バッハ:BWV 545 前奏曲とフーガ ハ長調 — 構造・演奏・歴史を読み解く

概要:BWV 545とは何か

ヨハン・セバスティアン・バッハの「前奏曲とフーガ ハ長調 BWV 545」は、バッハのオルガン作品群の中でも明るく親しみやすい一組の作品です。典礼の中での使用や、コンサート・リサイタルでの聴衆受けを意識した、技巧と調和のバランスに優れた作品として知られています。前奏曲は快活なトッカータ風のフィギュレーションを含み、フーガは堅固で明晰な対位法を示します。

作曲時期と写本資料

BWV 545 の正確な作曲時期は明確ではありませんが、一般的にはライプツィヒ時代(1723年以降)、おおむね1720年代後半から1730年代の作品と考えられています。自筆譜(原筆の楽譜)は現存せず、複数の写譜資料や後代の写本を通じて伝わっています。現代の学術的な校訂(Neue Bach-Ausgabe など)やデジタル・カタログ(Bach Digital)では、これらの写本を照合して信頼できる版が提示されています。

楽曲構成の概観

  • 前奏曲(Preludium):明るく開放的なハ長調における即興風またはトッカータ風の楽想で始まります。分散和音、アルペッジョ、スケール的パッセージが左右の手およびペダルで交互に提示され、音色とリズムの多様性が駆使されます。
  • フーガ(Fuga):簡潔で覚えやすい主題に基づく対位法的展開が続きます。各声部が主題を受け渡しながら調の安定を保ち、中央部では調性を遠隔に動かす挿入部やエピソードによって表情の幅が生まれます。

前奏曲の詳細分析

前奏曲は一見すると自由で即興的ですが、内部には明確な構造とハーモニーの進行が存在します。序盤のモチーフは転回や順次進行によって多様に変形され、展開部では短いコデッタ的な導入からクライマックスへと向かう設計が読み取れます。和声は基本的に明るいトーナリティを保ちながら、属調への確実な導入と回帰を用いて聴衆に安心感を与えます。テンポ設定は作品の性格上速すぎないことが重要で、流麗さと対位の明瞭さを両立させる速さが望ましいでしょう。

フーガの詳細分析

フーガは明瞭で記憶に残る主題から始まり、各声部が順次応答する基本的なフーガ構造を踏襲します。主題は比較的短く、バッハらしい対位法的展開(転調的エピソード、 stretto、模倣の連続)を通して多彩に展開されます。中間部では主題の断片を素材としたシーケンスや、対位法的な装飾が用いられ、最終部分では主題の力強い再現と和声的な総括によって締めくくられます。作品全体を通じて、歌うような旋律性と厳格な対位法が高い次元で両立しています。

演奏上の実践・登録(レジストレーション)

  • 前奏曲:明るく開放的な音色が望まれるため、主にプンパ(principal)主体の登録が適しています。8′主体に4′や2′を加え、箔付けとして低音にリード系(8′トランペットなど)を軽く使用する場合もありますが、バランスを崩さないことが重要です。
  • フーガ:対位法の明瞭さを優先し、各声部が聞こえるようにすること。ソロ的な声部にはやや明確な色合い(8′や4′)を与え、合の部分ではフル・オルガン的な登録でダイナミックな締めを作る手法が一般的です。
  • テンポとアーティキュレーション:フーガでは声部の輪郭を出すために若干のアーティキュレーション(短めの接続)を用いることが多い。前奏曲では流れる表情を保ちつつも音の重なりを明確にするため、手と足の独立性が鍵となります。

歴史的・音楽的意義

BWV 545 は、教会音楽の機能と演奏会用作品の中間に位置するような性質をもちます。即興性と規範的フーガの融合は、バッハが持っていた様式横断的な統合力を示しています。演奏史においても、多くの名手が取り上げており、教会の礼拝空間における荘厳さだけでなく、サロンやリサイタルでの聴衆への親和性も高い作品です。

代表的な録音・演奏例

  • ヘルムート・ワルヒャ(Helmut Walcha) — バロック・オルガン解釈の古典的名盤。歴史的演奏慣習への配慮が学べます。
  • マリー=クレール・アラン(Marie-Claire Alain) — 明晰で優雅な演奏は対位法の輪郭を際立たせます。
  • トン・コープマン(Ton Koopman)やハインリッヒ・トーマスなどの現代的解釈 — レジストレーションとテンポの選択が多様で、音色の可能性を再発見できます。

楽譜と版について

BWV 545 の信頼できる校訂版としては Neue Bach-Ausgabe(新バッハ全集)の版が学術的に推奨されます。また、公共領域の写譜を集めた IMSLP などでも複数の版が閲覧可能です。演奏者は使用する楽器の特性に応じて版を比較し、奏法注記やペダル記号、装飾の扱いなどを慎重に判断することが望ましいです。

練習のための実践的アドバイス

  • 声部練習:フーガの各声部を別々に練習し、声部ごとのフレージングを明確にしてから合わせる。
  • テンポの決定:前奏曲は流れを保ちつつ対位を犠牲にしない速度を探る。フーガは主題が明瞭に聞こえる速さを優先。
  • ペダルワーク:独立性を養うために、手と足のパートを分けて遅いテンポで繰り返す練習を取り入れる。
  • 音色設計:演奏するオルガンのストップ編成に応じて、冒頭から終結までの音色の変化をプランニングする。

聴きどころと楽しみ方

初めて聴く人は、前奏曲の明るい色彩と華やかなパッセージの心地よさをまず味わってください。フーガでは主題がどの声部に現れるか、応答や模倣がどのように組み合わさっているかに耳を澄ますと、バッハの対位法的工夫の妙がより深く理解できます。録音や異なる楽器での演奏を比較することで、解釈の幅と作品の多面性に気づくでしょう。

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参考文献