ハイタム(ハイハット)の完全ガイド:歴史・構造・音色・演奏テクニック・選び方・メンテナンス
ハイタム(ハイハット)とは
ハイタム(一般には「ハイハット」と表記されることが多いですが、この記事ではご要望どおり「ハイタム」表記も併記します)は、ドラムセットにおける左右一対のシンバルを上下に組み合わせ、フットペダルで開閉できる楽器です。クラッシュやライドとは異なり、足とスティックの双方で音色をコントロールできるため、リズムの推進力やニュアンス表現に不可欠な役割を担います。
歴史と発展
ハイハットの原型は19〜20世紀初頭の「ソックシンバル(low-boy)」にあります。ソックシンバルは床近くに取り付けられ、足で開閉するだけのものでした。1920年代〜1930年代にかけてスタンドの延長や構造改良が進み、プレイヤーが立って演奏できる高さに調整可能なものが登場、これがモダンなハイハットへと発展しました。ジャズの普及とともにハイハットの使い方も多様化し、スウィング、ビートの刻み、アクセント、ゴーストノートなどに幅広く用いられるようになりました。
構造と主要パーツ
- シンバル(トップ/ボトム): 一対のシンバル。上(トップ)は通常やや薄め、下(ボトム)は厚めに作られることが多い。
- クラッチ: トップシンバルをスティックで叩ける位置に固定するパーツ。取り外してトップを固定したり、位置を変えることが可能。
- シャフト/ロッド: ペダルの動きをシンバルに伝える軸。
- ペダル/フットボード: 足で上下させることでシンバルを開閉する。
- スタンド(脚): 高さや角度の調整を行う。
素材と製法
現代のシンバルは主にブロンズ合金で作られ、代表的なものにB20(約80%銅、20%スズ)やB8(約92%銅、8%スズ)があります。B20は複雑で温かみのある音色、B8は明瞭でエッジの立った音が得られる傾向があります。製法では鋳造や圧延(ローリング)、ハンマリング(手打ちや機械打ち)、ラーティング(切削)などが組み合わされ、メーカーごとのサウンドキャラクターを生み出します。
サイズと種類
- サイズ: 一般的に12インチ、13インチ、14インチ、15インチが使われます。最も一般的なのは14インチ。
- タイプ:
- クラシック/トラディショナル:ジャズに向くウォームでやや細やかなサウンド。
- モダン/ブライト:ロックやポップス向けのアタックが強いタイプ。
- スタック/ミュートドハイハット:薄いシンバルを重ねて短く乾いた音にする現代的な技法。
- エフェクト系(シズル、チャイナスタイルなど):特殊加工や打刻で独特の色付けをしたモデル。
音色と演奏ニュアンス
ハイタムは「チック」「シャッ」「スラッシュ」「オープン/クローズ」など多彩な音色を生みます。足で完全に閉めた状態の「チック」は短く締まった音、半開状態の「シャッ」はサステインが短く粒立ちの良い音、フルオープンではサステインが長くワイドな音になります。トップとボトムの材質・厚さの組み合わせ、ペダルの踏み込み具合、スティックの打点(エッジ/ボウ/ベル付近)で劇的に色が変わります。
テクニックとパターン
- フットワーク: フットだけで8分音符や16分音符を刻むことで手を自由にするテクニック(ゴーストノートとの組合せなど)。
- スティックワーク: クローズ/オープン/半開の切り替えでグルーヴを作る。スウィング系ではシャッフルやスウィングの裏拍で特有のライズと落ちが重要。
- アクセントとゴーストノート: ハイタムの音量や開き加減で小刻みなニュアンスをつける。
- クロス・ハンドやスティック・コントロール: 複雑なパターンでは両手の配置を変えてハイタムを効率的に使う。
記譜と表記
ドラム譜ではハイタム(ハイハット)は通常、上段の線や上のスペースに「x」印で表記されます。オープンは音符の上に「o」や「open」の指示、クローズは特にマークしないか「x」で示します。フットでの刻みは下段に別記するか、「foot hi-hat」などの注釈で示されることが多いです。
レコーディングとマイキング
ハイタムはミックス中に明瞭さを保ちつつ耳障りにならないよう気をつける必要があります。一般的には小型ダイアフラムのコンデンサーマイク(例:AKG C451系、Shure SM81など)や、近接でダイナミック(SM57はスネアに多いが近接で使われることもある)を使用します。マイクの位置はスネアとの位相やシンバルの飛び込みを考慮して決めます。ステレオのオーバーヘッドで全体のシンバルを拾いつつ、専用マイクでハイタムの輪郭を補強するのが一般的なアプローチです(Sound on Sound 等のレコーディング・ガイド参照)。
電子ハイタムとハイブリッド
電子ドラムやハイブリッドセットでは、トリガー付きのハイハットが使われます。ローランド(VHシリーズ)やヤマハ、Alesisなどから様々な電子ハイハットが出ており、ペダルの角度や開口度を細かく検知することでアコースティックに近い表現を目指しています。反応やサンプリングに差があるため、用途に応じた機種選定が重要です。
メンテナンスと寿命
- 日常管理: 使用後はマイクロファイバーで汗や指紋を拭き取る。塩分や汚れの蓄積は表面を傷める。
- クリーニング: パティーナ(経年による変色)を残すか削るかは好み。専用クリーナーは研磨成分を含むものがあり、頻繁に使うと音色を変える可能性があるので注意。
- クラッシュやクラック: 強打や誤った角度での叩き方はクラックの原因になる。ひび割れが出た場合は修理や交換を検討。
選び方のポイント
- 音楽ジャンル: ジャズなら13〜14インチの薄め、ロックやファンクなら14〜15インチのやや厚めが一般的。
- サンプル試奏: レコープ環境で試奏すると、実際の録音での立ち位置が分かる。
- メーカーとシリーズ: Zildjian、Sabian、Paiste、Meinl、Istanbulなどブランドごとに音色傾向がある。B20/B8などの合金違いも確認。
- スタンドとクラッチの相性: 安定性やレスポンスに影響するので、ハードウェアも重視する。
実践的な練習メニュー(初心者〜中級)
- 基礎:8分音符での足と手の同時刻み(右手でスネア、左手でハイタムの刻みを想定)
- ゴーストノート訓練:ハイタム8分の上でスネアに小さくゴーストノートを入れる練習
- 半開コントロール:同じ強さでペダルの踏み加減を変えて音の長さを揃える訓練
- ジャンル別:ジャズ的なシャッフル、ポップ・ロックの裏拍の刻み、ファンクの8分+16分のフィーリング
まとめ
ハイタム(ハイハット)はドラムセットの中心的存在であり、リズムのキャラクターを決定づける重要な要素です。素材やサイズ、構造、演奏テクニックの微妙な違いがサウンドに直結します。ジャンルや演奏スタイルに合った選択、定期的なメンテナンス、そして足と手の独立したコントロールを磨くことで、ハイタムの表現力は飛躍的に向上します。
参考文献
- Hi-hat — Wikipedia
- Choosing Hi-Hats — Zildjian
- Sabian — Education (hi-hat guide and articles)
- Miking Drums — Sound on Sound
- Vic Firth — Education (rudiments and technique)
- The Hi-Hat — Modern Drummer


