バッハ:BWV120a「主なる神、万物の支配者」 — 成立と音楽分析
概要
BWV120a(邦題例:主なる神、万物の支配者)は、ヨハン・ゼバスティアン・バッハに帰属されるカンタータの系譜に位置づけられる作品で、現存資料や写本の伝達状態により断片的あるいは転用の形でしか作品全体を追えないことが多い作品群の一つです。本稿では、現存資料と主要研究に基づき、BWV120aの成立事情、音楽的特徴、テクストと礼拝・行事との関係、上演・復元の課題について整理・考察します。なおBWV番号の末尾に付く英字は、複数の版や関連作を区別するために学界で付されたものであり、原資料の受け渡しや編曲(パロディ)を反映しています。
成立年代と来歴(研究史的観点)
BWV120aに関しては、楽曲の成立年代や用途について明確な確証が残されていない点が多く、研究者は写本資料、転用された楽曲断章、そして同一メロディの別作品への転用を手がかりにして成立事情を復元してきました。バッハは教会カンタータと世俗カンタータを相互に転用(いわゆるパロディ)することが多く、BWV120系作品群にもそのような痕跡が見られるとされています。
主要な一次資料としては、当該作品の冒頭や一部コラール旋律が他のBWV番号の作品に流用されている写し、あるいは18世紀後半の目録記載があり、これらを総合して「本来はある行事のために作曲されたが、後に宗教的テキストへ転用された可能性が高い」と結論づけられています。具体的な成立年については18世紀前半(1720年代〜1730年代)に置く説が有力ですが、作品ごとに異なる版の存在が指摘されており、断定は困難です(Bach Digital, Dürrらの総説参照)。
テクストと用途
BWV120aに割り当てられたテクストは、典型的な祝祭的カンタータの語り口であり、神の統治や万物への摂理を主題に据えるものが知られています。こうしたテーマは市政祝祭、あるいは公的な式典に相応しい内容であり、バッハがライプツィヒ市の公的行事や宮廷での催しのために作曲した世俗的・半世俗的作品と響きを共有します。
重要なのは、バッハが音楽素材をテクストに合わせて柔軟に再利用した点です。元の旋律や対位法的素材はそのままに、歌詞を宗教的・礼拝的な内容にあわせて書き換えることで、異なる用途に適応させる手法が複数のカンタータ群で確認できます。BWV120aと関連する諸作品においても、そうしたパロディ技法の跡が認められます。
楽曲構成と音楽的特徴
保存状態により全容を確定するのが難しい作品ですが、残存する断片や関連作品から推測される典型的な構成は以下の要素を含みます。
- 開幕合唱(合唱曲+オーケストラのリトルネル): 祝祭的なトランペットやホーンの効果音、対位法的なコーラル的終結を用いることが多い。
- アリア群(ソリストの独唱): バッハはここで器楽的な義務パート(オブリガート)を用い、アリアの形態はダ・カーポ形式や二部形式を採用することが多い。
- レチタティーヴォとアリアの交替: 叙述的部分と感情表現部分が交互に配され、テキストの修辞に合わせた音楽的コスチュームが施される。
- 終結コラールまたは合唱: 聴衆にメッセージを定着させるためのコラールあるいは祝祭合唱で締めくくられる。
和声語法としてはバッハ晩年の典型的な機微な転調、対位法的展開、装飾的なオブリガート線の活用が見られます。旋律的には舞曲由来のリズムやフレーズが取り入れられることがあり、聴衆に親しみやすい音楽的素材が礼拝的テクストと結びつけられることで高い説得力を持ちます。
BWV120aとパロディ技法
バッハは既存の音楽を新たなテクストに合わせ再構成することをためらわず、これを学術的には『パロディ技法』と呼びます。BWV120aに関しては、同一主題や伴奏パターンが他のBWV番号のカンタータに再登場する例が指摘されています。パロディの過程では以下のような工夫が行われます。
- テクスト強調のためのリズム改訂やアゴーギクの調整。
- 和声進行の微修正による語感の統一。
- 器楽編成の変更による場面設定の転換(世俗→宗教、もしくは逆)。
こうした手法により、バッハは実用性と芸術性を両立させつつ、新旧のテクストに対して説得力を持つ音楽を提供しました。BWV120aの研究は、その転用過程をたどることでバッハの創作現場と制作上の実務が浮かび上がる好例となります。
