バッハ「BWV1000」フーガ(ト短調)徹底解説 — 作曲背景・構造・演奏のポイントとおすすめ録音
イントロダクション — BWV1000とは何か
BWV1000 はヨハン・ゼバスティアン・バッハに帰される「フーガ ト短調」の作品番号です。短いながら緊密に作られた対位法作品で、リュート(またはリュート=ハープシコード〔lautenwerk〕、鍵盤楽器)用に伝わる編曲が存在することから、どの楽器で演奏されるべきかについて議論が続いています。演奏時間はおおむね2〜4分程度で、単一のフーガ主題を展開するコンパクトな構成が特徴です。
作曲年代と史的背景
作曲の正確な年代は不明ですが、バッハのリュート(系)作品群が形を成した18世紀前半に位置づけられるのが妥当です。BWV1000 は、バッハの作品目録(BWV)においてリュート関係の作品群と近接して並べられており、同時代の手稿や版によって断片的に伝わっています。原典がどの楽器向けに書かれたか、直接バッハ自身の筆跡によるものかどうかなど、写本史料の解釈により議論がある点は押さえておくべき事実です。しかし、対位法の語法や和声進行、主題の扱いから多くの研究者はJ.S.バッハ作と考えています。
写本と成立形態(注意事項)
BWV1000 は複数の写本や版で伝わり、そのうちのいくつかはリュート用のタブラチュア形式で残されています。タブラチュアには和声や声部分離の仕方に関する情報が限られるため、現代の楽譜では編曲者や校訂者が復元的に声部を割り当てています。したがって、今日耳にする版や録音には解釈の幅があることを理解しておくとよいでしょう。
楽曲の構造的特徴
BWV1000 は単一の主題(テーマ)を中心に構築されたフーガで、主題はト短調という調性感を明確に打ち出します。以下の点に注目すると、形式や対位法の醍醐味が分かりやすくなります。
- 主題の形態:短く明瞭な主題が提示され、続く声部の応答(回答)は主題の断片や対旋律を伴って入ります。
- 声部の扱い:リュート的な音響を考慮した、内声を含む密なポリフォニー。原典の表記により声部数は限定されるが、編曲・復元版では3声または4声的に扱われることが多い。
- 展開(エピソード):主題の断片や順次進行、転調を用いて音楽が前進する。調性は近親調(属調・同主調・平行長調など)を経て戻ることが多い。
- 対位法技巧:逆行や転調、掛け合い(ストレートやストレートに近い形)を用いて主題を多様に扱う。
和声と調性の扱い
ト短調という短調的な基調は、バッハ特有の転調と和声語法で豊かに色づけられます。短調の暗さと、それに対する短期間の長調的響き(例:変ロ長調=同主調の長調など)を行き来することで、情緒の幅が出ます。和声進行としては、バッハらしい第五圏進行や二次ドミナント的進行、装飾的な半音進行が場面を転換する手段として現れます。
演奏上のポイント(リュート/リュート=ハープシコード/ギター)
BWV1000 は楽器選択によって響きとアーティキュレーションが大きく変わります。演奏上の主要なポイントは次の通りです。
- 楽器選択:リュート用に伝わる写本があるため、歴史的にはリュートやリュート=ハープシコードでの演奏が妥当とされますが、近代ギターやチェンバロ、鍵盤用編曲で演奏されることも多いです。各楽器で音の持続や音色が違うため、和声の明瞭さや装飾のつけ方は変わります。
- テンポと語り口:フーガの本質は主題の明瞭さと声部間の対話です。速すぎず遅すぎず、主題の輪郭が常に聞こえるテンポを選ぶことが大切です。
- 装飾と実行:タブラチュアや原典に細かな装飾記号がない場合、当該様式(バロック装飾法)を踏まえて適切な上拍・下拍の装飾を選びます。過度なロマンティックなルバートや遅延は避け、対位法の透明性を損なわないようにするのが基本です。
- 声部のバランス:リュートでは多声が同一手で鳴るため、どの音を持ち上げて主題やカウンターテーマを際立たせるかを工夫します。鍵盤編曲では手の配分で声部を分ける工夫が必要です。
版と録音の選び方
現代にはいくつかの校訂版があり、演奏者は自分の楽器と解釈に合った版を選ぶとよいでしょう。古典的な編集者の校訂や、歴史的奏法を強く意識した近年の演奏解釈のどちらを採るかで録音の色合いは変わります。おすすめの演奏家としては、リュート/古楽系の巨匠であるポール・オデット(Paul O'Dette)、ホプキンソン・スミス(Hopkinson Smith)、またクラシックギター界からの名演であるジュリアン・ブリーム(Julian Bream)など、バッハのリュート作品を多く録音している奏者の解釈を比較して聴くと理解が深まります。
聴きどころ(リスニングガイド)
BWV1000 を聴く際は、次の点に注目してみてください。
- 主題が提示される瞬間:音型の輪郭とリズムの特徴をつかんでください。主題の開始音や動機が曲全体を牽引します。
- 声部の応答(回答):主題が別の声部で現れたときの位相関係(オクターブ、五度、短調→長調の転換など)に注目すると、作曲技法の巧妙さがわかります。
- エピソードの役割:主題が現れない部分ではどのように音楽が推移しているか、和声的な流れやモチーフの断片化を聴き取ってください。
- 終結部:最終的に主題はどのように総括されるかを聴くことで、バッハの締めくくりの技法を理解できます。
作品の音楽史的意義
短い作品でありながら、BWV1000 はバッハの対位法技能を凝縮して示す典型例です。器楽的制約のあるリュートのために書かれた(あるいは編曲された)ことで、鍵盤作品とは異なる音色とアーティキュレーションの観点からバッハの音楽が再解釈される契機を与えています。また、この作品を通してバッハが小規模なフーガの中でいかに主題を多面的に扱ったかを学ぶことができます。
実践的なおすすめ
- 初めて聴く人は、複数の録音(リュート、リュート=ハープシコード、ギター)を比較して、楽器による表情の違いを確認してください。
- 演奏を目指す場合は、まず主題の輪郭と内声の流れを声に出して歌えるようにすること。歌えるフレーズは指で弾く際に自然なフレージングにつながります。
- タブラチュア版とスタッフ譜の差異に注意し、校訂者の注記をよく確認すること。
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参考文献
- IMSLP: Fugue in G minor, BWV 1000 (Bach, Johann Sebastian)
- Bach Digital(バッハ関連の総合データベース)
- Bach Cantatas Website(バッハ作品・奏者情報のデータベース)
- Naxos(録音解説や奏者情報の検索に便利)


