The Slits(スリッツ)徹底解説:プロフィール・音楽特徴・代表作とフェミニズム的影響

スリッツ(The Slits)――プロフィールと魅力を深掘りする

スリッツは1970年代後半のロンドン・パンク/ポストパンクの重要バンドで、既成の性役割や音楽ジャンルの境界を大胆に壊したことで知られます。本稿では、結成から主要作、音楽的特徴、ライブやファッションを含めた魅力、そしてその後の音楽シーンへの影響までを丁寧に解説します。

プロフィール(簡潔な沿革と主要メンバー)

スリッツは1976年ごろロンドンで結成されました。初期メンバーは以下の通りです。

  • Ari Up(本名 Ariane Forster)— ボーカル。カリスマ的な存在感と独特の発声でバンドの顔を務めた。
  • Viv Albertine — ギター。従来のロック・ギタリスト像を逸脱する、ノイズやリズム重視の演奏でバンドサウンドに独特の色を与えた。
  • Tessa Pollitt — ベース。シンプルながら骨太のリズムを支え、ダブ/レゲエ的な低音域の表現にも対応した。
  • Palmolive(Paloma Romero)— 初期ドラマー。後にレインコーツ(The Raincoats)へ参加するなど、初期女性パンクを象徴する存在。

1979年にデビュー・アルバム『Cut』を発表。プロデューサーにデニス・ボヴェル(Dennis Bovell)を迎え、パンクの生々しさとカリブ由来のダブ/レゲエ感覚を融合させたサウンドで大きな注目を浴びます。1981年の『Return of the Giant Slits』はさらに実験的・民族音楽的な要素を強め、2000年代には再結成して2009年に『Trapped Animal』を発表しました。リード・シンガーのアリ・アップは2010年に亡くなっています。

音楽的特徴と魅力

  • パンクのエネルギーとダブ/レゲエのリズム感の融合

    スリッツの最大の魅力は、直線的なパンク衝動に、ダブ的なスペース感や反復リズムを重ね合わせた点です。ベースや低域のグルーヴが前に出る一方で、ギターはリズム的・パーカッシヴに振る舞うことが多く、独特の揺らぎが生まれます。

  • ボーカルと表現の自由さ

    Ari Upの歌唱はパンク的なシャウトやナイーブな語りを行き来し、力強さと脆さが混在します。歌詞は性役割、消費文化、女性の自己像などを鋭く(時にユーモアを含め)切り取るものが多いです。

  • ギター・アプローチの独自性

    Viv Albertineのギターは伝統的なソロやリフ主体ではなく、ノイズや断片的なコード、ミュート奏法を多用してリズムに絡む形で機能します。そのため「歌とベースとリズムが立っている中で、ギターが空間を切り取る」ような聴きどころが生まれます。

  • DIY精神・フェミニズム的姿勢

    結成当初から「女であること」を武器にも被害にもせず表現してきた点が突出しています。ギグ、衣装、アートワークまでを含めた自己表現は、以降のフェミニスト・パンク(riot grrrl等)に強い影響を与えました。

  • 視覚的な衝撃と民族的モチーフ

    衣装やメイクでは切り裂かれた布やボディペイント、アフリカ/カリブ文化に由来する要素を取り入れることで、ステージ上での存在感を強めました。これは単なるファッションではなく、文化的な参照とアイデンティティ表現の一環でもありました。

代表作・代表曲(厳選解説)

  • 『Cut』(1979)

    デニス・ボヴェルのプロデュースによる1st。ポストパンクとダブの交差点に立つ名盤とされ、シンプルな構成の中に層状のリズム感と斬新なアレンジが詰め込まれています。Ari Upのボーカル、Vivのギター、Tessaのベースの個性が際立つ一枚です。

  • 『Return of the Giant Slits』(1981)

    より実験的でワールド・ミュージックの影響が強まった2nd。ヒップなリズムや民族楽器的なアプローチを導入し、従来のバンド構成にとらわれない挑戦的な作品になっています。

  • 代表曲(シングル/楽曲)
    • 「Typical Girls」— ジェンダー規範への批評が込められた、もっとも広く知られる楽曲の一つ。
    • 「In the Beginning There Was Rhythm」— 初期のダイレクトな衝動とリズム感を示すナンバー。
    • 「Shoplifting」などのシングル群— スリッツの鋭い視線とユーモアが滲む短い曲が多数あります。
  • 『Trapped Animal』(2009)

    再結成後の作品。批評は賛否両論ですが、バンドが持つ生来のエネルギーと新たな解釈を試みた意欲作として位置づけられます。

ライブとパフォーマンスの魅力

ステージ上のスリッツは規格外のカオスと計算された崩しのバランスで観客を引き込むタイプでした。衣装やボディペイント、即興的な振る舞いを通じて「男/女/ロック」の既成概念に挑む視覚的なメッセージを発し、音楽はその延長線上にありました。小さなクラブでのRAWな演奏からフェスティバルでのパフォーマンスまで、どこでも観衆の反応を直に受け止める姿勢が印象的です。

影響と継承

スリッツは単なる「初期の女性パンクバンド」ではなく、後のオルタナティブ・ロック、ポストパンク・リバイバル、フェミニズムと音楽の交差点における重要な出発点です。Riot Grrrl世代のバンドや、ポストパンク再興のアーティストたちがスリッツの直接的・間接的な影響を公言しており、音楽的にはダブやワールド・ミュージックを取り入れる誠実なアプローチも多くのミュージシャンに示唆を与えました。

聴くときのポイント(初心者向けガイド)

  • まずは『Cut』を通して聴き、曲ごとの構成よりも「リズム感」と「空間」の作り方に注目する。
  • Viv Albertineのギターはソロではなくテクスチャを作る道具として聴くと面白い。
  • 歌詞は直球の批判もあれば詩的な断片もあるため、ライブ録音やライナーノーツと併せて読むと理解が深まる。
  • 再結成以降の作品は当時と音楽的背景が異なるため、時代差を意識して聴くと良い。

まとめ

スリッツは1970年代後半の音楽シーンにおいて、性別やジャンルの壁を崩すパイオニアでした。パンクの反抗心、ダブの空間処理、そしてフェミニズム的メッセージを併せ持つその音楽とヴィジュアルは、今日でも新鮮な衝撃を与え続けています。過去の名盤を聴くことはもちろん、Viv Albertineの回顧録やアリ・アップに関する記事などを併せて読むと、バンドの思想や背景がさらに立体的に見えてきます。

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参考文献