演奏史と復元の課題
BWV120aのように資料が断片的な作品は、現代で演奏・録音する際に複数の選択肢と問題を投げかけます。主な課題は以下の通りです。
- 欠落部分の補作: 楽曲の欠如箇所をどの程度補って演奏するか。関連作品やバッハの典型的手法を参照して補作するケースが多い。
- 編成の決定: 史料に明確な指示がない場合、トランペットやティンパニの有無、木管楽器の使用などを歴史的慣習や楽譜上の手掛かりから仮定する必要がある。
- テクストの選択: 世俗テクストを宗教テクストへ転用したものかどうかの解釈により、歌詞と合唱配置が変わる。
- 演奏習慣(テンポ、装飾、ピッチ): HIP(Historically Informed Performance)を採るか、現代大編成で劇的に演奏するかで作品の印象は大きく異なる。
近年の復元・演奏は、Bach DigitalやNeue Bach-Ausgabeなどの研究成果を参照しつつ、保守的に断片を補い原典に忠実でありながら聴衆に訴える解釈を採る傾向があります。録音や演奏の比較は、現代の研究と実演が互いに補強し合う好例です。
演奏実践のポイント
現場でBWV120aを扱う際の実践的アドバイスを挙げます。
- 小編成かつ声楽のバランスを重視する。バッハの合唱は必ずしも大合唱を前提としていないことが多い。
- トランペットやティンパニを使用する場合は、調性とバランスに配慮。祝祭的場面で効果的に用いる。
- continuoの楽器(チェンバロ、オルガン、ギター的低音楽器)の組み合わせを検討し、和声の輪郭を明確にする。
- 装飾音やカデンツァは、歌手の語りかけを優先しテクストの明瞭性を損なわない範囲で用いる。
結語:BWV120aが示すもの
BWV120aは、バッハが実務的かつ創造的に素材を扱ったこと、そして一曲ごとの成立事情が写本や転用の形でしか伝わらない現実を示す興味深い事例です。断片的な資料を尊重しつつも、音楽史・演奏史・礼拝史の観点から総合的に読み解くことで、バッハの制作世界はより立体的に理解できます。復元と演奏は研究と実践が連携して進む分野であり、BWV120aはその過程を追う楽しみを聴衆に与えてくれます。
エバープレイの中古レコード通販ショップ
エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っております。
是非一度ご覧ください。

また、レコードの宅配買取も行っております。
ダンボールにレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単にレコードが売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery
参考文献
- Bach Digital (Bach Digital Work & Quellen) — バッハの作品データベース。BWV番号別の写本情報や版情報の検索に有用。
- Bach Cantatas Website — 各カンタータの解説・版情報・録音情報を網羅したオンライン・リソース。
- Alfred Dürr, The Cantatas of J. S. Bach (Oxford University Press) — バッハのカンタータ研究の基本文献。
- Christoph Wolff, Johann Sebastian Bach: The Learned Musician (W. W. Norton) — バッハの生涯と作品群を理解するための包括的紹介。
- Neue Bach-Ausgabe (NBA) — 新バッハ全集の情報。原典版に基づく編集方針の参照先。
- IMSLP (Petrucci Music Library) — 公開されているスコアや写本の参照に便利。
投稿者プロフィール
最新の投稿
ビジネス2025.12.29版権料とは何か|種類・算定・契約の実務と税務リスクまで徹底解説
ビジネス2025.12.29使用料(ロイヤリティ)完全ガイド:種類・算定・契約・税務まで実務で使えるポイント
ビジネス2025.12.29事業者が知っておくべき「著作権利用料」の全体像と実務対応法
ビジネス2025.12.29ビジネスで押さえるべき「著作権使用料」の全知識――種類、算定、契約、税務、リスク対策まで

