バッハ BWV1070 — 管弦楽組曲第5番ト短調:来歴・真偽・音楽的魅力を読み解く

概説 — BWV1070とは何か

BWV1070は「管弦楽組曲第5番ト短調」として音楽史上にしばしば記載される番号ですが、その帰属は長らく議論の的となっています。かつてはヨハン・セバスティアン・バッハの作品目録(BWV)に含まれてきたものの、近年の研究では自筆譜や確実な18世紀の伝来状況に疑問があり、作曲者が明確でない疑わしい作品(spurious)とする立場が有力です。

来歴と伝承の経緯

バッハの管弦楽組曲(オーヴェルトゥーラ)とされる作品群には、確実にJ.S.バッハの筆によると認められるBWV1066–1069(第1〜第4番)のほか、番号付け上はBWV1070として扱われる楽曲が伝わっています。しかし、BWV1070を裏付ける一次史料(バッハ自身の自筆譜や確実に18世紀に遡る写譜)は見つかっておらず、伝承は比較的遅い時期の写本や出版社の扱いに依存している点が指摘されます。そのため19世紀以降の編集出版の過程でバッハ作品群に組み込まれた可能性があり、成立時期や原作者には不確定要素が残ります。

作曲者問題 — なぜ疑われるか

作風面、写譜の伝来形態、楽器編成の傾向などから、BWV1070はJ.S.バッハの他の管弦楽組曲と差異を示すと評価されることが多いです。具体的には以下の点が論点になります。

  • 様式的特徴:フランス風序曲を中心とするバッハの他の組曲群に対して、BWV1070にはより“ガラン”(galant)な簡潔な体裁や当時の流行を反映する要素が混在していると指摘されることがあります。
  • 写譜の系譜:信頼できる18世紀の一次史料が乏しいことから、後世の編者や弟子・周辺作曲家の作品が誤ってバッハに帰された可能性がある点。
  • 音楽学的評価:和声進行や対位法の扱い、管弦楽の書法などが、バッハの成熟期作品とは一致しないとの見解を示す研究者が存在すること。

これらの事情から、現代の主要な楽曲目録やオンライン資料ではBWV1070を「疑わしい(spurious)」または「帰属未確定」として扱うことが多くなっています。

楽曲の音楽的特徴(聴きどころ)

BWV1070という表記で伝わる組曲を実際に聴くと、以下のようなポイントが注目されます(作品が示す一般的な特徴として)。

  • ト短調という調性は、バッハの管弦楽組曲群では珍しく、陰影や哀感を感じさせる色彩を与えます。
  • フランス風序曲(オーヴェルトゥーラ)に続く舞曲群では、短い舞曲や舞踊的リズムが並び、軽快さと陰影が交互に現れる構成が多くの演奏で確認されます。
  • 管弦楽の使用法は、小編成の弦楽+管楽器や通奏低音を中心に、多様なソロ楽器が配される録音例もあり、編成によって雰囲気が大きく変わります。

ただし上記の聴きどころは、演奏版や編集譜の違いによって変わるため、史料に忠実な校訂版か後世の補筆を含む版かを確認して聴くことが重要です。

編成・演奏実践の留意点

BWV1070を演奏する際には、次の点に配慮すると作品の特性を引き出せます。

  • 編成選択:原典が不確かであるため、バロック室内楽的な小編成(ゴールドベルクや古楽器アンサンブル)と、近代オーケストラ風の中編成とで色合いが大きく変わります。古楽奏法を採ると舞曲のダンス性やアゴーギクが生きやすくなります。
  • 装飾音と発想:当時の舞曲に即した装飾、フレージング、テンポ感を尊重すること。特に序奏的な部分はフランス風序曲の規則を参照しつつ、作品固有の表情を探ると良いでしょう。
  • 史料比較:複数の版(19世紀の出版譜や現代版校訂)を比較し、どの箇所が後補・訂正の可能性が高いかを把握すると、演奏上の解釈の幅が広がります。

録音と受容

BWV1070は、正規の『管弦楽組曲全集』に必ずしも含まれないことが多く、録音は限られています。古楽アンサンブルや小規模オーケストラが興味を持って録音する例がいくつかあり、作曲者問題を意識した解説つき盤や、網羅的なBWV録音プロジェクトの補遺として収録される場合が多いです。聴取の際は録音の版情報(校訂者、出典写本、補筆の有無)を確認することを勧めます。

学術的評価と今後の展望

音楽学の分野では、デジタル化された楽譜資料や写本の詳細な比較、筆跡や用紙・筆記法の科学的な検証が進んでおり、過去に曖昧だった帰属問題も徐々に解明されつつあります。BWV1070についても、将来的にはより確かな出自が明らかになる可能性がありますが、現時点では慎重な扱いが求められます。

まとめ

BWV1070 管弦楽組曲第5番ト短調は、題名や番号の示すようにバッハ作品の一部として紹介されることがありますが、その正当な帰属には不確定要素が残ります。音楽的にはト短調の色彩や舞曲的な魅力を持ち、演奏・録音によって様々な側面が楽しめる一方で、史料学的視点からの検証が欠かせません。聴く側としては、版や録音の出典情報に注意を払いながら、その音楽性を純粋に楽しむことと、歴史的事実を分けて理解することが大切です。

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参考文献