和音の仕組みと実践ガイド:理論・機能・応用を徹底解説
和音とは何か ― 基本定義と歴史的背景
和音(コード)は、同時に鳴る二つ以上の音の集まりを指します。西洋音楽では主に三和音(トライアド)を基礎として発展し、ルネサンス後期からバロック、古典派を経てロマン派、20世紀のジャズや現代音楽へと多様化してきました。和音の性質は音程の組み合わせに依存し、長短の三度を積み重ねる「三度重ね(tertian harmony)」が伝統的な和声の中心です。
三和音(トライアド)の構成と性格
三和音は根音、第三音、第五音から成ります。代表的な種類と特徴は次の通りです。
- 長三和音(メジャー・トライアド):根音から長三度(4半音)+短三度(3半音)。明るく安定した響き。
- 短三和音(マイナー・トライアド):根音から短三度+長三度。やや哀愁を帯びる。
- 減三和音(ディミニッシュ):短三度+短三度。緊張感が強く、不安定。
- 増三和音(オーグメント):長三度+長三度。非妥協的で浮遊感のある響き。
理論的には長三和音は純正律(ジャスト・イントネーション)で4:5:6の周波数比を持ち、倍音列に近い安定感を示します。一方、平均律(12平均律)では半音間隔が均等化され、転調の利便性が優先されます。
七の和音と拡張和音
三和音にさらに三度を重ねた七の和音は、機能和声やジャズで重要です。主な例:
- 長七(maj7):長三和音+長七度(例:Cmaj7 = C–E–G–B)。やや穏やかでジャズやポップで好まれる。
- 属七(7、ドミナント7):長三和音+短七度(例:C7 = C–E–G–B♭)。強い先行力(導き)を持ち、I(トニック)へ解決する性質がある。
- 半減七(ø7):減三和音+短七度(例:Cø7 = C–E♭–G♭–B♭)。調性内で先行や転調の要所に使われる。
- 全減七(o7):全て短三度で構成される堆積(例:C°7 = C–E♭–G♭–B𝄫(=A))。対称性が強く転調の道具になる。
さらに9th、11th、13thといったテンション(拡張音)を用いることで和音の色彩が広がります。ジャズではこれらのテンションに対する扱い(テンションの解決や不協和の使い方)が美的要素になります。
和音の転回とボイシング(配分)
和音は根音が最低音でない場合、第一転回、第二転回といった表記をします。転回はベースラインや声部の流れを滑らかにするために効果的です。ボイシングは和音内の音の並べ方(オクターブの配置、間隔の取り方)で、次の要点があります。
- 密集型(close position):隣接する音程が狭い配置。合唱や単一楽器で使われやすい。
- 開放型(open position):音を広げて配置。管弦楽やピアノで豊かな倍音感を得やすい。
- テンションの配置:9thや13thを加える際は3度と7度の関係を意識してバランスを取る。
- 分散和音・アルペジオ:和音を分散して演奏することで和声の流れを表現できる。
機能和声:トニック、サブドミナント、ドミナント
機能和声は和音が持つ「機能(役割)」で分析する枠組みです。主要な三つは次の通り。
- トニック(T):安定と帰着を示す(例:I、vi)。楽曲の「家」のような役割。
- サブドミナント(S):動きを開始する準備役(例:II、IV)。ドミナントへ向かうブリッジ的存在。
- ドミナント(D):強い導音的緊張を作り、トニックへ解決する(例:V、vii°)。属和音は特に解決力が強い。
代表的な進行は II–V–I(ジャズ)、IV–V–I(古典/ポップ)などです。ドミナントの解決形として、V→I(完全終止、オーセンティック・カデンツ)が基本となります。
調性内和音と転調・借用和音
メジャー・スケールの各音を根音として重ねると、次のダイアトニック和音列が得られます(メジャーの場合):I、ii、iii、IV、V、vi、vii°. マイナーではハーモニックマイナーやメロディックマイナーにより和音の性格が変化します。転調は調全体を移動させることで、モジュレーションや一時的な主調の借用(トニック化)を含みます。
