、そこからヘンデルやジルバート&サリヴァンへ広げていくのがおすすめです。
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参考文献
- Charles Mackerras — Wikipedia
- Charles Mackerras — AllMusic (biography & discography)
- Charles Mackerras obituary — The Guardian
- Gramophone — 検索: Charles Mackerras(レビュー記事等)
- Decca Classics — Charles Mackerras(リリース一覧)


