サージ・シャロフ(Serge Chaloff)のバリトン・サックス徹底ガイド:Blue Serge から Four Brothers まで
序文:サージ・シャロフというバリトン奏者
サージ・シャロフ(Serge Chaloff, 1923–1957)は、ジャズ史において短くも強烈な足跡を残したバリトン・サクソフォン奏者です。大編成での「Four Brothers」セクションで名を馳せた一方で、小編成のモダン・ジャズで見せた柔らかく歌うようなフレージング、そして意外なほど多彩な表現力は、バリトンの可能性を押し広げました。本稿では、シャロフの代表的なレコードを深掘りし、それぞれの聴きどころや位置づけを解説します。
まず押さえておきたい背景
シャロフはボストン出身。第二次大戦後のウディ・ハーマン楽団(いわゆる“Second Herd”)で「Four Brothers」ムーブメントの一員として注目され、その後は小編成でのリーダー作を通じてその芸術性を拡張しました。生涯の早い段階で薬物依存や健康問題に苦しみ、1957年に亡くなりましたが、その短いキャリアの中に“バリトン・ソロイスト”としての新しい地平を切り開いた録音が残されています。
選りすぐりのおすすめレコード(深堀り)
1) Woody Herman — "Four Brothers"(ウディ・ハーマン楽団の録音群)
なぜ聴くか:シャロフを語る上で外せない出発点。ビッグバンドの中でバリトンがソロ楽器として光る局面を作り出し、彼の音色とリズム感が注目される機会になりました。
- 聴きどころ:セクション・アンサンブルの一体感と、各ソロイスト(サックス群)の個性が際立つ瞬間。シャロフのソロは力強さと歌心を併せ持ち、当時の標準的なバリトンサウンドのイメージを刷新します。
- 代表曲:タイトル曲「Four Brothers」は必聴。ビッグバンドの編成美の中でバリトンがどのように機能するかがよく分かります。
- 聴き方の提案:アンサンブルの後、シャロフのソロ部分を繰り返し聴き、単語(フレーズ)の選び方、呼吸や音の立ち上がり・終わりを比べてみてください。
2) "Blue Serge"(Capitol、1956年録音)
なぜ聴くか:シャロフのソロ作の中で最も高く評価される一枚。バリトンの「歌心」とモダン・ジャズ語法が凝縮されており、彼の成熟した音楽性を堪能できます。小編成での録音は、各音のニュアンスがクリアに伝わるため、バリトンの豊かな中低域やアーティキュレーションがよくわかります。
- 聴きどころ:メロディへのアプローチ(歌うようなライン)、モーダルやビバップ的な語法の取り込み、そしてダイナミクスの表現。バラードの柔らかさとアップテンポでの推進力の両方を聴き比べるとその幅がよく分かります。
- 代表曲(注):アルバムのタイトル曲「Blue Serge」は必ずチェック。ヴォーカル的なフレージングや音色の変化に注目してください。
- 補足:この盤は「シャロフの最高傑作」と評されることが多く、初めてシャロフを聴く人には最優先に勧めたい一枚です。
3) 「コンピレーション/セッション集」——"Complete Capitol/Savoy Sessions" など
なぜ聴くか:単一アルバムでは拾いきれない多様な側面(リーダー作、サイドマンとしての参加、スタジオ・テイクの違いなど)を通して、彼の成長や表現の幅を追うことができます。特に死去前後の録音群には、意欲的な演奏が多く含まれています。
- 聴きどころ:異なる編成でのアプローチの違い(ビッグバンド vs 小編成)、未発表テイクや別テイクに見られる即興のアイデアの差異、そして時期による音色やフレージングの変化。
- 使い方:時系列で聴き比べることで、技術的・表現的な成熟を感じ取れます。片っぱしから名演を拾うことで“シャロフ像”が立体化します。
4) サイドマン参加盤(ウディ・ハーマン以外)
なぜ聴くか:シャロフはリーダー作以外でも多くの録音に参加しており、そこからは彼が他のミュージシャンとどう化学反応を起こしたかが見えます。特に小編成のセッションでのインタープレイや反応速度は見逃せません。
- 聴きどころ:対話(コール&レスポンス)、即興の受け渡し、伴奏との関係性。ある曲では控えめに、ある曲では前に出てくる彼の“出方”が学べます。
演奏スタイルと聴きどころ(技術面の深掘り)
以下は、録音を聴く際に意識するとよいポイントです。技術的に過度に細かい解説ではなく、「何を聴くか」に焦点を当てています。
- 音色のニュアンス:シャロフの音は太く温かく、しかも瞬間的にフォーカスを絞ることができます。フレーズの冒頭・中盤・終わりで音色が微妙に変化する点を追ってください。
- フレージングの“歌心”:ボーカル的な間(呼吸)とフレーズの終わり方(テールの処理)に注目すると、彼の「語り」をより感じ取れます。
- モチーフの発展:短いモチーフ(リフ)を持ち出し、それを発展させる手法が頻繁に用いられます。あるテイクの中で同じモチーフがどう変化するかを追うと即興の構築が見えてきます。
- リズム感と推進力:バリトンという楽器の重量感を活かしつつ、スウィング感やビバップ的な分散和音の処理で軽やかさも出す、という両立をどう実現しているかを聴き取ってください。
どの盤から聴き始めるのがよいか(初心者向けの順序)
- まずは「Blue Serge」:シャロフの個性が最も濃く出ている“入門編”として最適。
- 次に「Four Brothers」関連のウディ・ハーマン録音:大編成での役割を確認し、他のサックス奏者との対比を体感。
- 最後にコンピレーション:幅広く聴き、キャリア全体の流れを追う。
影響と位置づけ
シャロフの影響は、同時代のバリトン奏者や後の世代のプレイヤーに及びます。ジミー・ガリーフィンやペッパー・アダムス、ジェリー・ムリガンといったバリトン/テナー系奏者たちと比べても、その「歌う感覚」と「下支えする低域の豊かさ」は特徴的です。短命のために作曲的な遺産は多くはないものの、ソロ例や録音はバリトンの表現辞典の重要なページを占めています。
補足:盤の選び方・聴き方のコツ
- アルバム単位で聴く:シャロフは1曲だけで評価されるより、アルバムを通しての表情の変化が面白いタイプです。
- クレジットを見る:録音年やメンバーを見ることで、そのテイクがどの文脈で生まれたかを理解しやすくなります。
- 異テイク比較:可能ならオリジナルLP・CDの別テイクやリマスター前後を聴き比べると、表現の違いが分かります。
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まとめ
サージ・シャロフは短いキャリアながら、バリトン・サクソフォンの表現可能性を大きく広げた奏者です。まずは「Blue Serge」とウディ・ハーマンの「Four Brothers」系録音を押さえ、その後コンピレーションで周辺作を掘る、という順序が効果的です。録音ごとに異なる顔を見せるシャロフの演奏を楽しみながら、「歌う」バリトンの魅力を堪能してください。


