ダブルバスクラリネット（コントラバスクラリネット）の魅力と実像：構造・音域・奏法・レパートリー解説
エバープレイ編集部ダブルバスクラリネットとは何か
「ダブルバスクラリネット」は一般的には英語の contrabass clarinet を指し、日本語ではコントラバスクラリネット（コントラバス・クラリネット）と呼ばれることが多い楽器です。クラリネット族の中で最も低音域を担当する楽器群の一つで、バスクラリネットよりさらに下の低音域をカバーします。管は長く、しばしば金属製の湾曲ネックやベルを備え、視覚的にも非常に大きな存在感があります。
歴史的背景と発展
低音のクラリネットの試みは18〜19世紀にさかのぼります。バスクラリネット自体は19世紀前半に普及し、さらに低音を求めてさまざまな変種が試作されました。コントラバスクラリネットの原型は19世紀に登場し、20世紀に入って楽器製作技術の向上とともに実用的な音程と奏法を備えた楽器が製作されるようになりました。大規模な吹奏楽や現代音楽、映画音楽などでの低音色に対する需要が、コントラバスクラリネットの普及を後押ししています。
構造と設計の特徴
コントラバスクラリネットは形状や素材、キィ配列においてバスクラリネットの延長線上にありますが、いくつか特有の要素があります。
- 管材と形状：素材は木製（グラナディラなど）や金属製のもの、樹脂を用いたモデルまで多様です。長大な管胴の一部は湾曲して配置されることが多く、演奏時の取り回しを良くするためにU字やS字状に曲げられます。
- ネックとベル：マウスピースに近いネック部分はカーブさせることで口元まで届くようにされ、ベルは低域を拡散させる大きな形状をとります。
- キィと機構：バスクラリネットのキィ機構を拡張したもので、低音域の穴をカバーするために独自のキーやリンク機構が加えられています。多くの機種は重さ対策として支柱やフロアピン（脚）を備えます。
- 調律と音孔位置：低音を安定させるためにボア（内径）は広めに設計され、音孔位置や胴の長さは音のフォーカスと応答性のバランスをとるよう緻密に計算されています。
音域と移調
コントラバスクラリネットはクラリネット族で最も低い音域を担当します。モデルにより最低音は異なりますが、多くは低いB♭まで、機種によっては低Cまで出せるものもあります（楽器のキーやメーカーに依存）。トランスポーズは楽器により異なりますが、B♭コントラバス・クラリネットは表記よりも低く響き、演奏上は移調楽器として扱われます。一般的なコンサートバンドや現代作品での譜面では、音の実際の高さと譜面上の高さが異なることを念頭に置く必要があります。
楽器の役割と使われ方
コントラバスクラリネットはオーケストラでの常設楽器とは言えませんが、吹奏楽、サクソフォンやクラリネットのアンサンブル、現代音楽、映画音楽、実験音楽の分野で重用されます。役割は大きく分けて次のとおりです。
- 低音の補強：管楽器群や弦楽器の最低音域を補完し、アンサンブル全体に重厚な土台を与えます。
- 特殊な色彩効果：非常に低い周波数帯域は独特の物質感や空気感を生み、映画音楽や現代音楽で効果的に用いられます。
- ソロ・アンサンブル：専用のソロ曲や室内楽作品も増えており、独奏的な使用も行われますが、楽器の希少性ゆえに数は限られます。
奏法と表現技法
基本的な運指やアンブシュアはバスクラリネットに近いものの、低域特有の課題があります。音の立ち上がりやレスポンスが低音域では遅くなりやすいため、息の支えとタイミングのコントロールが重要です。また、現代演奏では以下のような拡張技法が多用されます。
- マルチフォニックス（倍音を同時に鳴らす技法）
- スラップタンギング（低域での打撃的な音）
- フラッタータンギング、ポルタメント、微分音の実現
- サーキュラーブリージング（循環呼吸）を使った長い持続音や連続フレーズ
これらの技法は楽器固有の音色と相まって、独自の表現世界を広げます。
レパートリーと現代音楽での位置づけ
伝統的なオーケストラ作品には頻繁に登場しないものの、吹奏楽や現代音楽の作曲家たちによって利用されてきました。低音域のスペシャルカラーを求める映画音楽や劇伴、サウンドデザインの分野でも採用例が増えています。また、作曲家がコントラバスクラリネットの独特な倍音や振る舞いを探求することで、新しいソロ曲や室内楽が生まれています。とはいえ、楽器の希少性と取り扱いの難しさから、レパートリーはまだ発展途上と言えます。
メーカーと入手事情
コントラバスクラリネットは一般的なクラリネットよりも製造数が少なく、専業メーカーのラインナップの一部として生産されるケースが多いです。歴史的にLeblanc（現Conn-Selmer系）、Buffet-Crampon、Yamaha といったメーカーが製作・販売していますが、モデルごとに重量や音色、最低音の仕様は大きく異なります。購入やレンタルを検討する際は、取り回し、支柱やケースの有無、保守サービスの提供状況などを確認することが重要です。
メンテナンスと実用上の注意点
大型楽器であるため保管や運搬には注意が必要です。湿度管理、キーの調整、パッド交換といった通常のクラリネットのメンテナンスに加え、曲げ部の破損防止やベルの保護対策も重要です。演奏時は楽器の支え方（フロアピンや肩当ての使用）、長時間演奏による肩や背中への負担にも配慮してください。
学習と初めて触れる人へのアドバイス
すでにクラリネット経験のある奏者であれば、バスクラリネットの経験が移行しやすいですが、低音域特有の呼吸法やレスポンスの違いに慣れる必要があります。はじめて触れる奏者は、軽量化されたモデルやレンタルでお試しするのがよいでしょう。また、アンサンブルでの使い方や楽譜の移調ルールを理解しておくことが重要です。
まとめ — 現代における価値
ダブルバスクラリネット（コントラバスクラリネット）は、低音域での圧倒的な存在感と独特の音色を持つ楽器です。伝統的なオーケストラ配置では限定的な役割にとどまることが多いものの、吹奏楽、現代音楽、映画音楽などで重要な色彩的役割を果たします。楽器自体の希少性や取り回しの難しさはありますが、それを補って余りある音響的な魅力があり、今後も専門的なレパートリーの拡大や技術的進化が期待されます。
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参考文献
- コントラバスクラリネット - Wikipedia（日本語）
- Contrabass clarinet - Wikipedia（English）
- Clarinet | Britannica
- International Clarinet Association（公式サイト）
- Buffet Crampon（メーカー公式サイト）
- Conn-Selmer / Leblanc（メーカー情報）
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