バッハ:BWV551 前奏曲とフーガ イ短調 — 構造・奏法・演奏史を深掘り
概要:BWV 551 とは何か
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685–1750)の〈前奏曲とフーガ イ短調 BWV 551〉は、バッハのオルガン作品群のなかでしばしば取り上げられる小品のひとつです。BWV(Bach-Werke-Verzeichnis)目録で番号付けされており、典型的な前奏曲とフーガの組み合わせで構成されています。作曲時期や起源については諸説ありますが、いずれにせよバッハの対位法の手腕とオルガン奏法を反映する作品です。
楽曲の構成と音楽的特徴:前奏曲(Prelude)
前奏曲は即興風の導入部的性格をもち、右手と左手、それに足鍵盤(ペダル)を活かした多声的なテクスチャが特徴です。冒頭は流れるような連続音型や分散和音を用い、音型の反復と変形によって緊張を作ります。和声は古典的な機能和声の枠組みを維持しつつ、バッハ特有の転調や短いシーケンス(動機の順次進行)を通じて色彩を変えていきます。
演奏上のポイントは、フレージングの明確化と声部のバランスです。分散した音形のなかで主要旋律線(歌わせるべき声部)を浮かび上がらせること、またペダルは伴奏的であると同時に低音線の輪郭を示す役割を担います。装飾(トリルやスリーガー)の扱いは原典(写本や版)に基づいて控えめにし、バロック的な発想で音楽的に配置するのが一般的です。
構成と音楽的特徴:フーガ(Fugue)
フーガは明確な主題(テーマ)とその対位法的展開から成ります。主題は短めで抒情性よりは構造性を重視した形を取り、主題の提示(提示部)に続いて回答や対旋律(カウンターサブジェクト)が絡み合い、展開部では転調やエピソード(断片的動機の展開)を通して材料が多角的に扱われます。
BWV 551 のフーガでは、各声部によるエントリー(提示)が明快に配置され、ストレッタや逆行的な扱いなどバッハの対位法的技巧が随所に見られます。テンポ設定は過度に速くすると対位の輪郭が失われるため、音型の明瞭さを保てる範囲での適度なテンポが望まれます。
和声と調性の扱い
イ短調というキーはバロック期において悲壮感や厳粛さを表現するのに適しており、短調の表情と機能和声の推移が本作の情感を支えています。序盤のモチーフからフーガの主題へと引き継がれる際、モチーフの細分化や調の転換が音楽的な展開を生みます。バッハは短い動機を徹底的に変形して多様な和声進行を導き出すことで、単純な主題に豊かな表情を与えます。
演奏実践(登録・奏法・解釈)
- 登録(ストップ選択):歴史的楽器(チェンバロ型オルガン)を想定する場合は明るめのフルート系+柔らかいリードのバランスを、近代的コンサートオルガンでは中低音のリードを豊かに使って陰影を作るのが一般的です。前奏曲では分散和音をクリアに出すためにソロ系のストップを活用し、フーガでは対位の輪郭を保つレジストレーションを選びます。
- テンポとアゴーギク:バロック的軽快さを保ちつつ、対位感を損なわないテンポが重要です。前奏曲はやや自由なテンポ感(rubatoは控えめ)で表情を作り、フーガは一定の推進力を持って進めるのが効果的です。
- ペダリング:足鍵盤は低音の輪郭とフーガの独立声部を支えます。明確な指使いと滑らかなレガートの両立、特に速い音形では足の独立性が求められます。
写本・版およびテクスト批判の問題
バッハの作品には写本や初版の差異がしばしば見られ、BWV 551 においても異版の存在が演奏解釈に影響を与えます。原典に忠実な演奏を志向する場合は、信頼できる校訂(批判校訂)に基づくスコアを参照することが推奨されます。近年の演奏や研究はオリジナルの写譜のニュアンスや写譜家の書き込みを重視する傾向にあります。
演奏史と代表的録音
20世紀以降、近代的オルガンと歴史的奏法の両面で多くの名演が残されています。ヘルムート・ヴァルヒャ(Helmut Walcha)、マリー=クレール・アラン(Marie-Claire Alain)、トン・クープマン(Ton Koopman)など、バッハオルガン曲を録音した著名奏者による演奏は、解釈の多様性を示しています。歴史的音色を重視した演奏と、近代的な音響を活かした演奏の双方にそれぞれの魅力があります。
聴きどころと分析的聴取法
- モチーフの追跡:前奏曲で現れる短いモチーフがどのようにフーガで再利用・変形されるかを追うと、バッハの連続的発展手法が見える。
- 声部の独立性:各声部がどのように対話し、時に重なり合い、時に独立するかを意識して聴くと、対位法の精密さが浮かび上がる。
- ハーモニーの転換点:転調やシーケンスによる緊張と解放の箇所を特定して、楽曲全体の構造を視覚化して聴くと理解が深まる。
結び:BWV 551 が教えてくれること
BWV 551 は規模こそ大作ほどではないものの、バッハの対位法的発想、オルガンという楽器特性を活かした音響設計、そして短い素材を徹底的に展開する手法を凝縮して示す作品です。演奏者にとってはテクニックと音楽性を同時に問われる佳作であり、聴衆にとっては緊密な構造美と深い表情を味わえる作品です。
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参考文献
- Bach Digital — Das Bach-Archiv Leipzig
- IMSLP: Prelude and Fugue in A minor, BWV 551 (score)
- Wikipedia: Prelude and Fugue in A minor, BWV 551
- Oxford Music Online (Grove Music Online)
- Bach Cantatas Website — 解説・録音一覧
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