タムセット完全ガイド:構造・音色設計・マウント・チューニングから録音・演奏テクニックまで

タムセットとは — 概要

タムセット(一般には「タム」「タムタム」とも呼ばれる)は、ドラム・キットにおけるスネアやバスドラムとは別に配置される円筒形の打楽器群で、主にフレーズの彩り(フィル)やフレージング、テクスチャー作りに使われます。通常、ラックタム(マウントされた小〜中型のタム)とフロアタム(床置きの大型タム)から構成され、サイズや素材、ヘッド、取り付け方式によって音色・反応が大きく変わります。

歴史と語源

「タムタム/tom-tom」という呼び名は19世紀以降に西洋に紹介されたアジア系の小型太鼓に由来するとされます。現代のドラム・キットにおけるタムは、ジャズ黎明期から発展し、20世紀中盤以降ロックやポップスで多くのタムを備えたセットが標準化されました。タムの数や配置はジャンルやドラマーの好みで変化し、現代では電子タムやラミネートなど多彩なバリエーションが存在します。

構造と素材

タムの基本構造は「シェル(胴)」「ヘッド(打面と裏面)」「フープ(輪)」「テンションロッド(チューニング棒)」「ラグ(ロッドを通す金具)」で構成されます。重要な要素は以下の通りです。

  • シェル素材:メイプル、バーチ(白樺)、マホガニー、オーク、ビーチなど。メイプルは暖かく倍音豊か、バーチは中高域に強くアタック感がある傾向。
  • シェル構造:プライ(薄板を重ねた合板)が一般的。プライ数やグレイン方向で音の反応が変わる。ソリッド(厚胴)やハイブリッド(ファイバー/アルミリング併用)も存在。
  • ベアリングエッジ:シェルの打面側の切削角度。エッジ形状(45度、30度、ラウンド等)はヘッドの振幅やサステインに影響。
  • フープ:トリプルフランジ(軽量で倍音が多い)、ダイキャスト(硬くピッチが安定)、木製フープ(暖かい)など。

サイズとチューニングの考え方

一般的なサイズ目安は以下の通りです(直径×深さ、インチ)。

  • ピッコロ/エフェクトタム:6×5、8×5
  • ラックタム:8×7、10×8、12×9
  • フロアタム:14×14、16×16、18×16

チューニングは音楽的な目的で変わります。ドラム単体としては低めにして太いサウンドを求める場合や、タム同士を音階(5度、4度、オクターブなどの間隔)で整えメロディックに使うこともあります。通常はバッターヘッド(打面)とレゾナントヘッド(裏面)を両方チューニングし、裏面を少し高めにしてサステインと輪郭をコントロールするのが一般的です。

取り付け・マウント方式と音響効果

タムの取り付け方法は音に直接影響します。主な方式:

  • ロッド/クランプマウント:ドラム・ホルダーに直接接触するタイプ。しっかり固定されるがシェルへの伝達が増え共鳴が抑えられることがある。
  • サスペンション/フローティングマウント:シェルに直接触れないようゴム等で支持し、シェル本来の共鳴を活かす。
  • リムマウント:フープに挟み込むタイプで、シェルへのダメージを避けつつ安定した位置決めが可能。

可能ならばサスペンション系のマウントで共鳴を活かすと豊かなタムサウンドを得やすいです。

ヘッド、ダンピング(減衰)とサウンド・デザイン

ヘッドの種類(コーテッド/クリア、シングル/ダブルプライ、内蔵ミュート付きなど)で音色は大きく変化します。レゾナントヘッドはサステインとピッチ感に直結します。ダンピングは余計な倍音や長すぎるサステインを抑えるために用いられ、代表的な方法は以下の通りです。

  • ムーングル(ゲルパッド)やテープで部分的に抑える
  • 内蔵ミュートやフェルトリングを用いる
  • Oリング(ラバーリング)をヘッドに載せる
  • ヘッドを部分的に切る/重ねる(プロのみ推奨)

ジャンルや演奏環境(ライブのPA、スタジオ)に応じて適切なダンピングを選び、クリアさと存在感のバランスを取ります。

演奏テクニックと役割

タムはフィルや装飾的なフレーズで多用されます。よく使われるテクニック:

  • シングルストローク・フィル:8分/16分を軸にしたシンプルな動き。
  • ダブルストローク・ロール:速い連打で持続的な緊張を作る。
  • コサック/メロディック・タムワーク:タムのピッチ差を活かして旋律的に演奏。
  • マレットやブラシ使用:特に低めチューニングのフロアタムはマレットで暖かく鳴らすことが多い。

フィルは曲の分岐やクライマックスを導く重要な役割を持ち、音色・ダイナミクス・タイミングの三要素が鍵になります。

ジャンル別のセッティング例

  • ロック:厚めのシェル(メイプル/バーチ)、14"や16"のフロアタムを含む3点〜4点セット。ダイキャストフープでカチッとしたアタック。
  • ジャズ:軽めのシェル(薄いメイプル)、タムは控えめにして共鳴を活かす。ピッチは高めでタイト。
  • ポップ/R&B:バランス重視。リムショットと組み合わせるために中音域を意識。
  • メタル:より多くのタム(8"〜12"複数)や追加フロアタム、ピッコロ的な高音タムを導入して速いフィルを構成。

録音・マイキングのポイント

録音ではタムのアタックと胴鳴りの両方を捉えることが重要です。一般的なマイキング:

  • クローズマイク:ダイナミックマイクをヘッドのやや外側/上方に向けて配置(口径から約2〜5cm、角度は45度程度)。ブレスやスティックの空気移動を避ける。
  • オーバーヘッドやルーム:ステレオで設置し全体の位相と空間感を補う。
  • 位相確認:キックと干渉しやすいため位相反転チェックを必ず行う。

メンテナンスと選び方のアドバイス

選ぶ際は用途(ライブ/録音/練習)、求める音色、予算を明確にして比較してください。チェックポイント:

  • シェルの材質・プライ数とエッジの仕上がり
  • フープ・ラグ・マウントの質感と耐久性
  • 付属ヘッドの種類と状態(中古の場合)
  • ブランドとアフターサポート(TAMA、Pearl、DW、Gretsch、Yamaha、Sonor、Mapexなど)

定期的なチューニング、ラグやテンションロッドの締め直し、ヘッド交換(ヘッドの寿命は使用頻度によるが目に見える損傷や音の鈍化が出たら交換)を行うと長く良い音を保てます。

まとめ

タムセットはドラム・キットにおける重要な表現手段で、シェル素材、サイズ、ヘッド、マウントの違いが音色に直結します。用途や演奏スタイルに応じて最適な組み合わせを選び、チューニングやダンピングで個性を作ることで、楽曲のダイナミクスやフレーズに深みを与えられます。

参考文献