円舞曲(ワルツ)の歴史・音楽分析・聴きどころ — 起源から現代への影響まで徹底解説
円舞曲とは:定義と名称の由来
円舞曲(ワルツ、waltz)は三拍子(主に3/4拍子)を基本とする舞曲・楽曲の総称で、第一拍に強いアクセントを置き、回転や流れるような運動感を伴うのが特徴です。英語の "waltz"、ドイツ語の "Walzer" は方言的な動詞 walzen(転がる・回る、あるいは踊ることを指す)に由来するとされ、踊り手が互いに密着して回転するスタイルと密接に結びついて発展しました。
歴史的な起源:農村舞踏から社交場へ
ワルツの起源は18世紀後半のオーストリアや南ドイツに見られる農民舞踏(例:レンドラー Ländler)に求められます。レンドラーは三拍子系の民族舞踊で、これが都市のサロンや舞踏会に取り入れられ、18〜19世紀にかけて洗練されていきました。当初は男女が密着して回転する姿が『不謹慎』だとして保守層の批判も受けましたが、19世紀の都市文化の中で急速に流行し、ヨハン・シュトラウス一族(Johann Strauss I、Johann Strauss II)やヨーゼフ・ランナー(Joseph Lanner)らによる舞曲制作で室内楽・管弦楽のレパートリーとして確立しました。
音楽的特徴と形式
ワルツの最も基本的な音楽的特徴は3/4拍子における強拍・弱拍のパターンです。典型的な伴奏形は「バスの単音(第1拍)」→「和音の連打(第2・第3拍)」といういわゆる "oom-pah-pah"(ウームパッパ)で、ピアノ曲では左手が低音単音→中高域の和音という交互配置を取ることが多いです。
形式的には、短いテーマが反復される二部形式や三部形式(トリオを含む)をとることが一般的で、1つのワルツ作品が複数の異なるワルツ主題を連ねた組曲的な構造(ワルツ・ダンスセット)になっている場合もあります。和声進行は主和音—属和音を中心に短いサブドミナントや循環進行が用いられ、優雅さや回転感を演出します。
テンポの差(ヴィエナ・ワルツとスロー・ワルツ)
- ヴィエナ・ワルツ(ウィーン風ワルツ):伝統的に速いテンポで、目安として1分間に約58〜62小節(= 約174〜186拍)ほどの速さで踊られることが多いです。回転の速さと連続性を重視します。
- スロー・ワルツ(英式ワルツ、モダン・ワルツ):19世紀中頃以降にイギリスや国際大会舞踏で整えられたスタイルで、テンポはゆったり目(1分間に約28〜30小節、= 約84〜90拍)で、より伸びやかで流麗な表現を重視します。
主要作曲家と代表作
- ヨハン・シュトラウス2世(Johann Strauss II):「美しき青きドナウ(An der schönen blauen Donau, Op.314)」や「ウィーンの森の物語(G'schichten aus dem Wienerwald)」など、管弦楽ワルツの代表作を多く遺しました。
- フレデリック・ショパン(Frédéric Chopin):ピアノの小品としてのワルツ(例:Op.18、Op.34、Op.64の『小犬のワルツ(Op.64-1)』など)は、舞踏としての使用を越えてコンサートピース化した好例です。
- ピョートル・チャイコフスキー(Pyotr Ilyich Tchaikovsky):バレエ音楽の中のワルツ(『眠れる森の美女』『白鳥の湖』など)は物語性と舞踏性を併せ持ち、オーケストラ・ワルツの名曲を残しました。
- モーリス・ラヴェル(Maurice Ravel):「ラ・ヴァルス(La Valse)」はワルツの歴史的な変容と崩壊、モダニズム化を象徴する作品で、ワルツ形式を実験的に拡張しています。
- 他:シューベルト、ブラームス、ヨハン・シュトラウス1世、ランナーなども舞踏曲やワルツを書いています。
舞踏としてのワルツ:技術と様式
舞踏としてのワルツは、閉じたプロムナード(密着したホールド)での回転、引き上げ(rise)と沈み(fall)を特徴とします。ヴィエナ・ワルツは速い回転と連続したスピンを伴い、ステップは比較的短く速い。一方でスロー・ワルツは大きな移動と長い歩幅、膝の柔らかさによる流麗なラインを重視します。音楽と身体表現の同期(音の第一拍での明確な指示、フレージングの合わせ方)は、演奏者と踊り手双方にとって重要です。
楽曲分析の短い例:ワルツの典型的な構成
オーケストラ・ワルツの多くは序奏—主部(複数のワルツ主題)—コーダという構成をとり、各主題は16〜32小節程度の短いフレーズで構成されます。たとえばヨハン・シュトラウス2世の作品では、序奏で雰囲気を作り、続く複数のワルツ主題を色彩的な管楽器や弦の掛け合いで提示・展開し、最後に再現と華やかなコーダで締めくくることが多いです。
演奏上の注意点と聴きどころ
演奏者は第一拍の明確な重心を保ちながら、流動性とレガート(滑らかさ)を確保する必要があります。ピアノ曲では左手の低音と右手の旋律のバランス、オーケストラ作品では弦楽器の持続音と管楽器のアクセントの対比が聴きどころです。ショパンのワルツのようなコンサート用ワルツでは、装飾的な語法やルバート(自由なテンポ変化)を用いて感情表現を深めますが、舞踏目的のワルツではダンサーのテンポに合わせた均整の取れた拍感が優先されます。
ワルツの文化的影響と現代での受容
19世紀のワルツは一大ブームとなり、社交文化を象徴する音楽ジャンルになりました。20世紀以降も映画音楽やバレエ、ポピュラー音楽に取り入れられ、ラヴェルによる再解釈やジャズ・ボールルームへの導入など、形を変えて存続しています。映画音楽でのワルツ風の旋律はしばしばロマンティシズムや郷愁、舞踏の場面を象徴するサウンド・トロープとして用いられます。
まとめ
円舞曲(ワルツ)は、農村舞踏に端を発しながら都市文化で洗練され、音楽史と舞踏史の両面で大きな役割を果たしてきました。3/4拍子の持つ躍動感と回転性、そして作曲家による形式的・色彩的な工夫によって、舞踏用の実用曲から演奏会用の芸術曲へと広がりを見せています。聴く際はリズムの第一拍、伴奏のパターン、フレーズの構築に注意すると、ワルツの多様な顔がより明瞭に感じられるでしょう。
エバープレイの中古レコード通販ショップ
エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っております。
是非一度ご覧ください。

また、レコードの宅配買取も行っております。
ダンボールにレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単にレコードが売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery
参考文献
- Encyclopaedia Britannica — "Waltz"
- Encyclopaedia Britannica — Johann Strauss II
- Encyclopaedia Britannica — Frédéric Chopin
- Encyclopaedia Britannica — La Valse (Ravel)
- IMSLP (国際楽譜ライブラリプロジェクト) — ワルツの楽譜資料
投稿者プロフィール
最新の投稿
用語2025.12.21全音符を徹底解説:表記・歴史・演奏実務から制作・MIDIへの応用まで
用語2025.12.21二分音符(ミニム)のすべて:記譜・歴史・実用解説と演奏での扱い方
用語2025.12.21四分音符を徹底解説:記譜法・拍子・演奏法・歴史までわかるガイド
用語2025.12.21八分音符の完全ガイド — 理論・記譜・演奏テクニックと練習法

