サイドタム完全解説|音色の作り方とセッティング・マウント・レコーディングまで
はじめに:サイドタムとは何か
サイドタム(サイド・タム、英語では "side tom" や単に "tom" と呼ばれることもあります)は、ドラムセットにおけるトム系の一つで、キットのサイド(ドラムセットの左右やハイハット側/ライド側の外側)に配置される比較的小型のトムです。一般的にはメインのラックタムやフロアタムとは別に追加され、音域の拡張、フィルの表情付け、アクセント用として用いられます。
起源と歴史的背景
トム系ドラム自体はオーケストラや民族打楽器の影響から発展し、20世紀初頭にジャズやビッグバンドの中でドラムセットに組み込まれるようになりました。セット内でのポジションや役割の細分化が進むにつれて、ドラムセットの“側面”に配置する小型のタムを指して「サイドタム」と呼ぶ使い方が広まりました。現代ではメーカーや奏者によって呼び名や配置は多様ですが、機能的には“メインのタムとは別に設置される、音色や高さの異なる追加タム”という位置づけです(参照:Tom-tom ドラムの概要)。
構造と主な種類
サイズ
一般的なラックタムより小さめ(例:6インチ〜10インチ径のものが多い)。深さは浅めのものから標準的な深さまで様々で、浅い方がアタックが鋭く、深い方が胴鳴りが豊かになります。シェル素材
メイプル、バーチ、マホガニー、ブビンガ、合板構造など。素材によって倍音成分やサステイン(余韻)が変わります。一般論として、メイプルは温かくバランスの良いサウンド、バーチはアタック強め、マホガニーは低域に特徴があると言われます。ヘッドとヘッドの選択
単皮(single-ply)か複合(two-ply)、コーテッド(皮風)かクリア(透明)などで音色が変化します。軽いアタックと広がりが欲しいなら薄めのヘッド、タイトで短いサウンドが欲しいなら厚めやダンプ付のヘッドが有効です。ベアリングエッジ(打面とシェルの接点)
エッジ形状(45度、30度、丸エッジなど)で鳴り方が変わります。鋭いエッジは高域の伸びと明瞭なアタック、丸いエッジは温かさや胴鳴りを重視します。
マウント方法とハードウェア
サイドタムの取り付け方法は多様で、セッティングや目的に合わせて選びます。
- ロッド/ロッドアーム(Lロッド/ボールアーム)での取り付け:定番の方法で、シンバルスタンドやタムホルダーにアームを取り付けて吊るす。角度・高さを自由に調整できる。
- クランプでのサイドマウント:スネアスタンドやシンバルスタンド、ラックにクランプを装着して取り付ける。場所を取らず安定性も高い。
- スタンド独立型(小型タムスタンド):専用の短い三脚スタンドに載せる方式。床タムとラックタムの中間的配置が可能。
- サスペンションマウント:シェルに直接マウントポイントを作らず、振動を逃がす方式。鳴りを殺さずに角度調整ができるモデルが増えている。
チューニングとサウンドメイク
サイドタムは「色付け」の役割が大きいため、チューニングは音色の方向性を決める重要な作業です。
- ピッチの決定:メインのラックタムやフロアタムとどのように音程関係を作るか(5度、4度、オクターブ、半音差など)を考える。フィルの流れや音色のつながりで決めると良い。
- 打面と裏面のバランス:打面のテンションを上げるとアタックとピッチ感が出る。裏面は適度に合わせて余韻をコントロール。裏面が緩いとサステインが長くなる。
- ダンピング:リングサプレッサー、テープ、ジェルパッド、内側のリムテープなどで不要な倍音を抑える。レコーディングやライブでの混濁防止に有効。
レコーディングとマイキングの実践的ポイント
スタジオやライブでサイドタムの存在感を出すには、マイクの選び方と配置が重要です。
- 近接マイク:ダイナミックマイク(例:Shure SM57、Sennheiser MD 421 など)が定番。マイクは打面から約3〜10cm、斜めに向けてアタックと胴鳴りをバランスよく拾う。
- 距離と位相:オーバーヘッドやルームマイクとの位相差に注意。位相を合わせるためにマイク間の距離計算(24cmルール等)や後処理の位相補正が有効。
- EQとコンプ:アタックを強調するなら2–5kHz付近をブースト、胴鳴りを強調するなら200–500Hz帯域を調整。短いアタックが欲しい場合はアタックタイムの速いコンプを短めのリリースで。
演奏での役割と実例
サイドタムはジャンルや奏者によって用途が変わりますが、代表的な使い方は以下の通りです。
- フィルの色付け:通常のラックタムやフロアタムに加え、ワンポイントの高音域や特殊なアクセントを加える。
- アクセント/リズムの装飾:ビートの合間に短く入れることで曲のダイナミクスを作る。
- ソロやパーカッシブなパート:ミニタム的な使い方で旋律的に叩くこともある。
- ジャンル別の傾向:ポップ/ロックではフィルの彩り、フュージョンやラテンでは装飾的・メロディックに使われることが多い。
選び方とセッティングのコツ
- 目的を明確にする:フィルのアクセント用か、ソロ的に使うか、録音向けかライブ向けかでサイズやヘッド選びが変わる。
- セットとの音程関係:既存のタムやスネア、キックとの音程の整合を考えて選択する。実機でチューニングして確認するのが確実。
- 取り付けの自由度:角度調整や高さが自在にできるマウントを選ぶと演奏性が上がる。
- 重量と持ち運び:ライブが多い場合はトラベルやセッティング時間も考慮して軽量なものを選ぶ。
メンテナンスと長持ちさせるための注意点
- ヘッドの定期交換:割れや歪み、打痕が出たら交換を検討する。ダブルプライは長持ちするが音色は変わる。
- ラグとテンションポストの点検:ネジの緩みやねじ山の摩耗は音に影響する。定期的にグリスを少量塗布するのが良い。
- シェルの保管:極端な温度・湿度を避ける。木製シェルは乾燥や膨張による影響を受けやすい。
- マウントのねじ部とクランプ:緩みがあると演奏中に位置がずれやすい。定期的に確認する。
代表的なメーカーとモデル例
多くの主要ドラムメーカーが小型タムや独立したタム(サイドタムに適したモデル)をラインナップしています。例:
- Tama(タマ)
- Pearl(パール)
- DW(ドラムワークショップ)
- Yamaha(ヤマハ)
- Slingerland、Ludwig(ヴィンテージ系)
また、ヘッドやダンピング用品はEvans、Remo、Gibraltar(マウント)などのアクセサリーメーカーが充実しています。
まとめ:サイドタムを活かすために
サイドタムはサイズや素材、セッティング次第でドラムセットに豊かな表情を加えられる重要な要素です。目的(フィルのアクセント、ソロ的な用途、録音での色付け)を明確にし、ヘッドやチューニング、マウント方法を最適化することで、演奏表現の幅を広げられます。ライブ/スタジオごとのマイキングやダンピングも併せて調整すると、よりプロフェッショナルなサウンドになります。
参考文献
- Tom-tom drum — Wikipedia
- Drum Workshop(DW)公式サイト — マウント/ハードウェア情報
- Pearl Drums — Knowledge Center(チューニング/メンテナンス資料)
- Evans Drumheads — Tuning Guide
- Sound on Sound — Recording Drums(マイキング/レコーディング)
- Modern Drummer — 記事(チューニング/マイキングに関する専門記事)


