マイクロフリース完全ガイド:特徴・他フリースとの違い・選び方・ケア・環境課題とサステナビリティ
はじめに
マイクロフリースは、軽さと高い保温性、柔らかな肌触りでアウトドアウェアや日常のカジュアルアイテムに広く使われています。本コラムでは「マイクロフリースとは何か」「素材としての特徴」「他のフリースとの違い」「使用上の利点・注意点」「ケア方法」「環境面での課題と対策」「選び方のポイント」などを深掘りします。製品選びや日常の取り扱いに役立つ実践的な情報を、出来る限り根拠に基づいて整理しました。
マイクロフリースとは
マイクロフリースは、非常に細い合成繊維(主にポリエステル系のマイクロファイバー)を用いて編み、表面を起毛させて柔らかいパイル(毛羽)状に仕上げた布地を指します。一般的に「マイクロ」という名称が付くのは、使用する繊維が通常のフリースより細く、密度を高められるためで、結果として薄手でも高い保温性を確保できる点が特徴です。
素材と製法のポイント
- 原料:主にポリエステル(合成繊維)。近年はリサイクルポリエステル(rPET)を用いる製品も増えています。
- 繊維の細さ:マイクロファイバーを用いることで繊維が細かくなり、空気を閉じ込めやすく保温性が高まります。
- 編みと起毛:ニットで編んだ生地を刈り込みやブラッシング(起毛)してパイルを立たせることで、柔らかさと体温を保持する機能を与えます。
- 仕上げ:防風性や撥水性を持たせるために裏地や透湿防水膜を組み合わせることがあるほか、毛玉防止加工(アンチピリング処理)を施す場合もあります。
マイクロフリースの主な特長
- 軽量で保温性が高い:繊維が細かく密度を高められるため、厚みを抑えても空気層を作りやすく、暖かさを得やすい。
- 速乾性・吸湿発散性:ポリエステル素材は水分を吸いにくく、汗をかいても乾きやすいため、アウトドアやアクティブウエアに向く。
- 柔らかく肌触りが良い:起毛によるソフトな風合いが特徴で、直接肌に触れるアイテムとして使いやすい。
- 通気性と保温のバランス:通気性を確保しつつ適度に熱を閉じ込めるため、運動時のミッドレイヤーとして重宝される。
- 取り扱いが容易:基本的に家庭で洗濯可能で、乾きやすくアイロン要らずのものが多い。
通常のフリースとの違い(メリット・デメリット)
同じ「フリース」でも、厚手のポーラーフリースやクラシックフリースと比べると、マイクロフリースは薄手で軽量、より柔らかいのが特徴です。
- メリット
- 携帯性が良く、重ね着(レイヤリング)に適している。
- 動きやすく、運動時に快適。
- 肌触りが柔らかいため、インナー寄りの用途でも使いやすい。
- デメリット
- 厚手フリースに比べると単体での防風性や極寒時の保温力は劣る場合がある。
- 合成繊維であるため近年問題となっている「マイクロファイバーの流出(マイクロプラスチック)」の懸念がある。
- 表面が毛羽立ちやすく、使用によっては毛玉が発生することがある(処理や品質で差が出る)。
用途・スタイリングの提案
マイクロフリースはその特性から多様な用途があります。以下は代表的な使い方とスタイリングのコツです。
- アウトドアのミッドレイヤー:薄手で暖かいため、ベースレイヤーの上に着てアウターと組み合わせることで保温性を高められます。動きやすさもポイント。
- タウンユースのカジュアルウェア:ジップアップのフリースはジャケット感覚で羽織りやすく、デイリーユースに最適。スニーカーやデニムと合わせたラフなコーデが定番です。
- インナー・リラックスウェア:柔らかい肌触りを生かして、室内着や子ども服、ベビー用品にも向きます。
- 寝具・ブランケット:薄手で暖かく取り回しが良いため、毛布やブランケット素材としても使われます。
取り扱いと洗濯のポイント(長持ちさせる方法)
- 洗濯は中性洗剤を使用し、ネットに入れて弱水流で洗うと摩耗を抑えられます。
- 柔軟剤は避けること。柔軟剤や漂白剤は繊維表面に付着して吸湿発散性や撥水性を損なう場合があります。
- 高温は避ける。ポリエステルは高温で変形・溶融するため、乾燥機は低温で短時間、あるいは自然乾燥を推奨します。
- 毛玉ができたら毛玉取り器で丁寧に除去する。表面の摩擦を減らすことで毛玉の発生を抑えられます。
- 屋外で使用した後は砂や汚れを落とし、泥などが付着している場合は予洗いしてから洗濯すると繊維の劣化を防げます。
環境面の課題と対策(マイクロプラスチック問題)
ポリエステル系のマイクロフリースは、洗濯時や使用中の摩耗で微細な合成繊維(マイクロファイバー)を排出する可能性があり、これが海洋や河川のマイクロプラスチック問題の一因とされています。研究や報告書では家庭の洗濯が繊維由来のマイクロプラスチック放出の主要な発生源の一つであると指摘されています(下の参考文献参照)。
対策としては以下が挙げられます。
- 洗濯時の工夫:洗濯ネットや洗濯回数を減らす、低温で短時間洗うなどで摩耗を抑える。
- 捕集装置の利用:フィルター付きの洗濯バッグ(Guppyfriend等)や洗濯機取り付けのマイクロファイバーフィルターを使って放出を低減する。
- 素材の選択:リサイクルポリエステルや、近年開発されているマイクロファイバー落下を抑える加工を施した製品を選ぶ。
- 長持ちさせる:頻繁に捨てずに製品寿命を延ばすことで新しい合成繊維の消費を抑制する。
サステナビリティの観点(素材の選び方と企業の取り組み)
市場ではリサイクルポリエステル(rPET)を用いたマイクロフリースや、より耐久性を高めて製品寿命を延ばす設計を行うブランドが増えています。リサイクル素材を使うことで原油由来の原料消費を減らす効果はありますが、マイクロファイバーの放出問題自体は素材のリサイクル有無にかかわらず発生し得るため、製造工程や仕上げ、消費者の使用・洗濯方法を含めた総合的な対策が重要です。
選び方のポイント
- 用途に合った厚みを選ぶ:薄手のマイクロフリースは重ね着用、やや厚めのものは単体着用でも暖かい。
- 仕上げ加工を確認:耐ピリング加工や撥水加工、裏地の有無など使用感や手入れのしやすさに影響します。
- 素材表示を見る:リサイクルポリエステル使用の有無や染色・仕上げの情報をチェック。
- ブランドのサステナビリティ方針:製品のライフサイクル管理や回収・リサイクルプログラムの有無を確認するのも一案です。
まとめ
マイクロフリースは、軽量で保温性が高く、速乾性や肌触りの良さから幅広い用途で活躍する便利な素材です。一方で合成繊維由来のマイクロファイバー放出など環境課題も抱えており、消費者が正しい取り扱い(洗濯方法や使用方法)を行うこと、企業側がより環境負荷を減らす素材選択や加工技術を採用することが求められます。製品を長く使い、適切にメンテナンスすることで快適さを維持しつつ環境負荷を抑えることができます。
参考文献
- REI:Fleece fabrics explained
- Patagonia:What is fleece?
- Napper, I. E. & Thompson, R. C. (2016). Release of synthetic microplastic fibers from domestic washing machines. Marine Pollution Bulletin (DOI)
- Ellen MacArthur Foundation:A New Textiles Economy(ファッションと持続可能性に関する概説)
- UNEP:Marine litter and microplastics(国連環境計画の資料)


