クラシック音楽では、既存主題を素材に据える“変奏”の伝統が明瞭です。ヨハネス・ブラームスが作曲した『ハイドンの主題による変奏曲』(Variations on a Theme by Joseph Haydn, 1873)は、ハイドンへの敬意を音楽的に表現した代表例です。また、セルゲイ・ラフマニノフの『パガニーニの主題によるラプソディ』(Rhapsody on a Theme of Paganini, 1934)は、ピアノとオーケストラでパガニーニの有名な主題を独自に再解釈したものとして知られます。 20世紀では、イーゴリ・ストラヴィンスキーが18世紀イタリアの作曲家ニコロ・パーゴレージなどの旋律を元に作ったバレエ音楽『プルチネッラ』(1919–20)など、過去音楽への“ネオ・クラシック”的接近がオマージュの一形態として顕著に表れました。さらに、ムソルグスキーの『展覧会の絵』(1874)をモーリス・ラヴェルが1922年にオーケストレーションした事例は、原作への深い理解と別視点からの魅力的な変換を示す良い例です。
現代のオマージュ表現では“サンプリング”が重要な役割を担いますが、法的な問題と密接に結びつきます。1997年のザ・ヴァーヴ『Bittersweet Symphony』は、アンドリュー・ルーグ・オールドハムが編曲したストーンズのオーケストラ版を素材とした事で、当初は使用許諾を得たとされながらもABKCO側との紛争に発展し、結果的に作曲クレジットがミック・ジャガー/キース・リチャーズに帰属しました。なお2019年にはジャガーとリチャーズが権利をリチャード・アシュクロフトに戻したと報じられています(この事例は、オマージュ的引用と権利処理の重要性を教えるものです)。 また、ジョージ・ハリスンの『My Sweet Lord』(1970)に関する1976年の裁判で、裁判所はザ・チフォンズの『He's So Fine』との類似を「無意識の剽窃(subconscious plagiarism)」と認定しました。この判例は“意図の有無”だけでは解決できない法的リスクがあることを示しています。さらに、サンプリング文化における重要判例として、1991年のGrand Upright Music v. Warner Bros.(ビズ・マーキーの事例)は、サンプルを無断で使用した場合に厳罰が科される先例となりました。