ダッフルコート完全ガイド:歴史・素材・着こなし・お手入れまで徹底解説
イントロダクション:ダッフルコートとは
ダッフルコートは、特徴的なフードとトグル(木製や角製の留め具)、太めのメルトンウール素材、前面に大きなパッチポケットを備えた防寒用のコートです。軍用としての起源を持ち、戦後は民間にも広がって現在では定番アウターのひとつになっています。本稿では、歴史的背景から素材・製法、選び方、着こなし、ケア、そしてサステナビリティの観点まで、5000字程度で詳しく解説します。
歴史と起源
ダッフルコートの名前はベルギーの町「Duffel(ダッフェル)」で生産された厚手の毛織物(ダッフル生地)に由来します。19世紀末から20世紀初頭にかけて、この丈夫な防寒布は海軍や漁業関係者の間で重宝されました。第一次・第二次世界大戦期には英国海軍が採用し、フードとトグルを備えた現代的なフォルムが確立されます。戦後、軍放出品や軍用デザインを基にした民間向けモデルが普及し、特に英国のブランドが製造・販売を広めたことで市民の冬の定番となりました。
デザインの特徴
ダッフルコートの代表的なデザイン要素は以下の通りです。
- フード:頭部を覆う大きめのフードが標準で、風除けの役割を果たします。
- トグル留め具:縄やレザーのループと木製/角製のトグル(ボタン)で前を閉じるのが特徴。手袋装着時でも扱いやすいのが利点です。
- メルトンウール:密に織られ起毛させた厚手のウール生地(メルトン)が用いられることが多く、防風性・保温性に優れます。
- ポケット:大きなパッチポケットが前面に配置され、実用性を高めます。
- 膝丈〜腰丈:伝統的には太ももから膝上くらいの着丈が多いですが、短め・ロング丈などバリエーションがあります。
素材と製法
伝統的なダッフルコートはメルトンウール製です。メルトンは厚手で縮絨(しゅくじゅう)処理されたウールで、織り目が詰まっているため風を通しにくく保温性が高いのが特徴です。ウール100%のものは自然な保温性と耐久性がある一方、重さやメンテナンス性(虫害、縮みなど)の課題があります。
近年はウール混紡(ポリエステルやナイロン混)、あるいは全く別素材(コート外側にウールライクな合成繊維、裏地に高機能素材)を用いたモデルも増え、軽量化や耐久性、防水性を高めた設計がなされています。また、トグルは木・角・プラスチック・金属など多様で、ループ部もレザーや合成繊維、ロープなどが使われます。
フィットとサイズ選び
ダッフルコートは防寒着として中に厚手のニットやレイヤーを着ることを前提としたゆとりのあるシルエットが多いです。選び方のポイント:
- 肩幅と袖丈:肩が窮屈でないこと、袖丈が長すぎて指先が隠れない程度が良い。レイヤードを想定してワンサイズ上を選ぶ人も多い。
- 身幅:中にセーターを着るなら程よく余裕のある身幅を選ぶ。ダボッとしすぎると野暮ったく見えるので試着でバランスを確認。
- 着丈:膝上〜膝丈が定番。自転車に乗ることが多い場合は短め、見た目を重視するならロング丈を検討。
着こなし・コーディネート例
ダッフルコートはカジュアルな印象が強い一方で、素材や色、合わせるアイテム次第で幅広いスタイルに馴染みます。
- クラシックカジュアル:ネイビーやキャメルのダッフルにデニム、ニット、革靴やブーツで王道の英国風に。
- モダンシティスタイル:ショート丈や細身シルエットのダッフルに黒スキニーやスニーカーで都会的に。
- フェミニンミックス:ウエストベルトのあるモデルやロング丈をワンピースと合わせて女性らしく。
- ビジネスカジュアル:濃紺のシンプルなダッフルをチェスターコート代わりに。トグルの目立たないタイプなら通勤にも使える。
カラーバリエーションと選び方
伝統色はネイビー(海軍由来)、キャメル、ベージュ、ブラックです。ネイビーはクラシックで合わせやすく、キャメルは温かみがありコーディネートに柔らかさを出します。黒やグレーはモダンでシック。派手なカラーやチェック柄、コントラストトリムなどのモダンなアレンジも昨今見られます。
季節・天候での使い分け
