バッハ BWV1034 フルートと通奏低音のためのソナタ第2番 ホ短調 — 楽曲解説と演奏ガイド
序文 — BWV1034の魅力
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685–1750)の『フルートと通奏低音のためのソナタ第2番 ホ短調 BWV1034』は、繊細な抒情性と厳格な構成が同居する小品で、バロック期のフルート作品の中でも高い人気を誇ります。本コラムでは、史的背景、楽曲構成・分析、演奏上のポイント、代表的な録音や楽譜事情までを詳しく解説します。読者が演奏・聴取どちらの立場でも深く楽しめるよう、音楽学的な視点と実践的なアドバイスを併せて提供します。
歴史的背景と成立について
BWV1034は属する一連のフルートソナタと同様に、原典の自筆譜は現存せず、18世紀の筆写譜に依存して伝えられています。成立年代は明確ではないものの、一般に1720年代前半から1730年代にかけて成立したと考えられ、コーテン(Cöthen)期からライプツィヒ初期にかけての創作群と関連づけられることが多いです。形式的には、教会ソナタ(sonata da chiesa)に典型的な「遅–速–遅–速(Largo/Adagio – Allegro – Siciliano – Allegro)」の4楽章構成をとり、対位法的な技巧と旋律的な抒情が併存します。
楽器編成と演奏媒体
指定楽器は横吹フルート(バロック・トラヴェルソ)と通奏低音です。通奏低音はハープシコード(チェンバロ)による和声的充填と、チェロやヴィオラ・ダ・ガンバなどの低音弦楽器による実旋律を組み合わせるのが通例です。歴史的演奏実践(HIP)ではA=415Hz付近の低めのピッチやバロックフルートを用いることが多く、モダン・フルートで演奏する場合も装飾や発音の扱いをバロックの語法に近づける配慮が求められます。
楽章ごとの概観と分析
- 第1楽章:Adagio ma non tanto(ホ短調)
落ち着いた序奏的性格を持つ緩徐楽章。フルートは歌うような横方向の旋律線を展開し、通奏低音は和声進行を明確に支えます。特徴的なのは細かな装飾や感情の持続表現で、短いモティーフが繰り返される中で微妙な内声の動きや和声の転回が聴かれます。旋律はバロック的な呼吸点(フレージング)を強調して扱うと、自然な語りが出ます。
- 第2楽章:Allegro(ホ短調)
躍動感のある速い楽章で、しばしば対位法的・模倣的手法が目立ちます。フルートと通奏低音の対話が活発で、短い動機が発展して行きます。バロックの舞曲リズムではないものの明瞭な拍節感を保ちつつ、アクセントの置き方やテヌートの使い方で句を作ることが、演奏表現上重要です。
- 第3楽章:Siciliano(ホ短調)
典型的なシチリアーナ(6/8または12/8の緩やかな三連系)による牧歌的で抒情的な楽章。点描的なリズムと抱擁的なハーモニーが特徴で、しばしば最も情感豊かな場面とされます。旋律の伸ばし方、ポルタメントに近い微妙なニュアンス、装飾音の扱いが曲の雰囲気を決定づけます。
- 第4楽章:Allegro(ホ短調→終結)
軽快で快活な終楽章。バロックのソナタ終楽章らしく、リズミックな推進力と対位的な遊びがあり、作品全体のバランスを締めくくります。緩急の対比や、主題の反復・変形を明確にすることで、聴衆に印象的な結末を提供できます。
和声と言語的特徴
ホ短調という調性はバロック時代ではしばしば陰鬱さや内省性を表すとされ、BWV1034でもそのような情緒が各楽章に共通して見られます。和声進行には通俗的な属–下属の巡航だけでなく、副次的調性への短い逸脱や、短調独特の悲嘆的響きを引き出すための和声的色彩(第6度や第7度の用法)が巧妙に使われています。また、短いフレーズの反復や動機の断片化による有機的成長も作曲技法の特徴です。
演奏上の実践的アドバイス
- 楽器とチューニング:可能ならバロック・トラヴェルソとA=415Hzで演奏すると、音色とバランスが原典に近くなります。モダン・フルート使用時は明瞭なアーティキュレーションを心がける。
- 通奏低音の実践:ハープシコードは和声的輪郭を、チェロ等は旋律的輪郭を担う。フィガラトゥーラ(数字記号)を尊重しつつ、モダン的補強は過度にならないように。
- テンポと語り:第1・第3楽章は呼吸を意識したフレージング、第2・第4楽章は推進感を重視。装飾は楽句に応じて個別に選び、バロックの慣習(短いトリル、倒装)を反映させる。
- ダイナミクスと表現:バロック期のダイナミクス表記は限定的だが、対位法の聞かせどころやテクスチュアの変化で自然なクレシェンド/ディミヌエンドを作る。
版と楽譜の事情
自筆譜が残らないため、現代の楽譜は18世紀筆写譜や研究版に基づきます。代表的な校訂版としてはバッハ全集(Neue Bach-Ausgabe: NBA)の版や、バロック演奏向けのUrtext版が使用されます。演奏者は複数版を照合し、フィガラトゥーラの扱いや装飾の差を確認して解釈を決めると良いでしょう。
代表的な録音と演奏解釈の比較
邦・欧・米の名だたるフルーティストが本作品を録音しており、解釈はHIP寄りのものからモダン楽器でのロマン的表現に近いものまで幅広いです。例えばバロック・フルートを用いた演奏は軽やかで透明な対話を聞かせ、モダン・フルートでは音色の豊かさで遅楽章の歌を強調する傾向があります。録音を聴き比べることで、テンポ、装飾、通奏低音の役割に関する多様な選択を学べます。
まとめ — なぜBWV1034を学ぶべきか
BWV1034は短いながらもバッハの対位法的手腕、旋律的抒情、そして演奏者の解釈によって多様に姿を変える楽曲です。フルート奏者にとっては発音・フレージング・装飾の基礎を鍛える良い教材であり、聴衆にとってはバロック音楽の深さと親密さを直に体験できる代表作です。楽譜の読み込みと複数録音の比較、歴史的な演奏慣習の理解を組み合わせることで、作品の魅力を一層引き出せるでしょう。
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参考文献
- IMSLP: Flute Sonata in E minor, BWV 1034
- Bach Cantatas Website: BWV 1034
- Bach Digital (総合データベース)
- Wikipedia: Flute sonatas (Bach)
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