バッハ BWV 206『Schleicht, spielende Wellen(忍びよれ、たわむれる波よ)』徹底解説:成立背景・楽曲構成・聴きどころ
バッハ:BWV 206『Schleicht, spielende Wellen(忍びよれ、たわむれる波よ)』 — 概要と成立
『Schleicht, spielende Wellen(忍びよれ、たわむれる波よ)』BWV 206 は、ヨハン・ゼバスティアン・バッハが作曲した世俗カンタータの一つです。タイトルは第1曲の合唱の冒頭を取り、典型的な世俗カンタータの形式を取る曲として知られています。世俗カンタータ群(およそ BWV 201〜215 に含まれる作品群)は、宮廷や市の祝賀、誕生日や歓迎の場などのために書かれ、教会カンタータとは異なる自由さと劇的表現を持ち合わせています。
作曲年代や献呈先については複数の研究があり、一般には1730年代前半の作品とされますが、正確な成立年や初演の詳細については文献によって見解が分かれます(出典参照)。本文では楽曲そのものの構造、音楽的特徴、演奏についての考察を中心に解説します。
テキストとテーマ
本作のテキストは自然や擬人的な水のイメージを多用し、波や水のせせらぎを讃える詩的な語り口が特徴です。多くの世俗カンタータと同様に、アレゴリー的な人物(自然の精や擬人化された役割)が登場し、祝祭的な場面描写と個人的な感情表現が交互に現れます。テキストの作者(リブレッティスト)については確定していないが、当時バッハと協働した詩人が起用されることが多く、文献上の検討が続けられています。
編成と形式(概観)
BWV 206 は世俗カンタータとして、合唱と独唱(複数の独唱者が登場)と器楽伴奏を伴う典型的な編成をとります。通奏低音(チェンバロやオルガン+チェロ/コントラバス)と弦楽器を基盤とし、場面によっては木管や金管が用いられ、色彩的な対比が生まれます。合唱は場面の始まりや終結で大きな役割を果たし、独唱アリアやレチタティーヴォが内面的な表現を担います。
形式は概ね次のような流れを持ちます:合唱(序曲的機能を持つ)→レチタティーヴォ→アリア→(合唱または二重唱)→終曲合唱。劇性と祝祭性が混在するため、各楽章の表情付けが多彩で、同じ素材でも異なる楽器配置と短いレチタティーヴォで場面転換を行います。
音楽的特徴と聴きどころ
- 水の描写と器楽的イメージ:タイトルどおり、水や波の描写が音楽上の重要なモチーフとなっており、緩やかな6/8拍子や流れるようなパッセージ、反復されるリトルネッロによって「波の動き」が示されます。バロックの絵画的手法(音楽で情景を描く)をよく表しています。
- 対位法と合唱の扱い:バッハは世俗作品でも巧みな対位法を用い、合唱パートを物語の進行や祝祭的クライマックスに配置します。合唱は単なる背景ではなく、劇的・社会的な声として機能します。
- 特徴的なアリア:独唱アリアには器楽の独奏と密に結び付いたものが多く、オブリガート楽器(フルートやオーボエ、トランペットなど)の扱いによって人物像や感情が色付けされます。アリアのリトルネッロ構造、アリア内のダイナミクスは聴きどころです。
- コントラストと場面転換:レチタティーヴォを用いて語りが進み、それに対するアリアや合唱が感情や場面を反映します。これにより短い時間でドラマティックな効果が得られます。
楽曲の分析(聴きながら注目したい点)
第1曲の合唱は序曲的な性格を持ち、導入部で聴衆の注意を引きます。ここでは主題の提示と、楽器群によるテクスチャの提示が行われます。その後のレチタティーヴォでは語りが進み、アリアで個人の感情が展開される、という構成が繰り返されます。特にアリアにおけるオブリガート楽器と声部の掛け合い、リトルネッロの反復が楽曲の骨格を支えています。
バッハはしばしば短いモチーフを繰り返し発展させることで統一感を生み出します。BWV 206 においても水のモティーフやリズム的特徴が楽曲全体を通して変奏的に現れ、終曲では祝祭的にまとめられます。
演奏・解釈のポイント
- 音色と編成選択:原典に近い音色(古楽器)で演奏すると、水の描写や管弦楽の色彩が際立ちますが、モダン編成でも弦の扱いやテンポの工夫で同様の効果を出せます。
- テンポとアーティキュレーション:アリアごとにキャラクターが異なるため、一律のテンポ感を避け、語りの自然さを重視することが重要です。レチタティーヴォは台詞的に、アリアは詩情を大切に演奏します。
- 装飾と投影:歌唱では装飾(オルナメント)を適切に配し、感情のニュアンスを強調します。合唱では輪郭を明瞭に保ちつつ、バランスを取ることが求められます。
- 通奏低音の役割:通奏低音は和声進行とリズムの基盤を作るため演奏の芯になります。チェンバロやオルガンのレジストレーション(指使い、チェンバロの音色設計)は全体の印象に大きく影響します。
他の作品との比較・位置づけ
BWV 206 は、狩りを描いた BWV 208『Was mir behagt』などと並ぶ世俗カンタータの伝統の中に位置します。教会カンタータ同様に高度な対位法やアリア構成が見られる一方で、より軽妙で祝祭的な要素が強く、当時の宮廷祝典や市民祝賀にふさわしい音楽性を備えています。世俗カンタータ群はバッハの劇的表現や器楽的色彩感覚を知るうえで重要なレパートリーです。
録音とおすすめの聴き方
録音は歴史的演奏法(HIP)によるものとモダンオーケストラによるものがあり、どちらも別の魅力があります。HIP では軽やかなテンポと楽器色の対比が際立ち、モダン演奏では音色の豊かさとダイナミクスの幅が楽しめます。初めて聴く場合は、まず合唱の始まりから終曲までを通して曲全体の構造を掴み、その後で個々のアリアやレチタティーヴォに戻って細部を味わう聴き方をおすすめします。
史料・版の扱いと研究の現状
BWV 206 に関する史料(自筆譜、初版、写本)はバッハ研究のなかで検討されており、楽譜の版ごとの差異や編曲の有無が議論されることがあります。学術的には原典版(Neue Bach-Ausgabe など)や Bach Digital で公開されている情報を参照することが推奨されます。
まとめ:BWV 206 を聴く意味
『Schleicht, spielende Wellen』はバッハの世俗カンタータの魅力を端的に示す作品です。祝祭性と詩的描写、対位法的な精緻さが同居し、短い時間の中で多様な表情を見せます。音楽的には水の描写を通したイメージ形成、声と器楽の対話、そして合唱による社会的な声の提示が際立ちます。歴史的演奏法を含む複数の解釈を聴き比べることで、新たな発見が得られるでしょう。
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