モーダル・インターチェンジ(平行調からの借用)はポップスやロックで頻繁に使われます。例:CメジャーでC–F–Gの代わりにC–F–Gmを一時的に使うことで色が変わります。
二次属(セカンダリードミナント)と変化和音の役割
二次属とは、ある和音を一時的に新しいトニックと見なしてその属和音(V/x)を使う技法です。例:CメジャーでA7(V/ii)とすることでiiに強い導入を与えます。また、変化和音(借用や♭II、augmented sixth等)は進行に劇的な色彩やテンションを付与します。
ジャズや現代音楽における拡張技法
ジャズではテンション(9, 11, 13)やaltered(♭9, ♯9, ♭5, ♯5)を豊富に用います。コードシンボルの表記は次の通り:m(マイナー)、maj7、7、dim、øなど。スラッシュコード(C/Eなど)は低音を指定することで和声のベースを導きます。さらにポリコード(二つの和音の重ね)やクラスター、四度積み(quartal harmony)など非三度積みの和音も20世紀以降多用されます。
声部進行とボイス・リーディングの原則
良い和声進行は各声部が滑らかに動くこと(voice-leading)に依存します。一般原則:
- 共通音を保つことで滑らかさを確保する。
- 大きな跳躍は避け、隣接音程や小さな跳躍でつなぐ。
- 解決すべきテンション(導音や7度など)は適切に解決させる(導音は上へ解決、7度は下へ解決するのが伝統)。
楽器別の実践:ピアノとギターでの和音扱い
ピアノは広い音域でボイシングを実験でき、左手でベースを支え右手でテンションや分散和音を演奏するのが基本です。ギターは指板の制約上、省略や転回、スラッシュコード的な低音指定が多用されます。ジャズギターではテンションを省略しつつ7thや9thを効果的に並べることが多いです。
不規則和音と現代的アプローチ
現代作曲では非三度和音(四度和声、五度和声)、ポリコード、音列技法、クラスター等が使われます。これらは機能和声の枠を超え、色彩的・テクスチャ的な役割を担います。例:ストラヴィンスキーやシェーンベルク、現代ジャズ作曲家の用法。
和音を学ぶための実践的手順とトレーニング
和音理解を深めるための具体的方法:
- 三度の積み方、各種トライアドと七の和音を鍵盤で繰り返す。
- ローマ数字による分析(I, ii, Vなど)で機能を覚える。
- 耳トレで各種類の和音を聴き分ける(長・短・減・増、7thの種類等)。
- 既存曲をハーモナイズしてみる。メロディに和音を付け、ボイスリーディングを検証する。
- テンションの扱いや二次属の導入、モーダル・インターチェンジを試す。
よくある誤解とファクトチェックのポイント
和音に関する誤解として「全ての和音は三度の積み重ねである」と考えがちですが、実際は四度和声やポリコード、クラスターなど三度積みでない和声も広く使われます。また「平均律は常に優れている」との見方も一面的で、古楽や一部の現代作品では純正律やその他の分割法が意図的に選ばれます。和音の感覚は理論と実践(耳)を組み合わせて判断するのが最善です。
まとめ:和音理解の実践的価値
和音は楽曲の感情や動きを形作る最小の「和声単位」です。基本であるトライアドと転回、七の和音、機能和声を押さえることが出発点となり、そこからテンション、借用、現代和声へと体系を広げることで作曲、編曲、即興演奏に深みを加えられます。常に耳で確認し、楽器で実践することが和音理解を定着させます。
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参考文献
- Britannica - Chord (music)
- Wikipedia - Harmony (music)
- Oxford Music Online(参照記事:Harmony)
- Walter Piston, "Harmony"(Walter Piston)
- Mark Levine, "The Jazz Theory Book"
- Kostka & Payne, "Tonal Harmony"
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