交響曲第25番 ト短調 K.183(K.173dB) — 概要
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの交響曲第25番ト短調 K.183(注記として K.173dB と表記されることもある)は、1773年10月ごろにザルツブルクで作曲されたとされる作品です。当時17歳の若きモーツァルトが書いたこの交響曲は、短調による劇的な色彩、強烈なリズム感、そして濃密な感情表現で知られ、しばしば「少年モーツァルトの激情」の象徴的な一作として挙げられます。近年では映画『アマデウス』の冒頭などで用いられたこともあり、クラシック入門者にも比較的知られた曲です。
作曲史と時代背景
1770年代前半のザルツブルクは、宮廷音楽家であるモーツァルトが多くの宗教曲や器楽曲を手掛けていた時期です。交響曲第25番は、当時のヨーロッパで流行した「シュトゥルム・ウント・ドラング(嵐と衝動)」様式の影響を受けた作品と見なされています。短調を用いた交響曲は当時まだ数が限られており、感情の激しさや対照的な表情を前面に出すために短調が選ばれることがありました。モーツァルトはこの作品で劇的な主題と古典的な形式感を融合させ、成熟した作風を示しています。
楽器編成とスコアの特徴
基本的な編成は弦楽(第一・第二ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)に加え、2本のオーボエ、2本のホルンという古典派標準の編成です。演奏や版によってはファゴットや通奏低音が補われることもあります。ホルンは自然ホルンの時代であったため、和音の色彩や調性の際どい運用が音響的な制約の下で工夫されています。
楽曲構成(4楽章)
- 第1楽章:Allegro con brio(ト短調) — 劇的な主題で始まるソナタ形式。冒頭の動機は短い疾走感のあるフレーズと重音的なアクセントで構成され、第一主題の強烈さが楽章全体を牽引します。展開部では断続的な動機の発展と急速な転調が用いられ、緊張感を高めます。
- 第2楽章:Andante(変ホ長調) — 第1楽章の激しさからの対比として、穏やかで歌うような楽想を提示します。長調に転じることで和らぎを与え、楽曲全体の構成的なバランスを取ります。
- 第3楽章:Menuetto & Trio(ト短調) — 伝統的なメヌエット形式ながら、メヌエット本体は力強いリズムと短調の緊張感を保ちます。トリオは短く対照的な性格をもち、聴覚的な安堵を提供します。
- 第4楽章:Allegro(ト短調) — ファイナルは再び短調で始まり、第一楽章の動機がしばしば回帰します。活発なリズムと明確な終結感で作品を締めくくります。
形式と主題の扱い
第25番は古典派ソナタ形式の規範に則りながら、短調という色彩と劇的な主題操作によって個性的な表現を獲得しています。第1楽章では短い動機が断片的に反復・拡大され、和声的にも相当な遠隔調への旅を経て回帰することで緊張と解決を描きます。対照的に第2楽章では主題が歌詞的に扱われ、かつ和声的な安定感が重視されます。全体として、対比(激と静、短調と長調)を明確にしつつも、各楽章の素材は互いに関連づけられている点が特徴です。
演奏上のポイントと解釈の幅
演奏ではテンポとアーティキュレーションの選択が音楽の性格を大きく左右します。歴史的演奏(ピリオド奏法)では小編成・速めのテンポ・鮮明なアーティキュレーションが採られ、よりいっそうの緊張感と鮮烈さが強調されます。一方、近代オーケストラによる演奏では豊かな弦の響きや広がりが意図され、よりロマンティックな色合いを帯びることがあります。ホルンやオーボエの扱い、ヴィオラ以下の内声のバランスなども、作品の陰影を左右する重要な要素です。
聴きどころ(ガイド)
- 第1楽章冒頭の短い動機群:この動機が楽章全体のエネルギー源となる。
- 展開部における転調と対位法的な発展:動機が細かく分解され、緊張が最高度に達する箇所に注目。
- 第2楽章の歌いまわし:ホルンや木管の彩りと弦のレガート表現が対照を生む。
- メヌエットのリズム感:短調のメヌエットは舞曲でありながら戦闘的な印象を残す。
作品の位置づけと影響
モーツァルトの短調交響曲群の先駆けとも言える本作は、後の交響曲第40番ト短調 K.550 としばしば比較されます。両者は同じト短調という共通点をもちつつ、年齢や創作状況の差から生まれる表現の成熟度に違いが見られます。第25番は青年期の衝動と古典的技法の融合が鮮やかで、モーツァルトの交響曲作曲家としての力量を早期に示した代表作です。
おすすめ録音(参考)
録音は演奏解釈の違いを楽しむうえで重要です。以下は代表的な録音例(参考)です。
- カール・ベーム / ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
- レナード・バーンスタイン / ニューヨーク・フィルハーモニック
- ネヴィル・マリナー / アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ
- ニコラウス・アーノンクール / コンチェルト・ケルン(ピリオド奏法の例)
- カルロス・クライバー / ウィーン・フィル(歴史的に高く評価される演奏)
まとめ
交響曲第25番ト短調 K.183は、若きモーツァルトの情熱と形式感覚が高密度で結実した作品です。ドラマティックな短調の書法、対照的な楽章構成、そして演奏解釈の幅の広さが魅力であり、初めて聴く人にも強い印象を残すでしょう。古典派交響曲の面白さ、そしてモーツァルト個人の表現力を同時に味わえる代表作として、繰り返し聴き込みたくなる作品です。
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