モーツァルト：交響曲第27番 ト長調 K.199（K.161b）──成立背景・楽章分析と聴きどころ

概要

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの交響曲第27番 ト長調 K.199（旧番号 K.161b）は、モーツァルトが十代半ばから後半にかけて作曲したいわゆる「サルツブルク期」の管弦楽作品の一つです。本作は軽快で明るい性格を持ち、標準的な古典派の3楽章形式を備える比較的短い交響曲として知られます。初期交響曲群の中では技巧的な華やかさよりも、明晰な旋律と均整の取れた構成が印象的です。

作曲時期と背景

本作は1773年頃（モーツァルト17歳前後）にサルツブルクで書かれたとされます。モーツァルトはこの時期、多作であり、教会音楽、室内楽、オペラ、交響曲など幅広いジャンルに取り組んでいました。父レオポルトやサルツブルク大司教の楽団のための実用的な作品として、比較的短時間で仕上げられたことが想定されます。 作品番号については、K.199 と記載されるのが一般的ですが、古いカタログや版では K.161b とされることもあり、ケッヘル（Köchel）目録の改訂による番号差が背景にあります。ケッヘル目録の改訂で作曲年代の再検討が行われ、番号の併記が残っているためです。

編成と楽曲の構成

編成は当時の典型的な交響曲編成で、弦楽器に加えオーボエ2本とホルン2本を含む比較的コンパクトなオーケストレーションです。通奏低音やフルート、クラリネットなどの色彩的な楽器は用いられていません（後年の改編版などでは違いが出ることがあります）。 楽章構成は一般に3楽章からなり、次のような典型的な配置が採られます。

• 第1楽章：速いテンポのソナタ形式（序奏なし、明るい主題展開）
• 第2楽章：緩やかなテンポの歌を基調とする中間楽章（対比と和声の変化で表情を出す）
• 第3楽章：軽快な終楽章（ソナタ形式またはロンド風の展開で短く締めくくる）

各楽章の深堀り（分析と聴きどころ）

第1楽章は典型的な古典派ソナタ形式で、明晰な主題提示と対位的ではないが効果的な伴奏進行が特徴です。第1主題は弦楽器中心に提示され、オーボエとホルンが色彩を添えます。展開部では短いモチーフの転調的発展やシーケンス（断片的反復）を用い、強調されるのは旋律の明快さとリズムの推進力です。再現部は比較的簡潔にまとめられ、均衡の取れた構成感が心地よく残ります。 第2楽章は穏やかな性格で、器楽合奏で歌うような旋律線が中心になります。単純な装飾や短い応答句を交えつつ、温かみのある和声進行で中間部の対比を作り出します。モーツァルトのこの時期の緩徐楽章に共通する、飾りすぎない純粋な歌心が魅力です。弦のアンサンブルワークや、オーボエの内声的な役割に注目すると楽曲の繊細さがよく分かります。 第3楽章は機敏で活発な楽想により、作品全体を軽やかに締めくくります。短い動機の反復とリズムの明確さで終始し、タイトルどおり聴衆に軽快な余韻を残します。形式はソナタ・ロンド的な要素を含むことが多く、終結に向けてテンションを高める巧みな配置が見られます。

作風的特徴と位置づけ

交響曲第27番は、モーツァルトの初期交響曲群の中で「成熟への途中」を示す作品といえます。技巧的な誇示よりも旋律の自然さ、明晰なフレーズ処理、古典的均衡感を重視する点で、同時期のヨハン・クリスティアン・バッハや南ドイツ・イタリア楽派の影響がうかがえます。一方で、後の成熟期に見られる劇的な対位法や複雑な管弦楽法はまだ前段階にあり、素朴さと洗練の融合が味わいどころです。

演奏・解釈のポイント

• テンポ感：第1楽章は過度に速くしすぎず、主題の歌い回しを大切にする。軽快さと安定感のバランスが重要です。
• フレージング：モーツァルトの古典主義的フレージングを意識し、フレーズの始まりと終わりを明確に。弦はレガートと軽めのアーティキュレーションを使い分けると良いでしょう。
• ホルンとオーボエの扱い：ホルンは自然ホルンの特性（音域と響き）を踏まえた鳴らし方、オーボエは内声的な彩りを失わないように配慮します。
• 古楽器 vs 近代楽器：ピリオド・アプローチ（古楽器や古典奏法）で録音された演奏は、テンポや音色の違いから新たな発見があります。一方でモダン楽器の録音は響きの豊かさで別の魅力を伝えます。

今日の評価と聴きどころ

交響曲第27番は大規模な交響曲群と比べると知名度は高くありませんが、モーツァルトのメロディメーカーとしての腕前や古典派交響曲の均整美を手軽に味わえる佳作です。全楽章を通じて耳に残るのは「無駄のない旋律」と「明快な構成」。初めてモーツァルトの交響曲に触れる聴き手にも入りやすく、室内オーケストラや学生オーケストラのレパートリーとしても適しています。

聴きどころのガイド

• 第1楽章：冒頭の主題提示で旋律線の形を追う。展開部では短いフレーズの展開と転調に注目。
• 第2楽章：旋律の歌わせ方と伴奏の余白（間）の取り方。各声部のバランスに耳を傾ける。
• 第3楽章：リズムの切れと反復動機の働き。終結部でのエネルギーの集中を感じる。

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参考文献

• Wikipedia: Symphony No. 27 (Mozart)
• IMSLP: Symphony No.27, K.199 (score and source information)
• Wikipedia: Köchel catalogue（ケッヘル目録）
• Digital Mozart Edition（デジタル・モーツァルト版）