バンドレコーディング完全ガイド:プリプロからミックス準備までの実践テクニック

イントロダクション — なぜバンドレコーディングは特別か

バンドレコーディングは、楽曲のエネルギー、演奏の呼吸感、メンバー間の相互作用をそのまま音として記録する作業です。ソロ作品や打ち込み中心の制作と比べ、複数人の演奏を同時に、あるいはセクションごとに組み合わせながら作業するため、物理的なルームアコースティクス、マイクの配置、出音の管理(bleedや位相)、そして人的要素のマネジメントが重要になります。本稿では準備段階から録音テクニック、編集・整理、最終的なミックス準備まで実践的に深掘りします。

プリプロダクション(事前準備)の重要性

良いレコーディングの8割はプリプロで決まると言っても過言ではありません。まずは楽曲構成、テンポ、アレンジ、演奏上の課題を洗い出します。スタジオ入り前に次の項目を確定しておきましょう。

  • 曲順とテンポ(クリックの有無)を決め、クリックトラックを用意する。
  • パート別のリハ(特にドラマーとベースのロック具合、ギターのリズム感)。
  • 使用機材の確認(アンプ、エフェクター、DIボックス、ベース用プリアンプ等)。
  • 役割分担(誰が何をチェックするか、連絡や休憩のルール)。
  • スケジュール設計(録音→休憩→チェック→差し替えのサイクルを予め設定)。

セッション設定とファイル管理

DAWセッションは後で混乱しないようにテンプレートを作り、以下を決めてから録音を始めます。

  • サンプリングレート/ビット深度:一般的には44.1kHz/24bit(音楽用途)か48kHz/24bit(映像同期)。高レートは処理余地が増えるがファイルサイズと負荷が増す。
  • トラック命名規則:例)Dr_Kick_L、Gtr_Rhythm_01など。テイク番号、テイク合否フラグを付ける運用が便利。
  • メーター運用:録音時はピークをクリップさせない。目安としてトラックピークは-6dBFS付近、平均RMSは-18dBFS前後を狙うと後処理での余裕が生まれます。
  • バックアップ方針:3-2-1ルール(本体・別ドライブ・クラウド)を意識。テイクは終了ごとに外付けにコピー。

スタジオレイアウトとアイソレーション

バンドを同時録音する場合、演奏のライブ感を保ちつつ各楽器の分離をどう取るかが鍵です。アイソレーションブース、ゴボ(移動式吸音パネル)、アンプの向き、ドラマーと他楽器の距離などを調整します。

  • 同時録音の利点:パフォーマンスの有機的な一体感を得られる。
  • 欠点:マイクの bleed が増え、後編集での差し替え・修正が難しくなる。
  • 方策:重要トラック(ボーカル、スネア、キック)は可能な限りアイソレートする。ヘッドフォンミックスでモニターレベルを下げて bleed を抑える。

ドラムの録音テクニック

ドラムはバンド録音の土台です。マイキングの基本、位相処理、オーバーヘッド/ルームの取り方を押さえます。

  • キック:内側(ビーター近く)でアタックを、外側でボディ(低域)を。マイクはD112系やショートダイナミック、あるいはサブキックを組み合わせる。
  • スネア:トップにダイナミック(SM57等)、ボトムに小口径コンデンサーでスナップを補う。位相チェックは必須。
  • オーバーヘッド/ルーム:XY、ORTF、ステレオペアでシンバルと空間感を捕える。部屋の特性を活かす位置を探す。
  • 位相整合:複数マイク間で逆相や遅延が起こると低域が消える。フェーズの反転やタイムアライメントで最適化する。

ギター・ベースの録音テクニック

ギターやベースはDI(ダイレクト)とアンプの併用が強力です。録った後で音作り(リアンプ)できる柔軟性が残せます。

  • ギター:マイクはスピーカーセンター寄りでアタック、エッジ寄りで倍音を。SM57に加えリボンやコンデンサーで混ぜると太さと空気感を同時に得られる。
  • ベース:DIでクリーンな低域を取りつつ、アンプマイクでキャラクターを取得。必要ならサチュレーションをかけて存在感を強める。
  • 再アンプ(Re-amping):クリーンDIを残すことで後からアンプやキャビを差し替えられる。変更の自由度が高い。

ボーカルの録音テクニック

ボーカルは楽曲の顔です。マイク選定、ルームチューニング、モニタリング環境に注意します。

  • マイク:ダイナミック(SM7B等)はポップノイズや近接効果に強く、コンデンサー(大型膜)は広い周波数とディテールを拾う。
  • ポップガードとポップ処理:破裂音を防ぐためにポップガードを使用し、必要に応じてEQで低域をローカット。
  • コンプレッションの扱い:録音段階で強く圧縮し過ぎると後処理の自由度を奪う。軽めのコンプでレンジを整えつつ、必要ならプリント用に別トラックでコンプあり/なしを残す。

