シェーンベルク徹底解説:無調から十二音技法へ──生涯・作品・理論を深掘り
シェーンベルクとは
アルノルト・シェーンベルク(Arnold Schoenberg、1874年9月13日生 - 1951年7月13日没)は、ウィーン出身の作曲家・理論家で、20世紀音楽の最重要人物の一人です。後期ロマン派の延長線上にある豊かな和声感覚から出発し、やがて無調(atonality)を確立、さらに秩序を与えるための「十二音技法(dodecaphony/十二音組曲)」を提唱して現代音楽の方向性を大きく変えました。シェーンベルクは「第二ウィーン楽派」の中心人物であり、アルバン・ベルク、アントン・ヴェーベルンらとともに新たな作曲の地平を切り開きました。
生涯の概略と歴史的背景
シェーンベルクはウィーンで生まれ、生涯の初期にはワーグナーやブラームス、マーラーらの影響を受けた豊かな後期ロマン派の語法を用いていました。20世紀初頭のウィーンは美術・文学・哲学が変革のただ中にあり、シェーンベルクの音楽も表現主義(Expressionism)という新しい美学と結びついていきます。代表作のいくつかは第一次世界大戦前後の激動期に生まれ、社会的・文化的変化と並行して音楽言語の根本的な再構築を行いました。
重要作品と作曲年代の流れ
シェーンベルクの作風は大きく三期に分けて論じられることが多い。初期のロマン派的作風、無調(自由無調あるいは前期無調)、そして十二音技法による体系化された作風です。初期には室内楽の名作『ヴェルクレルテ・ナハト(Verklärte Nacht)』や大規模な合唱交響詩『グッレの歌(Gurre-Lieder)』などがあり、これらは豊かな調性と色彩を持ちます。無調時代を象徴する作品には、1909年のモノドラマ『エアヴァルトゥング(Erwartung)』や1912年に発表された『月に憑かれたピエロ(Pierrot Lunaire)』があり、後者はスプレッヒシュティンメ(Sprechstimme)を用いた革新的な語法で広く知られています。1920年代以降は十二音技法を体系化し、ピアノ組曲(作品25)などで新技法を具体化しました。オペラ『モーゼとアロン(Moses und Aron)』は未完であるものの、十二音技法を用いた壮大な劇作として高く評価されています。
無調への移行と表現主義
19世紀末から20世紀初頭、和声の拡張は極限に達しつつありました。シェーンベルクは「不協和音の解放(emancipation of the dissonance)」という概念を掲げ、 dissonance(不協和)が必ずしも解決を必要としないという考えに基づいて無調の方向へと進みます。この過程は単なる和声の崩壊ではなく、音楽的思考の再編でした。表現主義的な断片化、強烈な感情表現、音響の新たな可能性探求が特徴で、聴覚上の新しい緊張と解放の様式を提示しました。
十二音技法の原理と実践
十二音技法は、12の半音を一列に配した「基本資料(tone row)」を作り、その系列を素材として楽曲全体を組織する方法です。基本的な操作には、原型(P)、反行(I:inversion)、逆行(R:retrograde)、逆行反行(RI:retrograde-inversion)という四つの形態と、これらの転調(transposition)が含まれます。これにより、音列は回転するように楽曲の中で循環し、調性に代わる一貫性をもたらします。シェーンベルク自身は十二音法を“規則”として押し付けるよりも、作曲上の有効な生成原理として位置づけ、作品ごとに音列の扱い方を柔軟に変えて用いました。
技法の具体例
例えばピアノ組曲(作品25)は、十二音技法を用いた代表的な小品集で、各楽章における行為(各種の変形)の使い分けや、和声的効果の作り方がつぶさに観察できます。『モーゼとアロン』では、声楽的表現と十二音の秩序をどう結びつけるかという難題に取り組んでおり、合唱や独唱における旋律形成のための音列操作がテキストの意味と絡み合う高度な例となっています。
理論的著作と教育活動
