バッハ BWV191「Gloria in excelsis Deo(天のいと高きには神に栄光あれ)」徹底解説:作曲背景・構成・演奏のポイント

概説 — BWV191とは何か

J.S.バッハの作品番号BWV191は、ラテン文「Gloria in excelsis Deo(天のいと高きには神に栄光あれ)」を主題とする祝祭的な作品です。全文が大規模なミサとしてではなく、クリスマスの礼拝や祝祭の場で用いられる短い「グロリア」設定として仕立てられており、華やかな金管(トランペット)やティンパニを伴う祝祭編成が特徴です。楽曲はバッハ晩年に書かれた可能性が高く、公開資料や写本の研究から1742年ごろの制作と推定されています。

作曲の歴史的背景と日付

BWV191は、バッハがライプツィヒのトーマス教会・ニコライ教会で多忙に活動していた時期の作品と考えられます。複数の研究・目録(Bach-Digital、Bach Cantatas Website)では作曲年を1742年またはその前後としており、クリスマスのミサないし礼拝用に書かれたと推定されています。バッハは生涯を通じてラテン語ミサの一部やグロリア文を断続的に取り上げており、BWV191はその伝統の延長線上にある作品です。

楽器編成と演奏上の特徴

  • 祝祭的な金管群:3本のトランペットとティンパニを伴い、明朗で力強い音色を担います。
  • 木管・弦楽:オーボエ類や弦楽器(第1・第2ヴァイオリン、ヴィオラ、通奏低音)を含む典型的なバロック編成。
  • 声楽:混声合唱(SATB)と独唱者(ソロ)を配し、合唱と独唱が役割分担をしながらテキスト表現を行います。

この編成により、喜びと荘厳さを兼ね備えた音響的なコントラストが生まれます。金管は祝祭的ファンファーレやリトルネル的な合いの手を担い、弦と木管が対旋律や色彩的な伴奏を提供します。

テキストと典礼上の位置づけ

テキストは伝統的な「Gloria」のラテン語文を基礎にしています。キリスト教典礼におけるグロリアは、特にクリスマスや祭日のミサで歌われる賛歌で、「天にまします父に栄光あれ」といった神への賛美を歌う重要な部分です。BWV191はミサ全体ではなくこの「グロリア」部分を独立したコンサート的・礼拝的楽曲として成立させたもので、短縮された形やバラエティある分割によって、礼拝の場での実用性と芸術性を両立させています。

楽曲構成と音楽分析(概説)

BWV191は通奏低音に支えられた合唱的な展開と、ソロのアリア・二重唱によるテキスト解釈を交互に配した構成が一般的です。冒頭は大規模な合唱で始まり、ファンファーレ的なトランペットと弦のリトルネロが全体の枠組みを作ります。バッハ特有の対位法やフーガ的要素が随所に現れ、短いながらも密度の高い音楽語法が展開されます。

具体的には、以下のような柱が聴きどころです:

  • 冒頭合唱のリズム的・和声的推進力:トランペットの鋭いアクセントと合唱のポリフォニーが対比を作る。
  • 独唱パートでの即興的な装飾と感情表現:ソプラノやアルトなどのアリアでは旋律線の装飾が歌詞の意味を拡大する。
  • 合唱に戻る場面での総合的な終結感:合唱の締めでは「Gloria Patri(栄光は父と子と聖霊に)」といった伝統的な結びが用いられることが多い。

作曲技法とバッハの語法

BWV191には、バッハが慣用的に用いたパロディ技法(既存の自作や他曲の素材を再利用する手法)や、教会音楽で培った対位法的技術が反映されています。祝祭的な色彩を演出するためにトランペットの旋律はしばしばホモフォニックな力点を作り、合唱は対位法的な応答を行うことでテクスチュアの多層性を実現します。ハーモニー面では、明確な長調中心(多くはニ長調や変ロ長調に見られる)を基軸に、短調的色彩や副次的な半音進行を用いて表情を作っています。

史料とテキスト・版の扱い

現存する写本や版によって詳細な楽器指定や節回しが明らかになっています。IMSLPなどの公開資料や、Bach-Digitalに蓄積されたデジタルファクシミリを参照することで、バッハの筆致や後代の写譜者の変更点などを追跡できます。こうした史料研究は、現代の演奏解釈(テンポ、装飾、発音、ピッチ)に直接的な示唆を与えます。

上演・演奏上の論点

  • 合唱規模:近年の歴史的演奏実践(HIP)では小編成・人数限定で演奏されることが多い一方で、伝統的な大合唱での演奏も今なお人気です。作品の祝祭性を強めたい場合は大合唱とフル・トランペット群を用いる選択も有効です。
  • ピッチとテンポ:18世紀のオリジナル・ピッチ(A=415Hz等)を採るか現代ピッチ(A=440Hz)にするかで音色の印象は大きく変わります。トランペットとティンパニの合わせ方、バランス調整も重要です。
  • 装飾と即興性:独唱部の装飾は写譜にない即興的な装いが期待される場面もあるため、歌手と指揮者の判断で適度に取り入れると良いでしょう。

他作品との関連と位置づけ

バッハはグロリア文やキリエ文を部分的に扱った作品をいくつか残しています。BWV191はこれらの中でも比較的短いが際立った祝祭性を持つ作品で、ミサ曲やクリスマス・オラトリオの大作群とは異なる“小さなミサ的”作品として位置づけられます。学術的には、BWV191がバッハの宗教音楽の中で“晩年の洗練”を示す一例として注目されています。

録音・聴きどころのガイド

録音を選ぶ際は、編成(大合唱か小合唱か)、テンポ設定、トランペットやティンパニの音色を基準にするとよいでしょう。歴史的演奏慣習を重視する演奏(指揮:ネルソンス、レオンハルト系等)と、伝統的・ロマンティックな音色を取る演奏(大編成・現代ピッチ)の双方に魅力があります。いずれの場合も、冒頭合唱の対位法的な推進力と、独唱のフレージング表現を意識して聴くと作品の構造が見えてきます。

まとめ

BWV191「Gloria in excelsis Deo」は、短いながらもバッハの宗教音楽における祝祭表現が凝縮された作品です。トランペットやティンパニを含む祝祭的編成、対位法と和声の精緻さ、そして礼拝音楽としての実用性と芸術性の両立が本作の魅力です。演奏者にとっては編成・ピッチ・装飾といった実践的な判断が音楽の印象を左右しますし、聴衆にとっては冒頭の豪華さと独唱での人間的表情の対比がこの曲を印象深くします。

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参考文献