バッハ BWV172 鳴り響け、汝らの歌声(Erschallet, ihr Lieder)徹底解説:ペンテコステの祝祭と音楽的仕掛け

作品概説

バッハの教会カンタータ BWV172 鳴り響け、汝らの歌声(ドイツ語原題 Erschallet, ihr Lieder, erklinget, ihr Saiten!)は、ペンテコステ(聖霊降臨祭)を祝うために作曲された祝祭的なカンタータである。一般に1714年にワイマールにおいて作曲されたとされ、詩はワイマールでバッハと協働した詩人サロモン・フランクによるものと考えられている。祝祭的なテキストとともに、華やかなオーケストレーションと巧みな語り口で聖霊と喜びを描写する点が本作の大きな特徴である。

歴史的背景とテクスト

バッハはワイマール時代に宮廷礼拝や教会音楽の需要に応えて多数のカンタータを作曲し、サロモン・フランクはその主要な詩人であった。ペンテコステの典礼は聖霊の降臨と教会の誕生を祝う日であり、風や火のイメージ、賛美の声の高まり、聖霊による新生といったテーマが典礼文と詩の双方に顕著に現れる。本作でもフランクの詩は祝祭的で能動的な動詞や感覚イメージを多用し、バッハはそれらを音楽的に受け止めることでテキストの意味を増幅している。

編成と全体構成

本作は典礼用の祝祭的な編成をとることが多く、独唱者と合唱、弦楽群と管楽器、トランペットやティンパニを含むことが多い。具体的な楽器編成や配役は写本や初期スコアの版で示されるが、いずれにせよ豪華さを意図した編成が作品の音響的特徴を形成している。カンタータは複数の連続した楽章で構成され、大抵はコーラス曲で開かれ、アリアやレチタティーヴォを挟み、最後に典礼的なコラールで閉じられるというバッハの定型に沿っている。

音楽的特徴と分析の視点

本作を理解するためにはいくつかの観点が有効である。第一に祝祭性の音響的表現である。ホーンやトランペットのファンファーレ的動機、打楽器のアクセント、明るい長調といった要素が集積して聴衆に祝宴の雰囲気を直感させる。第二に語りの機能で、バッハはレチタティーヴォとアリアの対比を用いてテキストの語り口を細かく描き分ける。叙述的な部分はしばしば伴奏を薄くして言葉が聞き取りやすくされ、感情や描写を発展させる場面では伴奏群が豊かに用いられる。

第三に音楽による語義表現、いわゆるワードペインティングが多用される点である。たとえば「鳴り響け」「吹け」「燃え上がれ」といった動的な語に対しては急速な音形や跳躍、強烈なリズムが用いられ、静的・受容的な語句には伸ばされた音形や和声の安定が伴う。第四に合唱と独唱の配置や対比で、集団的な賛美と個人的な応答を音楽構造の中で交錯させる点に注意したい。

代表的な楽章の聴きどころ

開幕合唱は作品のハイライトであり、呼びかけと応答の構造、オーケストラのリトルネッロ、トランペットの明快な合図などが重なり合って祭典の場面を描く。合唱は単なる伴奏ではなく、テキストの中心的な宣言を担う存在として配置される。

中間部に登場するレチタティーヴォやアリアでは、独唱者がテキストの細部に焦点を当てる。ここでバッハはしばしば器楽的な伴奏器具を義務的な対話相手として用い、たとえばヴァイオリンやオーボエのソロが人間の声の感情を反映するように振る舞う。様式的にはアリアはアリア・ダ・カポ型ではない場面もあり、テキストの断片的展開に合わせた自由な形式を採ることがある。

終曲のコラールは典礼的安定を回復する役割を果たす。ここではルター派の賛歌テクスチャを用いた四声体のハーモニーが用いられ、聴衆が共感的に唱和する感覚を再現する。コラールの和声処理にはバッハらしい巧みさが随所に見られ、短い楽章にも関わらず深い和声的含意が込められている。

解釈上の論点と演奏実践

この作品の解釈にはいくつかの論点がある。第一に演奏規模で、歴史的備考に基づく少人数編成で演奏するのか、それとも古典的な大編成で祝祭性を強調するのか。どちらも過去の録音史で実践されており、曲の性格に応じて選択が分かれる。第二に声楽ソロとコーラスの比率で、ソリスト主体で合唱を限定的に用いる方法と、合唱を主要な表現手段として用いる方法がある。

第三に装飾とアーティキュレーションである。バロックの語法に従った装飾やテンポの揺れ、ダイナミクスの取り扱いは演奏者の判断にゆだねられるが、テクストを如何に自然に語らせるかが重要である。トランペットの調律や音色選択、ティンパニの打ち方も祝祭の色合いを左右する要素である。

録音と参考演奏

このカンタータには多くの録音が存在する。歴史的演奏法に基づく演奏や、よりロマンティックな大型編成での演奏など、多様な解釈が楽しめる。代表的な演奏としては、歴史的楽器を用いた合唱団とオーケストラによる録音、ならびに伝統的な合唱とモダン楽器での名演が挙げられる。聴き比べを通じて、作品が持つ祝祭性と内面的な宗教性のバランスを探ることを勧める。

まとめ:なぜ BWV172 は現代に響くのか

BWV172 はテキストと音楽が緊密に結びついた好例であり、祝祭的な音響と深い宗教的含意が同居する稀有な作品である。バッハは有限な時間の中で劇的かつ説得力のある音楽語法を駆使し、聴衆の感覚と信仰の両面に訴えかける。歴史的背景を踏まえつつ、演奏者それぞれの解釈が可能な作品でもあり、聴き手にとって新たな発見をもたらし続けるであろう。

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参考文献