クリックとグリッド感・人間性のバランス

クリックはタイミングを安定させる反面、演奏の自然な揺らぎを消すことがあります。曲によって以下の選択を検討してください。

  • 全曲クリック:映像同期やシンセ重視の楽曲で有効。
  • 部分的クリック:テンポチェンジやブリッジのみクリックを入れる方法。
  • クリックなし(またはガイドのみ):ライブ感・ノリ重視の作品に適するが、編集やコンピングが難しくなる。

ヘッドフォンとキューの作り方

ミュージシャンが聞くモニター(キュー)をどう作るかで演奏の質が大きく変わります。以下に注意点を示します。

  • 各メンバーの要求を事前に聞き、個別ミックスを用意する。
  • モニター音量は高すぎないように。高音量だとドラムのバランスが崩れ、bleed が増える。
  • クリックは必要な音だけ入れる。例えばキックだけのサブクリックでグルーヴを感じられる場合もある。

録音中のゲインステージングと機材チェーン

優れた録音は正しいゲインステージングから始まります。アナログプリアンプ、ADコンバーター、DAWへの流れを意識しましょう。

  • プリアンプで十分なゲインを与えつつクリップさせない。アナログ段でのヘッドルームを確保する。
  • AD変換はクリーンに。高品質なインターフェースとケーブル管理でノイズを防ぐ。
  • 録音時のEQやコンプは最小限に。『プリント用のサチュレーションを狙う/クリーンに残す』の方針を決める。

テイク管理・コンピング・編集のワークフロー

テイクはTake Lane(テイクレーン)で管理し、最終的にベストテイクをコンプして一本にまとめます。編集の基本ルールを押さえましょう。

  • テイクは必ず番号とメモをつける(良かったポイント、リズム崩れの箇所など)。
  • コンピングはフレーズ単位で自然な息継ぎを残す。クロスフェードでポップやクリックを防止。
  • タイミング補正は極力ナチュラルに。ドラムの強制量子化はグルーヴを損なうことがあるため、スネアやキックのみ微調整する等、局所的な適用が望ましい。
  • ピッチ補正は楽曲の目的に応じて。透明な補正(Melodyne等)とアーティスティックなAuto-Tune効果は使い分ける。

ノイズ・BLEED・位相問題への対策

複数マイクが干渉すると低域が薄くなったり、特定帯域が強調されます。実戦的な対策は以下です。

  • 位相チェック:録音時にマイク単体→グループ→フルバンドと段階的に確認する。疑わしい場合は位相反転や遅延で整合。
  • bleedのコントロール:マイクの方向性、距離、ゴボや布による吸音で調整。必要なら最終テイクだけ個別録音で差し替え。
  • ゲート/ノイズリダクションは慎重に。自然な残響感や楽器の余韻を消し過ぎない。

出力(プリント)方針:生音重視かプロセス済みか

録音で加工をどこまで行うか決めること(プリント方針)は後のミックスに大きく影響します。一般的な選択肢:

  • ドライに録る:EQやコンプは最小限。ミックスで自由に処理したい場合に選ぶ。
  • プリプロセスして録る:ダイナミクスや特殊効果を録音段階で固定する。ライブ感や特定サウンドを再現したい場合に有効。
  • 両方残す:同一ソースを乾いたトラックと処理済みトラックで両方録るとミックスでの選択肢が広がる。

ワークフローのチェックリスト(録音当日)

  • DAWサンプルレート・ビット深度確認
  • 全トラック命名とテンポマップの読み込み
  • マイク配置・位相チェック(録音前の試奏で確認)
  • ヘッドフォンミックスの調整と各メンバーの同意
  • バックアップ回線(RAID/外付け/クラウド)確認
  • 録音ログ(テイク毎のメモ)を残す

よくあるミスと回避策

  • ボーカルや重要トラックを過度にコンプしてしまう → 原音も残す。
  • 位相無視で複数マイクを立てる → その場で位相チェックを行う。
  • ヘッドフォン音量が大きすぎる → bleed増加と演奏の硬直化を招く。
  • バックアップしない → データ紛失リスク。必ず複製を取る。

ミックス準備:エクスポートとドキュメント化

録音が終わったらミックスに渡すための準備を行います。トラック整理とドキュメントがミキサーの作業効率を大きく左右します。

  • 不要トラックの整理、テイクレーンの統合、名前の最終チェック。
  • フェードや不必要なノイズのトリム、クリップの有無確認。
  • ステム(ドラムバス、ギターバス、ボーカル等)書き出しを依頼に応じて作成。
  • テンポマップ、プラグイン使用一覧、サンプルレート/ビット深度のメタ情報を共有。

まとめ:現場で再現性のある流れを作る

バンドレコーディングは音楽的判断と技術的配慮が同時に求められる現場です。プリプロの徹底、セッション管理、位相とbleedへの配慮、そしてミュージシャンへの配慮あるキュー作成が成功の鍵になります。設備や好みによって最適解は変わりますが、上記のチェックリストと原則を守ることで、再現性の高い良い録音を得られます。

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参考文献