シェーンベルクは作曲活動と並行して理論的著作も残しました。代表的な理論書に『ハーモニー(Harmonielehre)』があり、和声論に関する体系的記述は後世の教育に大きな影響を与えました。また多くの論文や講演を通じて自身の美学や技法を説明し、現代音楽の理論的基盤形成に寄与しました。ナチスの台頭により1933年頃にヨーロッパを離れ、最終的にはロサンゼルスに定住して教育活動を行い、アメリカにおける現代音楽の発展にも影響を与えました。
教え子と影響
シェーンベルクはアルバン・ベルク、アントン・ヴェーベルンといった直弟子たちを通じて第二ウィーン楽派を形成しました。彼の技法は戦後のポスト・ウェーベルン的な初期シリアリズムを経て、ピエール・ブーレーズ、カールハインツ・シュトックハウゼンら20世紀中葉の前衛作曲家にも多大な影響を与えました。一方で、シェーンベルク本人は後の行き過ぎた抽象的シリアリズムに慎重な立場を示すこともあり、彼の思想は単純に「十二音=機械的作曲」とは一線を画します。
論争と受容の歴史
シェーンベルクの音楽は当初、聴衆や批評家の間で激しい賛否を生みました。無調や十二音法は「音楽の破壊」として攻撃されることもあれば、革新の中心として称賛されることもありました。ナチス政権下ではシェーンベルクの音楽は「退廃音楽(degenerate music)」として排斥され、ユダヤ人であった彼自身も迫害の脅威から逃れてアメリカへと移住しました。戦後になると学術的・演奏的関心は高まり、今日では20世紀以降の西洋音楽を語るうえで不可欠な存在と位置づけられています。
鑑賞のポイント(演奏・聴取ガイド)
- 無調作品を聴くときは「調」や「メロディーの帰結」を期待せず、音の色彩・テクスチャー・音列の展開に注目する。短いモティーフの反復や変形の仕方が作品の構造を支えることが多い。
- 『月に憑かれたピエロ』ではスプレッヒシュティンメの扱いを観察することで、声と楽器の境界がどのように操作されるかを理解できる。
- 十二音技法作品は、基本資料(音列)の生成やその変形がどのように楽曲の形式と語りを作っているかを追うと構造が見えてくる。楽曲ノートやスコアの音列表示を手元に置いて聴くと発見が多い。
- 『モーゼとアロン』のような劇作品は、テクストと音列操作の関係に注目すれば、語義と音の関係性について深い理解が得られる。
音楽外の活動と人間像
シェーンベルクは作曲家であると同時に理論家であり、晩年には絵画制作にも取り組みました。自身の美学や芸術観を文章や講義で示し、芸術間の対話に関心を寄せました。人間的には気難しい面も指摘されますが、同時に弟子や友人に対して深い影響力を行使した教育者でもありました。
現代音楽への遺産
シェーンベルクの業績は単に新たな技法を発明したというだけでなく、音楽における秩序の再定義をもたらした点にあります。無調と十二音法は20世紀の作曲実践に多様な道を開き、和声・旋律・形式の根本的な再考を促しました。現代の作曲家や演奏家は彼の方法論を出発点として、さらにリズム・音色・電子音響など他の要素と組み合わせることで新たな表現を模索しています。
結び
シェーンベルクは時代の潮流に真正面から応答し、音楽史のパラダイムを転換させた稀有な人物です。彼の作品は初見で理解しづらいこともありますが、理論的背景や音列操作の追跡を通じて聴くと、その論理と美学が次第に明らかになります。初期のロマン派的深みから、過激な表現主義、体系化された十二音法へと至る歩みは、20世紀音楽の核心を理解するうえで不可欠です。
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参考文献
- Encyclopaedia Britannica: Arnold Schoenberg
- Arnold Schönberg Center(公式アーカイブ)
- Oxford Music Online / Grove Music Online(作曲家項目)
- Library of Congress: Arnold Schoenberg 資料
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