ラトルとは?歴史・代表的な種類・奏法・音色・選び方とDIY自作ヒント
ラトルとは
ラトル(rattle)は、内部に小さな粒や金属片などの充填物を入れ、外側の容器を振ることで音を出す打楽器(非音高打楽器)の総称です。英語圏では一般に「rattle」「shaker」「idiophone(自鳴楽器)」の一種として扱われ、形や材料、発音機構によりマラカス(maracas)、シェケレ(shekere)、カバサ(cabasa)、カシシ(caxixi)など多様な呼び名が存在します。ラトルは音色がシンプルで扱いやすく、リズムを補強する役割や儀式的・装飾的用途、子どもの玩具としても広く用いられています。
歴史と文化的背景
ラトルの起源は古く、世界中の先史時代から存在したと考えられています。古代エジプトでは金属や木で作られた「シストラム(sistrum)」が宗教的儀式に用いられ、音で邪を祓う・神への奉納を行った記録があります。また、アフリカ、南北アメリカ、南アジアなど各地の民族文化で、葬儀・収穫祭・舞踊・治癒儀礼などでラトルが使われてきました。植民地期以降、アフリカ系・先住民系の打楽器はアメリカ大陸やカリブ海の音楽に取り入れられ、ラテン音楽やアフロ・カリビアンのリズムの重要な要素になりました。
代表的な種類
- マラカス(maracas):中南米に広まった瓢箪や木製・プラスチック製の振り楽器。ラテン音楽で非常にポピュラー。片手に1本ずつ持って左右でシンコペーションを作ることが多い。
- シェケレ(shekere):西アフリカ起源の瓢箪に外側からビーズや貝殻を網で固定したもの。振るだけでなく手のひらで叩く・擦る奏法で多彩な音色を生む。
- カシシ/カシシ(caxixi):籃(らん)や編み籠状の外殻に小石や種子を入れたもの。ブラジル音楽やカポエイラで使われる。閉じた構造と開放構造で音色が変わる。
- カバサ(cabasa):円筒状の本体に金属の鎖やビーズが巻かれたもの。円筒を握って回したり擦ったりしてリズミカルなシャリシャリ音を出す。ラテンジャズでよく使われる。
- シストラム(sistrum):古代エジプトで用いられたフレーム型のラトル。フレーム内で金属片が揺れて金属音を出す。宗教儀式における歴史的事例として有名。
- エッグシェイカー(egg shaker):現代のプラスチック製小型シェイカー。練習やライブで多用され、均一で安定した音が得られるため初心者にも人気。
材料と構造
ラトルの音色は主に外殻の材質、内部の充填物、および外殻の空気量(空間)によって決まります。
- 外殻材料:瓢箪(gourd)、木、籐(藤)、竹、金属、プラスチックなど。硬い材料は明るく鋭いアタック、柔らかい材料はまろやかな音になります。
- 充填物:種子、豆、小石、ガラスビーズ、金属片など。粒の大きさと重さで音の粗さや音圧が変化します。細かいビーズはサステインの長い繊細な音、重い石は低めで目立つ打音になります。
- 製作方法:瓢箪は乾燥して中身を取り出し、内部に充填物を入れて塞ぐ。シェケレは瓢箪に網を被せ網目にビーズを通して固定する。カバサは金属チェーンを円筒に巻きつける構造。
奏法(テクニック)
ラトルの基本は「振る」ことですが、演奏表現はシンプルな動作の組み合わせで非常に多彩になります。
- シンプル・シェイク:腕や手首の振幅でリズムを刻む。テンポが速い場合は手首中心の小さな動きで連続した粒音を得る。
- アクセントとダイナミクス:振り方の強弱、持ち替え、手の平や指で殻を覆うことで音量やトーンをコントロールできる。
- スクレイプ(擦る奏法):カバサのように円筒を回転させる/擦ることで持続的な摩擦音を出す。シェケレでは網を掌で叩きつけるようにしてアタックを出す。
- 合奏時の役割:スネアやバスの間を埋めるハイエンドのリズム補強、または陰になるポリリズムの一部として用いることが多い。
音楽ジャンル別の使われ方
ラトル系楽器は地域音楽からポピュラー音楽、クラシックまで幅広く使われます。
- ラテン/カリブ系音楽:マラカス、カバサ、カシシなどがリズム隊の一部として不可欠。
- アフリカ音楽:多くの民族音楽で舞踊や儀式のリズムを担う。シェケレはナイジェリアや西アフリカの音楽で広く使われる。
- 宗教・シャーマニズム:ラトルは声や歌とともに祈祷、浄化、瞑想の補助具として機能。西洋古楽でもシストラムの使用例がある。
- ポップス/ロック/ジャズ:背景的なパーカッションとしてシェイカー類やカバサが用いられ、グルーヴに微細な揺らぎを加える。
選び方とメンテナンス
購入や選定の際は、用途(ライブ・録音・教育)、求める音色、耐久性、携帯性を基準にします。
- 音色の確認:試奏して粒の音の質・音量・アタック感を確かめる。録音用途なら余分な高域ノイズが少ないものが好ましい。
- 耐久性:ライブ使用では木製やプラスチック製で継ぎ目が丈夫なものを選ぶ。瓢箪は見た目は良いが衝撃で割れやすい。
- 安全性:子ども用は小さなパーツが飛び出さない密封構造のものを選ぶ。PVCや塗装の安全基準も確認する。
- メンテナンス:木製や瓢箪は湿気で割れやすいので乾燥管理、金属部は湿気で錆びるため乾拭き。外装の糸や網が緩んだら補修する。
自作のヒント(簡単なDIY)
ラトルは材料が比較的手に入りやすく、自作にも向いています。以下は基本的な作り方の例です。
- エッグシェイカー風(安全で簡単):プラスチックの卵容器に米や豆を入れてテープで密閉。練習用や子どもの工作に最適。
- 瓢箪(伝統的):乾燥させた瓢箪の蓋を開け中を掃除。好みの種子やビーズを入れ、口を塞いで装飾。防腐・耐久のためにニスを塗る。
- シェケレ風:小さな瓶や球状容器に小石やビーズを入れ、外側に紐でビーズを編み付けて固定。見た目と音の両方を楽しめる。
文化的配慮とエチケット
ラトルは多くの文化で宗教的・儀礼的意味を持つため、博物館的・観賞用として扱われるものや特定の祭礼で使われるものを不適切に商業利用することは避けるべきです。伝統的な楽器を演奏や販売する際は、その由来や意味を学び、尊重する態度が求められます。
まとめ
ラトルは構造が単純ながら音楽的・文化的に非常に多様な楽器群です。材料や充填物の違い、演奏技法により豊かな表現が可能で、民族音楽から現代のポップス、教育現場まで幅広く使われています。楽器として購入する場合は用途に合わせた音色や耐久性を基準に選び、伝統的・儀礼的背景を持つ楽器については文化的配慮を忘れないことが大切です。
参考文献
- Maraca — Encyclopaedia Britannica
- Shekere — Encyclopaedia Britannica
- Sistrum — Encyclopaedia Britannica
- Rattle (musical instrument) — Wikipedia
- Cabasa — Wikipedia
- Caxixi — Wikipedia
- Maracas — National Museum of American History (Smithsonian)
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