バッハ BWV562 幻想曲とフーガ ハ短調 — 構造・成立・演奏ガイド
「幻想曲とフーガ ハ短調 BWV 562」とは
J.S.バッハの作品番号BWV 562は、オルガンのための「幻想曲とフーガ ハ短調」です。一般的にはバロック期の教会オルガンレパートリーに位置づけられ、幻想曲(Fantasia)は即興風の自由な書法、フーガ(Fugue)は対位法的な技巧を示す二部構成となっています。作品の成立年代や写譜の来歴については不確定な点が残っており、現存資料の様式的分析や版の比較を通して研究が続けられています。
成立と写譜史の概要
BWV 562については、自筆譜(自筆による原稿)が知られていないため、成立時期や成立事情の確定には写譜群や他の作品との様式比較が用いられます。写譜の筆跡や用字法、和声の扱いから推定される成立年代は諸説ありますが、一般にはライプツィヒ在任期以降の成熟期に近いとされる見解が多く、18世紀中葉(1720年代後半から1740年代)の作と見なす研究者もいます。主要な資料は写譜および後世の版で、今日の演奏はこれらの校訂版や現代譜を基に行われています(参考文献参照)。
幻想曲の特徴と分析
幻想曲は名前が示す通り即興空間を思わせる自由な書きぶりで、左手・右手(手鍵盤)と足鍵盤(ペダル)とのやり取り、響きの変化、和声的な配列に重点が置かれています。冒頭はしばしば自由律的なモチーフで始まり、装飾的な走句や和音連結が続きます。バッハ自身が好んだ増四度・減五度や持続低音に対する変化和音、転調の短いエピソードが幻想曲には見られ、聴き手に即興的で瞑想的な印象を与えます。
楽曲内部では短い動機が繰り返し変形され、ペダルが独立した声部として機能する場面と、手鍵盤による和声的支柱が目立つ場面が交互に現れます。和声面ではハ短調という調性の張りつめた響きと、近親調へ移ることで生じる色彩のコントラストが巧みに用いられています。装飾やアーティキュレーションの選択は演奏者の解釈に委ねられる部分が大きく、歴史的演奏慣習(オーガニストの指示や写譜上の符頭など)を参照して決定されます。
フーガの構造と対位法
フーガ部分は主題(テーマ)を中心に展開する厳格な対位法の場面です。主題は短く印象的で、ハ短調の調性をしっかりと示す輪郭を持ち、主調・属調・関連調を経由して模範的な展開をたどります。バッハのフーガに共通する要素として、主題の転回、模倣、ストレッティ(主題の前後重なり)などが用いられ、対位法的技巧が随所に見られます。
エピソード部では主題の断片がシーケンス的に展開し、和声的転換やテクスチャの変化をもたらします。クライマックスに向けては主題の再現やストレッティが増し、最終的に堅固な終止へと収束します。フーガの完成度は対位法的構成力と和声の統一性にあり、BWV 562でもそうしたバッハの技巧が聴き取れます。
演奏・解釈上の留意点
- 楽器の選択と登録(レジストレーション):オルガンの音色やストップの選択は楽曲の性格を決めます。幻想曲では柔らかい合奏音やレジスターの切り替えを用いて即興感を出し、フーガでは明瞭な声部分離ができる登録が好まれます。
- テンポとリズム:幻想曲部分は自由度が高く、呼吸感を感じさせるテンポ変化が効果的です。フーガは通常明確な拍を保ちつつも、フレージングで呼吸を取ることが重要です。
- ペダルの扱い:バッハのオルガン作品ではペダルが独立した声部として重要です。近現代の大規模オルガンと18世紀の教会オルガンではペダルの音量やアクションが異なるため、演奏者は楽器特性に応じたペダリングを工夫する必要があります。
- 装飾とフレージング:装飾音やトリルの処理は写譜上の指示と時代慣習を参照しつつ、音楽の流れを損なわないように行います。
版と校訂の問題
BWV 562は自筆譜が確認できないため、写譜間の異同や後世の加筆・訂正の有無が校訂上の重要な問題となります。現代の演奏や研究はBach Digitalなどのデータベース、IMSLP上の写本画像、さらに主要な楽譜出版社が出す校訂版を照合して行われます。演奏者は版によりフレージングや和声の解釈が変わることを念頭に置き、可能であれば一次資料や信頼できる校訂の注記を確認することが望ましいです。
歴史的・音楽的意義
BWV 562はバッハのオルガン作品群のなかで、幻想曲とフーガという伝統的な対比を示しつつ、作曲者の対位法的能力と即興的表現を同時に味わわせる作品です。教会音楽の枠組みのなかで実用的に用いられた可能性が高く、礼拝あるいは宗教行事の中で説教前後の緩急をつける役割を果たしたと考えられます。また、演奏と研究を通じてバッハの作曲語法や18世紀ドイツのオルガン文化を学ぶ格好の素材となっています。
現代の演奏・録音に向けての提案
演奏者はまず使用するオルガンの音色特性を把握し、幻想曲の即興性とフーガの規範性という二面性をどのように対比させるかを設計すると良いでしょう。幻想曲では呼吸感とレジスターの変化、フーガでは声部の輪郭と対位法的な明瞭さを重視します。録音を行う場合は教会の残響時間とマイク配置にも注意し、テクスチャの明瞭さを損なわない収録が求められます。
まとめ
BWV 562 幻想曲とフーガ ハ短調は、バッハのオルガン作品の中で即興性と対位法的技巧が結びついた魅力ある作品です。成立に関する不確定要素は残るものの、写譜や校訂版を通じて現代に伝わる音楽は、演奏者と聴衆の双方に多層的な聴取体験を提供します。史的資料の照合と演奏実践の積み重ねが、この作品の理解をさらに深めることでしょう。
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参考文献
- Bach Digital - Work BWV 562
- IMSLP - Fantasia and Fugue in C minor, BWV 562 (scores and sources)
- Bach Cantatas Website(バッハ作品総覧・参考記事)
- Wikipedia - Fantasia and Fugue in C minor, BWV 562(参考情報)
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