バッハ BWV 990「サラバンドと変奏 ハ長調」徹底ガイド:作品の来歴・構造・演奏解釈とおすすめ録音
概要:BWV 990とは何か
BWV 990「サラバンドと変奏 ハ長調(Sarabande and Variations in C major)」は、ゆったりとした舞曲サラバンドを主題に、その主題をもとに数の変奏を展開する鍵盤用の小品です。形式的には主題と変奏(変奏曲)に属し、19世紀以降の版や現代の録音で取り上げられることが増えています。作品番号BWV 990はバッハ作品目録(Bach-Werke-Verzeichnis)内で扱われますが、現代の研究では作品帰属や写本の由来について議論が残っている点もあります。本文では楽曲の音楽的特徴、構造分析、演奏上の留意点、編曲・楽器による違い、代表的録音と参考資料をできる限り網羅的に解説します。
来歴と写譜・帰属問題
BWV 990に関しては、公刊初出や初期写本の詳細な伝来が限定的で、帰属に関する慎重な検討が行われてきました。バッハの周辺で流通した写本群に含まれることがあるため、バッハ自身の作とする意見と、弟子や同時代の鍵盤作曲家による模倣・編曲の可能性を指摘する見解が共存します。こうした状況は小品群にしばしば見られ、作品そのものを音楽的に分析することで時代様式との整合性を論じるアプローチが有効です。
形式と構造の概観
楽曲は典型的な「サラバンド(低テンポの三拍子舞曲)+変奏」の形式をとります。以下は大まかな構成の例示です(版によって細部は異なります)。
- 主題(サラバンド)— 落ち着いた三拍子の拍節感、特徴的な和声進行、しばしば装飾音(アグレマン)が施される。
- 変奏I — 主題の伴奏形やリズムを変えたもの。
- 変奏II — 対位法的・装飾的展開(右手の装飾が増える等)。
- 変奏III以降 — 和声的拡張、テンポ感の微妙な変化、音域の拡大などでコントラストを作る。
変奏曲としての魅力は、主題の和声的骨格を保ちながら、表情・テクスチュア・対位法を巧みに変化させるところにあります。各変奏は独立した小品としても聴ける設計が多く、全体で一つのドラマを形成します。
和声・対位法・リズムの特色
BWV 990では、バロック期の前例に従ってサラバンドの典型的和声進行(属和音へ向かう動き、短七度・ベースの進行など)が見られます。同時に、変奏部では短調へのモーダルな転換や、経過和音(passing chords)・代理和音の利用によって、和声的な色彩が豊かに変化します。対位法的な工夫としては、主題の分散や逆行・模倣を用いた短いフーガ的処理が散見され、変奏の一部が小規模な二声あるいは三声の対位進行に拡張されます。
リズム面では、サラバンドの特徴である第二拍の弱アクセント感(半強半弱の揺れ)をいかに表現するかが重要です。変奏においては、右手の装飾的動機によって拍感が揺らぎ、結果として緊張と緩和が生じます。演奏者は拍子感を失わずに装飾や語り口を細やかにコントロールする必要があります。
演奏上の解釈ポイント
演奏解釈には次のような点が重要です。
- テンポ設定:サラバンド本来の重心を保ちながら、変奏ごとにテンポ感の微調整を行う(遅くする・軽くする等)。急激なテンポ変化は避けるが、表情的な揺らぎは有効。
- アーティキュレーションと装飾:バロックアグレマン(装飾音)の意図を読み取り、自然な発声で提示する。装飾は形式を損なわない範囲で自由度を持たせる。
- 声部バランス:変奏では対位法的な要素が強まるため、内声の独立性を保ちつつ主題の輪郭を常に明示する。
- ペダリング(チェンバロ・古楽器の奏法):チェンバロやフォルテピアノではペダルは使わない。現代ピアノで演奏する際は、残響をコントロールするために最小限のペダルと明確なタッチを用いる。
楽器と編曲の可能性
原典写譜が鍵盤用であるならば、チェンバロやクラヴィコード、フォルテピアノが本来的な音色を提供します。ただし、現代ピアノでの演奏も広く行われており、それぞれに魅力があります。チェロやギターなどへの編曲も存在し、特にギター編曲ではサラバンドの舞曲的な重心が親和性を持つことが多いです。
編曲・復元にあたっては、原典に見られない和声や装飾を現代的に補う誘惑がありますが、様式感を損なわない範囲での補完にとどめることが推奨されます。楽器ごとにタッチや音色が異なるため、同じ楽曲でも表情は大きく変わります。
比較演奏と代表的録音
BWV 990は比較的マイナーな曲ながら、次のようなアプローチの録音が参考になります(ここでは方向性を示します)。
- チェンバロによる演奏:装飾を控えめに、バロック的な発音と軽快なタッチで主題の明瞭さを出す。
- フォルテピアノ・クラヴィコード:柔らかな動的幅と繊細なニュアンスで内的な表情を引き出す。
- 現代ピアノ:サステインや色彩の豊かさを活かして叙情性を強調する。ただし装飾は過度にならないよう注意する。
- ギター・アレンジ:音色と左手の和声感で舞曲性を別の角度から提示する。
録音を選ぶ際は、演奏楽器・装飾の度合い・テンポ感の違いに注目して、自分が求める音楽的解釈を提示している盤を選ぶと学習効果が高いです。
スコアと校訂版
原典にあたれる場合は原典版(原典版批判校訂)や信頼できる校訂版を参照することが最善です。写譜に差異がある箇所は演奏者自身が判断する必要があり、複数版を照合することで作曲当時の演奏慣習に近づけます。チェンバロ奏者やバロック鍵盤専門家による注釈付きの版は、装飾や演奏上の実践的助言が得られるため有用です。
学術的・音楽学的観点からの読み解き
BWV 990のような小品は、バロック期の実践と様式を学ぶための格好の教材です。主題と変奏の関係性、和声進行の典型性、対位的展開の技法などを通じて、バッハ(あるいはバロック作曲法)の細部が観察できます。作曲帰属が議論される場合でも、音楽そのものの価値は変わらず、当時の演奏慣習や即興性の痕跡を読み取る材料となります。
演奏家への実践的アドバイス
- まずは無装飾で主題の輪郭を確立し、次に変奏ごとにどの要素を強調するか計画する。
- テンポは楽曲全体の統一感を損なわない範囲で変化させ、各変奏の性格づけに使う。
- 装飾は楽語や写譜の示す範囲で優先順位をつけ、最も歌わせたい声部に装飾の重心を置く。
- 録音を参考にする場合は、演奏者による様式的解釈の差を比較材料にする。
結び:BWV 990を聴く/弾く意義
BWV 990は短めながら内容が濃く、サラバンドという舞曲の内面性を掘り下げるとともに、変奏技法の豊かさを示す好例です。帰属問題があっても、作品を通じてバロック鍵盤音楽の文法を学び、演奏表現の幅を広げることができます。チェンバロやフォルテピアノで原色的に、あるいは現代ピアノで叙情的に演奏することで、それぞれ異なる魅力を発見できるでしょう。
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参考文献
- IMSLP: Sarabande and Variations, BWV 990
- Bach Digital(バッハ・デジタル)
- Grove Music Online / Oxford Music Online(記事:J.S. Bach)
- David Schulenberg, The Keyboard Music of J. S. Bach(Cambridge Univ. Press)
- Christoph Wolff: Johann Sebastian Bach に関する著作・研究紹介
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