本来は冬用の防寒着ですが、地域や素材によっては晩秋から初春まで活躍します。日本のような湿度の高い冬には、ウールそのものは吸湿性があるため暖かく感じますが、雨や雪に濡れると重くなりケアが必要です。防水・撥水加工されたモデルや、ナイロンライナー付きは雨天時に便利です。
お手入れと収納の注意点
ウール主体のダッフルコートは取り扱いに注意が必要です。基本のケア:
- 日常の手入れ:柔らかいブラシで表面のほこりを払う。着用後はブラッシングして軽く陰干しすると湿気が取れる。
- 部分汚れ:シミは早めに中性洗剤での部分洗いや、ウール用のスポットクリーナーで対応。強く擦らない。
- 洗濯:ウール100%は基本的にドライクリーニングが望ましい。洗濯表示に従い、手洗い可でも形崩れや縮みのリスクがあるため注意。
- 乾燥:直射日光や高温を避け、平干しやハンガーで自然乾燥。ドライヤーやタンブル乾燥は避ける。
- 保管:防虫剤を使い、湿気の少ない場所で通気を保ちながら保管。長期保管時は折り皺を避けるために肩幅のあるハンガーを使う。
リペアとカスタマイズ
トグルが取れたりループが切れたりした場合、修理は比較的容易です。トグルは交換可能で、レザーやロープを新しくして表情を変えることもできます。穴やほつれが出た場合は専門のリペアショップや裁縫店での補修を推奨します。古着リペアやヴィンテージのリメイクはサステナブルな選択です。
ブランドと価格帯の目安
伝統的なダッフルコートを作る代表的なブランドには英国のGloverallなどがあります。Gloverallは軍用コートの生産から発展した歴史あるメーカーで、品質重視のモデルが多いです。価格帯は素材・生産国・ブランドによって幅があり、おおよそ以下が目安です。
- 低価格帯:1万〜3万円(合成繊維混、ファストファッション)
- 中価格帯:3万〜8万円(ウール混、品質の良い縫製)
- 高価格帯:8万円以上(ウール100%、英国製や高級ブランド)
購入時は縫製や裏地、トグルの素材、ライニングの有無をチェックしてください。
サステナビリティと環境配慮
ウールは天然繊維で生分解性がある一方、羊毛生産の環境負荷や動物福祉の課題も指摘されています。合成繊維混のモデルは耐久性や洗濯性が向上しますが、マイクロファイバーの流出などの懸念があります。購入時は素材のトレーサビリティ(産地表示)、リサイクル可能性、長く着られる耐久性を基準に選ぶと良いでしょう。ヴィンテージや中古のダッフルを選ぶことも環境負荷低減につながります。
よくある質問(FAQ)
Q:ダッフルコートは雨の日に使えますか?
A:撥水加工やナイロンライニングのあるモデルは短時間の雨に耐えますが、ウールそのものは濡れると重くなり風合いを損なうことがあるため、激しい雨天での長時間使用は避けるのが無難です。
Q:自宅で洗濯できますか?
A:洗濯表示に従うのが第一ですが、ウール100%の場合は基本的にドライクリーニング推奨です。手洗い可能表示がある場合でも、軽く押し洗いし形を整えて自然乾燥してください。
Q:トグルをモダンなボタンに変えても良いですか?
A:可能です。見た目が変わるため好みに応じてカスタマイズできますが、機能性(手袋をしたままでの開閉)を考慮してください。
まとめ
ダッフルコートは、実用性とデザイン性を兼ね備えた冬の定番アウターです。歴史的背景を知ることでその魅力が増し、素材やフィット、ケア方法を理解すれば長く愛用できます。購入時は用途(通勤・カジュアル・雨対策)、好みのシルエット、素材のトレーサビリティを考慮し、自分に合った一着を見つけてください。
参考文献
- Duffle coat - Wikipedia
- Melton cloth - Wikipedia
- Gloverall - History
- Wool | textile - Encyclopaedia Britannica
- V&A - Caring for your collection: Textiles
- Imperial War Museums - Collections search: 'duffle coat'
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