バッハ BWV147a『心と口と行いと生きざまもて』――起源・構成・音楽的魅力を深掘りする

序論:BWV147aとは何か

「心と口と行いと生きざまもて(Herz und Mund und Tat und Leben)」は、ヨハン・セバスティアン・バッハの宗教カンタータのうち、後に有名な合唱曲群を含むBWV147へと発展した初期の版にあたる作品を指してしばしばBWV147aと呼ぶことがあります。本稿では、この『147a』という呼称が意味する歴史的経緯、音楽的特徴、そして後年の改訂(BWV147)との関係を中心に、楽曲の聞きどころや演奏・解釈上の留意点までを詳しく掘り下げます。

歴史的背景と成立事情

バッハはヴァイマル(1708–1717)やケーテン、後のライプツィヒ(1723–)で多数の教会カンタータを制作しました。BWV147aは、通説ではバッハの初期の教会カンタータの一つとして位置づけられ、のちにライプツィヒで拡大・改作されてBWV147として定着したことが知られています。初演年代や場、具体的な祭日については資料により異なる記述があり、特に初期稿(a版)の成立年は推定される部分が残りますが、作品が単独で完結したカンタータとしての体裁を備え、その後の改訂で大規模な手が加えられたことは確かです。

テクストの扱い:コラールと自由詩の関係

この種の作品では、ルター派のコラール(賛美歌)のテクストや旋律が核となり、外側にアリアやレチタティーボが配されるのが常套手段です。BWV147aにおいても、中心となるコラールの節が用いられ、それが各部の構造を規定します。内声部やソロの独唱がコラールの節を言い換え、キーワードを受け渡すことで、宗教的メッセージの多層的展開を実現しています。

編成と楽器法の特徴

初期稿では比較的引き締まった編成が想定される一方で、後のBWV147では管楽器や弦楽器の配置が拡張され、合唱と器楽の織りなすテクスチャが豊かになりました。特に後版で名高くなったコラール節では、流れるような三連の伴奏やアルペジオ的な器楽パートが特徴で、これが通俗的にも「Jesu, Joy of Man's Desiring(英語題)」として親しまれる要因となっています(英訳タイトルは広く用いられますが、楽曲そのものはドイツ語の宗教文脈に根ざしています)。

構成と主要楽曲要素の分析

BWV147aの構成は、典型的なバロック期のカンタータ形式を踏襲しています。コラール旋律の導入(合唱/合唱伴奏)、独唱アリア、レチタティーボ、そしてコラールの終結句へと至る流れです。音楽語法としては、コラール部では厳格な対位法や四声体の処理が見られ、アリア部ではより自由な装飾や器楽のソロが活躍します。ハーモニーは通時的に学術的な転調を用いつつ、テキストの感情的強調点で短調・長調を行き来している点が聴きどころです。

名旋律:有名なコラール節の成立とその魅力

この一連の作品が後世で特に注目されるのは、流麗な伴奏線と歌の旋律が結びついたコラール節にあります。繰り返し現れる三連の伴奏パターンと、穏やかに歌われる旋律線の対比は、単に宗教的内容を伝えるだけでなく、聴衆の感情に直接訴える美的効果を生み出します。アンサンブルにおいては合唱と器楽が一体となった透明感のある音響が理想とされ、このため編成やテンポ、装飾の扱いが録音ごとに大きく印象を変えます。

解釈上の重要点:速度・レトリック・装飾

演奏にあたっては、コラール節のテンポ設定が全体の印象を左右します。あまり遅すぎると輪郭が失われ、速すぎると内省的な宗教性が損なわれるため、歌詞の意味と和声進行に沿った節度あるテンポが求められます。また、レチタティーボ部ではテキストの語尾や語句の切り方(「レトリック」)が重要で、しばしば語義の強調に応じたアゴーギク(微妙な速度変化)や装飾が施されます。バロックの装飾実践(トリルやターン等)は、個々の演奏伝統に応じて加減されるべきで、原典写本に示された簡潔な装飾から奏者が拡張して用いることも多いです。

BWV147aからBWV147への変遷:拡張の意図と効果

BWV147aが後のBWV147へと改訂される際、バッハは器楽の増強、合唱パートの拡充、そしていくつかの楽曲部分の再配置・再書法を行いました。このプロセスは単なる“肉付け”ではなく、礼拝における機能や聴衆・演奏環境に応じて作品を最適化する作業でした。結果的に、BWV147として広く流布した版は、より華やかで色彩感のある響きになり、特にコラール部の旋律が室内楽的とも言える伴奏と結びつくことで一般聴衆にも訴求する形となりました。

聴きどころガイド(楽章ごと)

  • 序盤(コラール/合唱):四声の堅牢な書法と和声進行に注意。テキストのキーワードがどのように旋律で強調されるかを聴いてください。
  • アリア群:器楽ソロ(ヴァイオリンやオーボエ等)と独唱の対話。装飾・カデンツァの取り扱いが録音ごとの個性を作ります。
  • レチタティーヴォ:語尾や和声の解決のさせ方に注目。レトリック的な表現が感情を動かします。
  • 結びのコラール:全体の総括。通常は集団的・共同体的な祈りの表象として配置されます。

演奏史とおすすめ録音

BWV147(およびその元となる版本)に対する録音は数多く、古楽アプローチからモダン管弦楽を用いたものまでスタイルは多岐にわたります。選択の際は、次の点を基準にすると良いでしょう:合唱・ソリストの声質(早口か明瞭か)、テンポ感、器楽のバランス(弦楽・木管の色彩)、装飾の有無。原典主義(古楽器・小編成)による透明な響きは曲の構造を明瞭にする一方、ロマン派的な温かみを加えた演奏はコラールの感情を強調します。

現代の受容と文化的影響

「BWV147a→BWV147」によって世に出たコラール節は、宗教曲としての枠を超え、結婚式やコンサートのアンコール、映画音楽などでも引用されることがあり、バッハ作品の中でも特に市民権を得た存在となっています。これはメロディの親しみやすさと伴奏リズムの揺らぎが、教会の外でも共感を呼ぶからにほかなりません。

研究上の未解決点と今後の課題

BWV147aに関しては、成立の正確な時期や初演の具体的状況、テクストの初出・編纂過程など、史料的に確定しきれない点が残ります。楽譜原典の比較研究や、当時の礼拝慣行を踏まえた演奏復元の研究は引き続き重要です。演奏実践の面でも、どの程度原典装飾に忠実であるべきかは専門家間で議論が続いており、多様な解釈の蓄積が期待されます。

まとめ:BWV147aをどう聴くか

BWV147a(およびBWV147)は、バッハの宗教音楽における「伝統」と「創意」が複雑に絡み合った好例です。コラールの確固たる骨格と、アリアや器楽の柔軟な表現が一体となり、宗教的メッセージを音楽的に開陳します。聴き手としては、テクストの意味、和声進行、対位の働き、そして器楽的装飾の三拍子を意識して聞き進めると、曲の深層にあるバッハの構築力と祈りの真摯さがより鮮明に伝わってくるはずです。

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参考文献