バッハ BWV207a「響け、はれやかなラッパよ」:祝祭のトランペットが告げる喜びと構成の読み解き

バッハ:BWV207a「響け、はれやかなラッパよ」概説

BWV207a(ドイツ語標題は Auf, schmetternde Töne der muntern Trompeten、ここでは邦題を「響け、はれやかなラッパよ」として扱う)は、ヨハン・ゼバスティアン・バッハによる世俗カンタータの一曲で、祝祭的でトランペットを大々的に用いる点が特徴です。世俗カンタータは教会用カンタータと対照的に宮廷や市の祝宴・誕生日・戴冠などの儀礼的行事のために作曲されたもので、BWV207aもその系譜に属します。作品は華やかな管楽器と弦楽器の対比、合唱とソリストの掛け合い、そしてバロック・リトルネッロやアリアの形式を通じて祝典のムードを表出します。

史的背景と成立事情(概説)

BWV207aの成立年や初演の詳細には諸説がありますが、バッハがライプツィヒ在勤期に制作した世俗カンタータ群の一つとして扱われています。当時のドイツでは公的な祝祭や名誉をたたえる式典で、トランペットとティンパニが用いられることが恒例でした。バッハもこの伝統を踏襲し、祝祭の「音像」として金管群を効果的に配しています。なお、曲のテキスト(台本)や初演の具体的な受領者については確証が乏しく、現存する写譜や楽譜校訂版の注記に基づく研究が進められています(参照文献参照)。

編成と楽器法

  • 典型的な編成:トランペット(自然トランペット想定)2〜3本、ティンパニ、オーボエ(またはオーボエ・ダモーレ等の木管)、弦楽合奏、通奏低音(チェンバロ、オルガン、チェロ/コントラバス等)、独唱ソリスト複数、合唱。
  • 祝祭色の出し方:ナチュラルトランペット(バロック期の無ヴァルブ・トランペット)とティンパニの鋭いファンファーレは、序曲的な性格や合唱の切れ味を際立たせます。トランペットは王権や栄光、勝利といった象徴語と結びつきやすく、バッハはそれを音楽的に巧みに利用しています。

形式と主要な音楽的特徴

BWV207aは、典型的なバロック・カンタータの構成要素(序曲的楽器導入、独唱アリア、レチタティーヴォ、合唱)を備えます。以下は一般的な聴きどころです。

  • 序曲/開幕合唱:トランペットのファンファーレやリトルネッロによる短い導入を伴い、合唱が祝詞を力強く掲げます。リズムは明確で、しばしば対位法的な動きとホモフォニックな合唱が交互に現れることで劇的効果を生みます。
  • アリア群:ソロ・アリアでは器楽リトルネッロと歌唱パートの往復が顕著で、トランペットが入るアリアは虚勢的で華やか、木管や弦の伴奏が中心のアリアは内省的・叙情的な色彩を持ちます。バッハはアリアにおいてもダンス由来のリズム(メヌエット風や行進曲風など)を取り入れ、祝宴の多様な表情を描きます。
  • レチタティーヴォ:場面転換や語り部の役割を果たし、しばしば楽器的な伴奏が入るアコンパニエート・レチタティーヴォを用いて感情の強弱や語意の強調を実現します。
  • 終曲合唱:大合唱と管楽器が再び結集して祝典を締めくくります。トランペットの活用とコーラスの対位法的終結は、晴れやかな終結感を与えます。

作曲技法と表現の工夫

バッハは言葉と音楽の関係(テクスト設定)に常に注意を払いました。BWV207aでも、祝辞・賛美を表す語句に強いアクセントや跳躍を当て、トランペットや短いモティーフを通じて聴覚的にも“賛美の音”を示します。また、バロックの修辞学(レトリック)的な手法、すなわち〈アフェクト〉の操作—喜び、荘厳、期待—を旋律・和声・律動で可視化する点が見どころです。

さらに、バッハ固有の対位法的技巧も随所に散りばめられており、合唱の応答やソロ間の模倣は祝祭音楽ながら高度な作曲的締まりを与えています。器楽リトルネッロが形式を統括し、楽曲の統一性を保持する役割も重要です。

上演・演奏の実践的考察

演奏に際しては以下の点が鍵となります。

  • トランペットの扱い:歴史的奏法を踏まえたナチュラル・トランペットの使用は、音色とフレージングに当時の聴感を近づけます。一方、現代トランペットの使用は音量や表情の幅を広げる利点があり、編成やホール規模に応じて選択されます。
  • アンサンブルの規模:小編成(原典に近い合唱人数)での演奏は透明感を与え、各声部の対位法が明瞭になります。大編成は祝祭性を強調しますが、バランスに注意が必要です。
  • 装飾と語り口:アリアの装飾(装飾音やカデンツァ)は演奏者の裁量に委ねられる部分が多く、テキストの意味と音楽的流れに沿うように付与されるべきです。

楽曲の位置づけと研究上の論点

BWV207aはバッハの世俗カンタータの中で祝祭性の高い作品群に属し、同時代の儀礼音楽の一端を示します。研究上の関心点としては、初演の具体的状況(依頼者・日付)の特定、原典写譜と後世の写譜との異同、さらに同素材の再利用(パロディ)のあり方が挙げられます。バッハはしばしば自作の楽曲を他のテキストに当てはめ直すことで、効率的かつ効果的に新たな祝祭曲を生み出しました。BWV207aと他のカンタータとの類似点や転用の痕跡を調べることは、彼の作曲過程を理解する上で重要です。

聴きどころ(具体的な推奨ポイント)

  • 冒頭合唱のファンファーレとその後のコラール的部分の対比に注目すると、バッハの『劇性』と『秩序』の同居が感じられます。
  • トランペットが絡むアリアは、管楽の色彩と歌唱のリズム感の掛け合いが魅力。特にリズムのアイロニーや切迫感を聴き取ると愉しさが増します。
  • 抒情的なアリアやレチタティーヴォでは、語る声のニュアンスと器楽の対話を細かく追い、言葉の意味が音にどう反映されるかを確認してください。

現代の受容と録音に関して(簡略)

近年の歴史的演奏法ブームにより、ナチュラルトランペットや古楽器編成を採用する録音が増え、作品本来の色彩が再評価されています。演奏解釈は指揮者やアンサンブルにより多様であり、トランペットの音色・合唱規模・テンポ感などを比較することで新たな発見が得られるでしょう。

まとめ

BWV207a「響け、はれやかなラッパよ」は、祝祭を音で表現するバッハの手腕が凝縮された世俗カンタータです。トランペットと合唱の祝祭的結合、レトリックに基づく表現、対位法的技巧の同居がこの作品の魅力を成しています。初演の細部やテキスト作者など未解明の点も残るため、史料研究と演奏解釈の両面から今後も注目され続ける作品と言えるでしょう。

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参考文献