マスタリングソフト徹底ガイド:機能・選び方・プロのワークフロー
はじめに — マスタリングソフトとは何か
マスタリングは、ミックス済み音源を最終フォーマット(配信、CD、アナログなど)に最適化する工程です。近年は専用のハード機器に加え、ソフトウェア(スタンドアロン/プラグイン)の性能が飛躍的に向上し、プロ・アマ問わず多くのエンジニアが「マスタリングソフト」を利用しています。本稿では、マスタリングソフトの主要機能、ワークフロー、代表的な製品比較、選び方、注意点までを詳しく解説します。
マスタリングで必要とされる主要機能
イコライザー(EQ) — 周波数バランスの微調整や問題帯域の補正。透明な外観のものからアナログモデリングまで様々。
コンプレッション/バスコンプ — ダイナミクスを整え、トラック全体のまとまりを作るために使用。
マルチバンドコンプレッサー/ダイナミクス — 周波数帯ごとに独立したダイナミクス処理を行い、過度な処理を避けつつ整える。
リミッター/マキシマイザー — ラウドネスを上げつつピークを制御する。True Peak保護やインターサンプルピークに対応したものが重要。
ステレオイメージャー/ミッド・サイド処理 — 空間感や定位の調整、モノ互換の確認に使用。
サチュレーション/テープ/アナログエミュレーション — 音に色付けや倍音を加え、心地よい暖かさやパンチを付与する。
メーター/ラウドネスメーター — LUFS、True Peak、短期/瞬時メーターなど、配信規格に準拠した測定が必須(例:EBU R128、ITU-R BS.1770)。
リサンプル/ディザリング — ビット深度やサンプルレート変換時のアーティファクト回避のために必要。
技術的な基準:LUFS、True Peak、配信規格
現在の配信プラットフォーム(Spotify, Apple Music, YouTubeなど)は異なるラウドネス正規化ポリシーを持ちます。一般的にはラウドネスの指標としてLUFS(Loudness Units relative to Full Scale)を用い、ITU-R BS.1770およびEBU R128(欧州の推奨規格)が基礎になっています。さらに、インターサンプルピークを含む最大レベル制御のためにTrue Peak測定が重要です。マスタリングソフトはこれらの測定器を内蔵しているか、サードパーティのメーターと組み合わせて運用します。
代表的なマスタリングソフトとその特徴
iZotope Ozone — オールインワンのマスタリングスイート。AI支援のアシスタント機能、モジュール式のEQ/コンプ/リミッター、包括的なメーター類を備え、初心者からプロまで幅広く利用されています。
FabFilter(Pro-Q, Pro-L, Pro-MBなど) — 単体のプラグインとして高品質なEQやリミッター、マルチバンドを提供。透明性と操作性が高く、マスタリングで多用されます。
Waves(Lシリーズ、SSL G-Master Buss Compressorなど) — 長年の実績を持つプラグイン群。特にリミッターとバスコンプの選択肢が豊富です。
T-RackS(IK Multimedia) — マスタリングチェーンの構築に適したスイート。アナログ機器のエミュレーションが充実しています。
LANDRなどのクラウド/AIマスタリング — 自動化された即時マスタリングを提供。簡便だが最終調整やジャンル固有の感覚は人間のエンジニアに軍配が上がることが多い。
マスタリングの一般的なワークフロー
プロのワークフローは様々ですが、基本的な流れは次の通りです。
参照トラックを用意する — 目指す音像やラウドネスを決めるため、同ジャンルのリファレンスを用意します。
ゲインステージング — クリップを避けつつ、内部処理で適切なヘッドルームを確保します(例:-6dB~-3dBFS程度)。
EQでの大きな問題解決 — 低域の不要なエネルギーをハイパスで処理、耳につく不快域のカットを行います(ナローバンドなQで慎重に)。
ダイナミクス制御 — マルチバンドやバスコンプで不均一なダイナミクスを整えます。
ステレオ/ミッドサイド処理 — 必要に応じてセンター要素とサイド成分を微調整し、モノ互換性をチェックします。
サチュレーションや色付け — 曲の雰囲気に合わせて甘さや倍音を追加。
リミッティングとラウドネス調整 — True PeakとLUFSの目標値に合わせて最終レベルを設定。
エクスポート時のディザリングとフォーマット変換 — マスターは通常32/24bitで作業し、必要に応じて最終的に16bit/44.1kHzなどへディザリングして出力します。
プラグイン単体かオールインワンか — 選び方のポイント
オールインワン(例:Ozone)は学習コストが低く、短時間で完成度の高いマスターを作れる利点があります。対して単体プラグインを組み合わせる方法は柔軟性・音質面で優れることが多く、細かな調整が可能です。選択の基準は下記を参考にしてください。
作業スピード重視ならオールインワン。
音質の追求とカスタマイズ性を求めるなら個別プラグイン。
予算 — 単体で揃えると高額になりがちだが、良質なバンドルはコストパフォーマンスが高い。
メータリングと規格準拠機能の有無 — LUFS/True Peakメーターは必須。
よくある誤解と注意点
「リミッターで無理やり大音量にすれば良い」 — 結果として歪みや音像の崩れ、配信プラットフォームでの逆正規化のリスクがあります。適切なダイナミクス処理と参照比較が重要です。
「AIマスタリング=万能」 — AIは早く便利だが、ジャンル特有のニュアンスやアーティストの意図を完全に理解するわけではありません。初期案として使いつつ、最終判断は人間が行うのが安全です。
「高価なプラグインは必須」 — 高価なものは確かに有利な点がありますが、基礎ができていれば安価なツールでも良好な結果が得られます(重要なのは耳とワークフロー)。
プロが使う際の実践的Tips
スイッチングで比較する — 処理のON/OFFを頻繁に切り替え、処理前後で音の変化を確かめる。
参照トラックは同じサブジャンルから、同じ配信質(ストリーミング向けかCD向けか)を選ぶ。
短時間でのベスト判断を避ける — 休憩を挟み異なる音量・再生環境(ヘッドホン/モニター/スマホ)で確認する。
メーターを盲信しない — LUFS等は目安。耳での最終確認が不可欠。
まとめ
マスタリングソフトは機能の進化により、個人でも高品質なマスターを作れる時代になりました。しかし、ソフトはあくまで道具であり、最終的なクオリティはリファレンス選び、ゲインステージング、耳のトレーニング、そしてワークフローの洗練によって決まります。目的(配信先やジャンル)に合わせた目標LUFS/True Peakの設定と、適切なメータリングが重要です。
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参考文献
- iZotope Ozone(製品ページ)
- FabFilter Pro-Q(製品ページ)
- Waves L2 Ultramaximizer(製品ページ)
- EBU R128(ラウドネス正規化ガイド、PDF)
- ITU-R BS.1770(ラウドネス測定基準)
- LANDR(クラウドマスタリングサービス)
- T-RackS(IK Multimedia、製品ページ)


